巨人族のディアンヌはひまわりのように明るいとってもいい子で、兄のキングことハーレクインが首ったけになるのも納得だ。だからって何かにつけて胸の間に挟まるのは如何なものか。しかもお付き合いする前からしょっちゅう挟まっているのを私は知っている。幾らディアンヌがいいと言ったからって。女性の胸の谷間よ。どうなのそれは、兄さん!
……と、エレインはかねてからそのように思っていた。だからそう言った。ちょうど今、エレインの目の前で彼女の兄が友人のディアンヌの胸の谷間に挟まっていたので。
「違うのエレイン。仕入れで疲れていたから、ボクがここにどうぞって言ったんだよ」
心優しいディアンヌはキングが何か言い訳をする前にエレインに説明した。それは事実だろう。けれど問題はそこじゃない、とエレインは思う。だって兄さん、気まずそうに目をそらしてるもの。
けれどもそれをディアンヌを傷つけないようにどう説明するべきか考えあぐねていると(この際兄はどうでもいいと思った)、突然ディアンヌは「あ、そっか!」と手を打った。
「二人で仲良く入ればいいよ! エレインもどーぞ!」
「えっ、ひゃっ……」
エレインはひょいと持ち上げられ、抵抗するまもなくディアンヌ胸に間におさまった。
ふわっ。
……んんん?!
一瞬思考が真っ白になる。
ふわぁ。
なんというあたたかさ。まろやかさ。いい香り。まるで綿毛に包まれるような。ひだまりに抱かれているかのような……
「……ハッ?! あ、ありがとうディアンヌ。もう十分よ!」
「そう? また後でね~!」
エレインはディアンヌの胸に挟まれたままの兄を置き去りにして、慌ててその恐るべきふんわり空間から飛んで出た。
「危ないところだったわ」
急いで帰って、妖精姫はバンに報告した。
「危なく兄さんになるところだった。ごめんなさい、バン……」
「マジか♪ 俺の推っぱいより良かったかよ〜?」
「そ、そんなことはないのよ本当に!ただ、なんていうか未知の世界というか、異次元というか」
「カカッ♪ 冗談だからそんな慌てんなって。まぁ少し気持ちはわかるからよ」
「え、バンも……?」
さっき挟まれたばかりの自分が言えることではないが、ほんの少しギクリとする。あればっかりはエレインにはどうしようもないものだ。それに気づいたのかバンは「いや、胸じゃねーけどよ」と苦笑した。
「アイツにギュってされるとよ……」
「ギュって……?」
胸が軋む。エレインはディアンヌ相手までに嫉妬を感じる己が嫌だと思った。
「こう、ディアンヌの手のひらで俺の全身を」
「ん?」
が、少し話の風向きがおかしくなってきた。
「ギュ、って」
バンは手をギュ、っと握りつぶすゼスチャーをする。エレインの口が開いた。
「もう瞬間圧死だっつーの♪ あれはちょっと癖になったわ〜♫」
「へ、へぇー……」
エレインの胸の軋みは取れた。でも、それも私には無理だ、色んな意味でと思った。
「エレインのギュ、はもっと好きだぜ? 大木にしがみついている子豚みたいで可愛い♫」
「……もう!」
結局、エレインはそれ以降、彼女の兄が義姉の胸に挟まることについて言及することはなかった。
けれども一言も弁明の機会を与えられなかったキングは、ずっと胸がモヤモヤしたままだった。
……胸の話だけに。
どっとはらい