「これがお金……!」
バンとキングが無言でパイをむしゃむしゃ食べ出してから遡ること数時間前、エレインはバンに貰ったお小遣いを親の敵でも見つけたかのような目つきで凝視した。
「おいおいエレイン、人様からかっぱらった金じゃねぇから安心しな♪」
「やっ、やぁねバン、そんな事心配してないわ。ただこう、話だけはさんざん聞いていたけど、実物目の当たりにしたら顔がこわばっちゃって」
「とにかくだ、これと物や食事を交換するのはわかってるな?」
「うん、バンとのお買い物で見ていたから」
「時々ぼったくる……等価以上の金を騙し取ろうとする不届きな奴もいるが、ここの街じゃまずないから大丈夫だ。万一そうでもお前なら見破れんだろ♪ とにかくこれはお前んだ、好きに使って楽しんでこい♫」
そんな言葉とともに送り出されたエレインは、初めてバン抜きの、そして女の子だけの《お出かけ》に出掛けていった。
そんな彼女は今、人気の店でその店自慢の焼き菓子とお茶を囲み、他愛ない話に花を咲かせていた。
「でもほんとにお金がないと何もできないのね」
しみじみエレインが呟くと、ディアンヌも大いに首を縦に振る。
「街では特にね〜。でもわかりやすいよ、このクッキーだって……ん〜おいしー!」
「ふふっ、ディアンヌったら。エレインはいつもバン様のお菓子を食べてるから物足りないんじゃない?」
「そ、そんなことないってばエリザベス。ここのもバンのとは違う美味しさが……」
「バンのお菓子最高だもんね〜?」
「からかわないでよ、もうっ」
エレインはニヤニヤ笑うディアンヌに小さく苦笑を漏らすと、表情を少し改めた。その様子に気づいたエリザベスは「どうかした?」と水を向ける。
「あのね。実は私、二人にちょっとした相談があって」
友の心遣いを有り難く感じつつ、エレインはカップの縁を指でなぞりながら言った。
「実はもうすぐ私のお誕生日なんだけど」
「勿論知ってるよ! 実はボクたちキミに……」
「ディアンヌ!」
「あわわ、何でもない! で、どうしたのエレイン」
「え、えっと、つまり」
よっつの大きい瞳の強い光を受けて、エレインは少しだけ照れくさそうに「お誕生日会を開きたいと思っているの」と告白した。