「ベリーパイがとってもおいしく焼けたの。兄さん食べに来てね!」
たった一人の可愛い妹が心にそう語りかけてきたので、キングは大喜びで彼女の住まいを訪ねていった。
なるほどそれは、甘くてとってもいい香りのする、見るからに美味しそうなこんがりパイだ。しかもたっぷりのクリームが添えられている!
「どうした、食えよ♪」
……ただ妹の姿はそこになく、キングを出迎えたのは見飽きた悪人面の大男だけだったのだが。
「あン? エレインならお出かけだっつーの♪ てかディアンヌも一緒だろ」
「だよね! ああもうオイラのバカー!……あれ、じゃあ何故呼ばれたんだ?」
「俺が頼んだ」
思いもかけないその言葉に、キングは思わず椅子ごと後ずさる。
「何それ。まさかエレインには聞かせられないような話でも?」
「……まぁな」
何時になく深刻な友の様子にキングもつられて固唾をのむ。まさかエレインの体調に何かあったとでもいうのだろうか。
「妖精って誕生日に何かやんのか?」
「へ?! あ、ああ、生まれた日は宴を開くけど、あとは数十年、百年の節目とか気分次第かな。って何、それだけ?」
だがバンは答えない。どこでもない所を睨みつけ、じっと何かを考えている。
「……誕生日、の……プレゼント?」
「勝手に人の心読むんじゃねぇ、ゴウセルか♪」
「ごめんよ、だってさ……。え、待って。誕生日? え、エレインの? えっ、今月?」
キングもそう呟いたきり、テーブルの下の方の何もない空間を睨んだまま固まってしまった。
「オイキング……テメェ、まさか」
「どどどどうしようバン。何百年も放っておいたから、今年は目一杯お祝いしようと思ってたのに〜!」
「ああクソ! テメェなんぞ頼ろうとした俺が馬鹿だったよこのクソ兄貴!」
二人は額がくっつきそうになる距離で、ぐぬぬと睨み合っていたが、やがてどちらからともなく離れると、お互い黙ってむしゃむしゃパイを食べた。