朝日がカーテンの隙間からこぼれ、バンの輪郭を光の線できれいに縁取る。眠るバンの顔は日中よりも穏やかで、幼くさえ見える。エレインはそれを眺めるのが好きだった。本人には内緒だが、運命の七日間、あの頃もこうして《変な人間》を眺めていたものだ。
この寝顔をずっと見ていたい、いや、できれば起きている時も。でも起きたら何れはこの森から出ていってしまうだろう。だったらいっそずっと寝ていればいいのに。
あの頃はそんな事を考えていたっけ、とエレインは小さな痛みとともに思い出す。今ではもう、もうそんな心配はいらないのだ。
―― 一度は喪った筈の命。もう二度と貴方とこうして過ごす事など叶わない筈だったのに、私の命も願いも奪い返してくれたバン。長いだけの生に倦んでいた私だけれど、今は生まれてきた事に、生かしてくれた貴方に感謝しているの。この気持ちを私が生まれた日に、形にして伝えたい。
《何か出来る事を……エレインの得意な事って?》
不意に友の言葉が蘇る。
……私にできる事かぁ……。そういえば妖精界にいた頃はどうして過ごしていたかしら。あそこは時の逃れもゆったりで、のんびり過ごしていたけれど。それに別に得意な事と言っても……。
「……あ!」
ふと古い記憶の中に、小さな閃きが光る。無意識に起こしたそよ風に、眠っていたバンのまつげが揺れた。