バンはクロスワードパズルと格闘していた。全く興味もやる気もなかったのだが、キングがヒィヒィ言いつつも解けないでいるのをからかったら「じゃあキミがやれば。できないだろうけど!」と言って置いていったからだ。
こんなんに好き好んで時間割いているやつの気がしれねぇ!
何度も本を破り捨てようとしたが、のちのちキングが「はーん。なんだ、やっぱりキミもできなかったんだね」と妙な上から目線の煽り顔でドヤってくるはさらに耐え難い。
「ここは、こうだよ」
そこに突然ゴウセルが、バンと本の間に首を突っ込んできて、言った。
「こっちの答え、こう」
「マジか、ほかも分かるか?」
「すぐに全部分かるよ」
「ありがてー! 全部教えろ!」
「いいよ」
ゴウセルは嬉しそうにニッコリ微笑み、快くすべての回答をバンに教え示した。
「あー、助かったぜゴウセル♫ これでキングドヤ顔の刑から逃れられたわ♫ 今度奢るぜ!」
「俺は飲食できないからいいよ。バンが喜んでくれて満足」
ゴウセルは幸せそうに答えたが、ふと表情を曇らせて「でも……」と唸った。
「なんだ、関節に油でも刺すか?」
「俺はそういう動力じゃないから大丈夫。じゃなくて、バンは喜んでくれたけど、キングには叱られたんだ、教えるなって。悩んでいたから教えてあげたのに」
「ああ……」
「いったい何が、いけなかったんだろう」
しょんぼりと丸い頭が垂れる。ゴウセルは真剣だ。バンも何時もなら知るかと突っぱねる所だが、いつものほほんとしている仲間があまりにもしょげ返っているのと、実質すべての問題を解かせた恩義もあるので、真面目に答えてやることにした。
「奴がドMだからだ」
「えっ?」
「この世にはいるんだよ、好き好んで苦しみたい性癖の持ち主が」
「それってバンみたいに?」
「俺はべつにドMじゃねぇし、痛いの楽しいのは肉体的な方だ」
それってドMって自白しているよね、とゴウセルは思ったが、話が続く気配に黙ったまま目線で先を促した。
「そうじゃなく、精神的な苦痛が楽しい方だ。わざわざ解けない問題に悶々としているのが気持ちいい輩だ。キングはそれ♪」
「そっか」
ゴウセルは目の前が開けた心地がした。ならばあのキングの態度にも納得だ。悪いことしちゃったな、と。
「しっかりメモリーした。人の心って複雑だけど面白いね。これからは気をつける。ありがと、バン!」
「オウ♪」
こうしてゴウセルはまた、一つ人の心を学んでより良く愛される人形に近づいたのだった。
オシマイ!