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    41rau0

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    彰冬/付き合っている

    #彰冬
    akitoya

    既に掴まれていた 古くなった紙のにおい、埃が混ざったような空気、ページを擦っただけでもよく響くほどの静寂。まるで異世界にでも迷い込んだような心地になるので、図書室が好きだ。だから、クラスメイトが「退屈そうだ」と言った図書委員の仕事も、冬弥にとってはまったく苦ではなかった。
     あるべき場所にない図書を本棚から掬い取って、背表紙を確認して、本来の居場所を探す。その間にまた迷子の図書を見つけて、拾う。気がつけば、本をミルフィーユ状に重ねた左腕はずっしりと重くなっていた。
     ふう、と息を吐いた。
     この学校には無頓着な人間が多いのだろうか? と流石に疑問に思う。本があるべき場所になければ、後で困るのは自分たちだろうに。
     背後の窓から、白くてやわらかい光が手元を照らしてくる。辞書サイズの単行本、そのカバーの際が経年劣化でふさふさとしていて、黄ばんでいた。対して、表面はカラカラに渇いた大地のよう。それをつうっと撫ぜていると、
    「冬弥」
     ふっと浮かび消えるシャボン玉のような声がした。
     ハッと顔を上げて声がした方向を見ると、彰人が立っていた。
    「彰人」一瞬、彼の名前だけ呼んで言葉を失った。今日の彰人は、サッカー部の助っ人に駆り出されていた。それは知っている。その後は外で待ってくれていたはずだが。「すまない。遅かったか?」
     おそらく冬弥の仕事が遅いあまり、心配でもしたのか痺れを切らして入室してきたのだろう、と予想をつけてひとまず謝罪した。
    「いや」
     しかし、彰人はそう短く言って、視線をずらし否定した。そうか。と頷いた。どうしたのだろうか。口角が下がっていて、なんとなく元気がないような気がするが。ふっと口を開きかけたが、違っていたら失礼かと思いすぐに閉じた。このまま彰人が口を開くのを待つか、これ以上待たせないように仕事を進めるかで、逡巡する。
    「……。あと、どのくらいかかる?」
     彰人の声は少し掠れていて、トーンも低くて、心配した。でも、彼ならそういった弱みにも似た部分に対する指摘を嫌がるだろう。
    「まだかかると思う。すまない、早く終わらせるから待っていてくれないか」
    「あー……」困ったような、苛立ったような声で、視線を揺らめかせる彰人。横目で本棚を見る。あ、とまばたきした。手持ちの本たちのどれかに、ここに帰るべきものがあったはずだ。背表紙を確認していると、不意に背中にあたたかいものが触れ、胸と腹をギュッと優しく抱き込まれる。彰人だった。少し本に気を取られているうちに背後を取られたらしい。
     わずかに振り向くと、鮮やかなオレンジ色の毛髪が見えた。肩に顔を埋めているようだった。
    「彰人? 動けないんだが……」
    「悪い。ちょっとだけ、このまま」
    「そうか」
     腕の中にある一冊を本棚に戻して、がっちりと締めつけてくる腕に手を添えた。
    「どうしたんだ? 何かあったのか」
    「何もねーよ。マジで、なんとなく」
    「そうか。それなら、よかった」
     もしそれが本当ならば。
     寂しくなってここまで来てしまったのだろうか。
     急に居た堪れなくなって、自分を求めにきてくれたのだろうか。
     だったら嬉しいな、と思って、自然と口角が上がる。彰人は自分で自分を守ろうとするから、どういう形であれ頼ってもらえることが嬉しかった。
     彰人の熱い手は、冬弥の心臓を掴むように胸を捕らえている。このままでは鼓動が高鳴っていることが筒抜けになってしまうな、と思った。喉が酷く渇いた。早くここから出て、水を飲みたい。
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    41rau0

    MOURNING那由多+賢汰/那由多の何気ない日常回です。(2024/12/15イベントで頒布したペーパーの内容です)
    夜明けは訪れる ひゅう、と穴に落ちたような浮遊感とともに、脳みそが一瞬青白くなる。反射的に瞼をひらく。次の瞬間には、視界いっぱいに見慣れた自室の光景が広がっていて、思わず安堵の息を吐くと、浅かった呼吸が次第に落ち着くのがわかった。
     重たい身体をゆっくりと起こした。シーツが自分の体温で生ぬるい。下を向くと、頭が脳震盪でも起こしたかのようにぐわんぐわんと揺れて吐きそうになった。ドクドクと喉の奥が脈打つ。ひゅう、と喉が鳴った。
     無音の部屋を見渡す。たまに猫用の扉から入り込んだにゃんこたろうが寝ている間にベッドの隅で丸まっていることがあるのだが、今日は彼女の気分ではなかったらしい。
     ――嫌な夢を見た気がする。
     寝覚めが最悪だったのでそう確信したのだが、内容が思い出せなかった。無理矢理思い出そうとすると傷つけて擦り切れたVHSのごとく、モザイクがかかった映像がプツプツと途切れて頭の中で再生される。その不気味さをただただ不快に思った。スウェットと肌の間に熱気がたまっていて、じっとりと汗を搔いているのがわかった。指で少し襟元を開けると冷たい空気が直接入ってきて、ぶるりと震えた。
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    41rau0

    DONEみゆりょ/涼さんが物理的に大きくなる話
    20240505イベントにて配布した無配ペーパーの本文です。ありがとうございました!
    おっきくなっちゃった! 今朝の涼ちんは確かにいつもと同じ、俺とほとんど同じ目線に立っていたはずで、大学の理系学部棟の前で別れた時も「いってきまーす」とにこやかに手を振っていたはずだった。間違いなかったと思う。いつも通りの何の変哲もない日常だった。だが夕方になんとなく見たネットニュースの速報記事でなんとなく嫌な予感がして、俺は西新宿の河川敷へ急ぎ向かった。
     見出しは『新宿の河川敷に巨大人類あらわる』。異常で、突飛な内容だった。写真すら用意されていないし、きっと何かと見間違えたんだろう。それが何か、って言われたらちょっとわからないけど、とにかく裏取りも不十分な誤報だと思った。俺だって、そんなニュースにいちいち踊らされるほど純粋でもミーハーでもないし、どうせ時間が経ったら風化するネタだろうなって俯瞰した見方ができるはずだったのに、根拠のない胸騒ぎで自然と足が動いた。不自然なほど鮮やかなオレンジ色に染まった空の下、記事に載っていた河川敷には人だかりができていて、その後ろから土手の下のほうを覗き込む……までもなく、よく見慣れた後ろ姿が見えた。
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