キーアと誕生日今後のためと一時支援課が解散し。そして新しいメンバーを迎えて再始動してすぐの頃。
日曜学校から帰ってきたキーアはどこか元気がなく、しょんぼりとしていて、お帰り、と言いながら手を広げ、いつものように突進してくるのを待ち構えていたロイドは目を瞬かせた。
「どうしたんだ? キーア。なんだか元気がないみたいだけど」
「ロイド。……ねえ、ロイドにも、エリィやティオやランディにも、みんなおたんじょうびがあるんだよね?」
「あ、ああ、そうだな?」
「きょうね、おたんじょうびだから、おうちでお祝いしてもらうんだってうれしそうにしてる子がいたの。けど、キーアのおたんじょうびはだれも知らないでしょ? だから、だれにも祝ってもらえないのかなあって」
話をしながらだんだんうつむいていくキーアの声はひどく寂しそうで、胸が締めつけられ。そんなことない、とロイドが言おうとした瞬間、それは違うんじゃないかな、と柔らかい声が割って入った。
「ねえ、キーア。誰も知らないならさ、作っちゃえば良いんだよ。この日がわたしの誕生日ですってさ」
「え? ……でも」
「私もそう思うな」
「ノエル?」
「いつか、本当の誕生日を思い出すまでは、キーアちゃんの好きな日をお誕生日にしても良いんじゃないかな」
どうやら話を聞いていたらしいワジとノエルの言葉にぱちくりと瞬きをしたキーアは、そっとロイドの顔をうかがう。なのでロイドも頷き、俺もそれで良いと思うよ、と答えれば、ようやく笑顔を取り戻したキーアに飛びつかれ。
危うくバランスを崩しかけたもののどうにか踏ん張ったロイドは、キーアをぎゅっと抱きしめた。
「それで、キーアちゃんはいつが良いの? お誕生日」
「んーとね、えーとね。……ロイドと、みんなと会った日が、良いかなあ」
「ああ、あのオークションの。……良いんじゃないかな? ね、ロイド?」
「距離が近いぞ、ワジ。……良いのか? お祝いするのは来年になっちゃうけど」
「うんっ」
「そうか。なら、来年は盛大にお祝いしないとな。もちろん、ティオやランディも一緒に」
「あら、何の話?」
「ああ、エリィ。食事の支度は終わったのか?」
「ええ。後は盛り付けるだけよ」
「そうか。なら、食事をしながら話すよ。ほら、キーア。手を洗ってこないと」
「は~い!」
「……フフ。すっかり元気になったね」
「ああ。……ワジ。ノエルも、ありがとな」
「いえ、そんな大したことはしてませんから」
「そうそう。それに、僕たちが何も言わなくたって、きっと君が同じような事を言っただろうし。まあ、僕たちよりだいぶクサい言葉にはなりそうだけど」
「ワジっ!」
「ふふっ」
「……なんだか楽しそうね? 後で私にもちゃんと聞かせてね。それじゃ、ロイド。盛り付けと配膳を手伝ってもらえるかしら」
「わかった」
「キーアも手伝う!」
「なら、キーアちゃんはテーブルを拭いてくれる?」
「うん!」
こうして話はまとまった。だが翌年、クロスベルは帝国に飲み込まれ、ロイドは出頭を拒み指名手配され。キーア自身もそんな事などすっかり忘れたまま迎えた1207年4月。
日曜学校から帰ったキーアが見たのは、綺麗に飾りつけられた室内とたくさんの料理が並べられたテーブル。そしてクラッカーを鳴らすロイドたちの姿だった。
「ええと。……きょうって、誰かのおたんじょう日だったっけ?」
驚いたキーアは瞬きをしながらロイド、エリィ、ティオ、ランディ、そしてセルゲイと、その場にいたメンバーの顔を順繰りに見回し、首を傾げる。
その様子に、やっぱり忘れてたか、と頭をかいたロイドが、今日はキーアがここに来た日だよ、と告げ。3年ほど前、誕生日はこの日が良いと自分が言った事を思い出したキーアは、おぼえてて、くれたの? と少し涙ぐみながら言う。
それに、忘れる訳ないだろう? だって大切な家族の事なんだから、と答えたロイドは、ほら、とキーアを促し。
泣き笑いの表情を浮かべたキーアは全力のタックルを決め。受け止めきれず、後ろに引っくり返りそうになったロイドをいつの間にか背後にいたランディが支え、その様子をくすくすと笑いながらエリィとティオが眺め、セルゲイはやれやれと肩をすくめて。
やがて外から戻ってきたツァイトや、やって来たワジ、ノエル、リーシャ、それにアリオスとシズクも交えて、キーアの2年越しの誕生日会は賑やかに、そして和やかに過ぎていくのだった。