等分より少しだけ【五七】学生の本分は勉学である。
しかし呪術高専という場所は特殊であり、勉学と呪術師としての任務が半々。時期によっては任務の比率が上がるわけで。そこに青い春など求めようものなら「時間は有限である」という言葉がすっぽりと似合ってしまうわけだ。
「なにしてるんです?」
簡易な単独任務を終えて教室に戻ると、灰原、夏油先輩、家入先輩、の三人が一つの机を囲って何やら真剣そうに話をしている。そこ、私の机なんですけどね。
「あ、七海お帰り!任務終わった?明日おめでとうだよ!」
「灰原、主語」
「灰原、七海はこういったものを気にしないタイプだよ。かといって悟も無関心だろうし。困ったねえ」
「夏油先輩、主語を下さい」
「七海、御愁傷様」
「家入先輩に至ってはまったく話が見えません」
会話の成り立たない遣り取りを順繰りに終えた所で、机の上の雑誌に目を移す。誰が持ってきたのかコンビニにもありそうな世俗強めのカラーページ。さらにページの見出しが酷かった。
『誕生日なんてもう古い!ラブ恋デートは真ん中バースデー!』
このキャッチフレーズを採用した編集部のセンスを疑う。誕生日に古いも新しいもない。根本として日本語が間違っている。ページのセンスもどうかしている。真ん中バースデーって。記念日を増やしてブランド物を買わせようという企業戦略駄々漏れな、高級ブランドバッグの写真が散りばめられていた。
「くだらない」
「えっとねえ、七海と五条先輩の真ん中バースデーが明日なんだよ!凄くない?」
「くだらなすぎる」
「さっき悟にも教えてあげたんだけど、反応薄くて」
「というか、なぜ私と五条先輩で調べてるんですか」
「七海、7:3のが良かったか?分かった計算し直そう」
「家入先輩に至っては喧嘩売ってます?」
さっきからこの三人はなんなんだ。同じ順番で喋らないと気が済まないのだろうか。
「「「だって付き合ってるじゃん」」」
「は?」
目眩がした。
ああ。
五条悟かコノヤロウ。
「内緒で付き合ってるんでしょ?さっき五条先輩も戻ってきたし、この後デートぐらいしておいでよ!」
「内緒で付き合ってるならこっそり抜け出した方がいい。学長が心配なら安心していいよ。適当に誤魔化しておくから」
「内緒だもんな。土産は東京駅で一番行列が出来てる店の菓子でいいぞ」
もう貴方達三人でトリオでも組んだらいい。息がピッタリだ。そして『内緒』の意味を辞書で三回ずつ暗唱してくれ。そしてなによりも「内緒にしとけよ」と冒頭に付けて三人にウズウズと話したであろう五条悟を今すぐひっぱたきたい。
「死にたい。そして死ねばいい」
「七海って意外と口が悪いよね!」
私は、なんとなく始まった「時間は有限である」の隙間を必死に駆使しながら紡いでいる先輩後輩という関係以上の年頃より背伸びをした二人の関係について、必死に隠していた自分の努力を嘲笑した。
【続く】