キスの日 支援課ver「ねえ、ロイド。仲良しだとキスするのはどうして?」
キーアからそんな発言が飛び出したのは、日曜学校から帰ってきてすぐの事だった。
その内容に、ロイドはぶふっ、と飲んでいたコーヒーを吹き出し、エリィは手元が狂ってカップに注ごうとしていたコーヒーをこぼし。ランディとティオは比較的冷静に見えたが、やはり動揺はしているのかカップを持つ手が震えている。
「げほっ、ごほっ、ごほっ」
「だ、大丈夫? ロイド」
「エリィさん、落ち着いてください。それは台拭きです」
「お前の持ってるのは雑巾だぞ、ティオすけ」
そんな阿鼻叫喚を眺めながら首を傾げたキーアは答えが返ってこないため再び同じ質問を繰り返し。
どうにか立ち直ったロイドは、どうしてそんな事を聞くんだ? と尋ねた。
「んっとね、日曜学校でね、お父さんとお母さんはよくキスをしてるって、仲良しだからだって言ってる子がいたの」
「そ、それはまた……」
「ずいぶんませたガキンチョだな?」
「ランディっ!」
「なかなか難しい問いですね」
「ええ、そうね。……ということでロイド、任せるわ」
「えっ」
「キー坊はお前をご指名だからな。まあ頑張れ」
「ちょっとランディ!?」
「頑張ってください、ロイドさん」
「ティオまでっ」
他のメンバーから押しつけられたロイドは頭を抱えたくなった。なぜ、と言われても、したいからするとしか答えようがないからだ。
だがキーアはキラキラと期待に目を輝かせてこちらを見ていて、保護者としてきちんとした答えを返してやらねば、という責任感、あるいは使命感のようなものがわき。頭を捻り、ロイドが絞り出した答えは単純なものだった。
「好きっていう気持ちを、相手に伝えるため、かな」
「言葉だけじゃだめなの?」
「う~ん。言葉に出すだけじゃなくて、もっとたくさん好きだって伝えたいんだよ」
「ほえ?」
「そうだな……」
だがなかなかキーアには伝わらず。少し考えたロイドはキーアを手招きすると、好きだよ、と言う。そして次にぎゅっと抱きしめ、ふわふわと柔らかい髪にちゅ、とキスを落として、どっちがたくさん伝わった? と首を傾げ。
にこりと笑ったキーアはわかった気がする! と言うと、キーアの目線に合わせてしゃがみ込んでいたロイドの頬にキスをして、えへへ、とはにかんで、顔を真っ赤にしたロイドと、ロイド(さん)だけずるい、とぎゃあぎゃあ騒ぎ出すメンバーに、今日も平和だ、とツァイトはくあ、とあくびをするのだった。
「わかってもらえたなら良かった。ああ、でも、口はダメだぞ?」
「そうなの?」
「そこはな、一番大事で、自分の、何もかもをあげても良いと思った人とだけするんだ。そうだな、今はまだわからないかもしれないけど。もう少し大きくなればきっとわかるよ」
「う~ん? よくわからないけどわかった!」
「そういうお前さんには、何もかもをあげたい相手ってのはいるのか?」
「うわ、ランディ!? ……別に、答える必要はないだろ」
「あら。私も少し気になるわね」
「ですね。天然たらしなリーダーの恋愛事情は、トラブル防止のためにも把握しておきたいところです」
「それらしく理由をつけてるけど、ただ気になるだけだろう!? ……今のところ、そういう相手はいないよ。これで良いか?」
「本当かしら? 気になる相手とか」
「逆にすげえ気に入られてる相手とか」
「いたりするんじゃないですか?」
「しつこいぞ。というか意気投合するな! いないったらいないからっ」
「あ。出ていってしまいましたね」
「ちょっとからかい過ぎたかしら?」
「ま、すぐ戻って来るだろ。だってあいつ、今日の夕食当番だし」
「今日はね、キーアのためにオムライス作ってくれるんだって!」
「あら。それなら確かにすぐ戻って来るわね。なら少し待ってましょうか」
「だな。……ああ、キー坊。もし口にちゅーしたいと思えるような相手が出来たら、すぐに言うんだぞ?」
「うん、わかった~」