Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    41rau0

    @41rau0

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 18

    41rau0

    ☆quiet follow

    彰冬/付き合っている

    #彰冬
    akitoya

    既に掴まれていた 古くなった紙のにおい、埃が混ざったような空気、ページを擦っただけでもよく響くほどの静寂。まるで異世界にでも迷い込んだような心地になるので、図書室が好きだ。だから、クラスメイトが「退屈そうだ」と言った図書委員の仕事も、冬弥にとってはまったく苦ではなかった。
     あるべき場所にない図書を本棚から掬い取って、背表紙を確認して、本来の居場所を探す。その間にまた迷子の図書を見つけて、拾う。気がつけば、本をミルフィーユ状に重ねた左腕はずっしりと重くなっていた。
     ふう、と息を吐いた。
     この学校には無頓着な人間が多いのだろうか? と流石に疑問に思う。本があるべき場所になければ、後で困るのは自分たちだろうに。
     背後の窓から、白くてやわらかい光が手元を照らしてくる。辞書サイズの単行本、そのカバーの際が経年劣化でふさふさとしていて、黄ばんでいた。対して、表面はカラカラに渇いた大地のよう。それをつうっと撫ぜていると、
    「冬弥」
     ふっと浮かび消えるシャボン玉のような声がした。
     ハッと顔を上げて声がした方向を見ると、彰人が立っていた。
    「彰人」一瞬、彼の名前だけ呼んで言葉を失った。今日の彰人は、サッカー部の助っ人に駆り出されていた。それは知っている。その後は外で待ってくれていたはずだが。「すまない。遅かったか?」
     おそらく冬弥の仕事が遅いあまり、心配でもしたのか痺れを切らして入室してきたのだろう、と予想をつけてひとまず謝罪した。
    「いや」
     しかし、彰人はそう短く言って、視線をずらし否定した。そうか。と頷いた。どうしたのだろうか。口角が下がっていて、なんとなく元気がないような気がするが。ふっと口を開きかけたが、違っていたら失礼かと思いすぐに閉じた。このまま彰人が口を開くのを待つか、これ以上待たせないように仕事を進めるかで、逡巡する。
    「……。あと、どのくらいかかる?」
     彰人の声は少し掠れていて、トーンも低くて、心配した。でも、彼ならそういった弱みにも似た部分に対する指摘を嫌がるだろう。
    「まだかかると思う。すまない、早く終わらせるから待っていてくれないか」
    「あー……」困ったような、苛立ったような声で、視線を揺らめかせる彰人。横目で本棚を見る。あ、とまばたきした。手持ちの本たちのどれかに、ここに帰るべきものがあったはずだ。背表紙を確認していると、不意に背中にあたたかいものが触れ、胸と腹をギュッと優しく抱き込まれる。彰人だった。少し本に気を取られているうちに背後を取られたらしい。
     わずかに振り向くと、鮮やかなオレンジ色の毛髪が見えた。肩に顔を埋めているようだった。
    「彰人? 動けないんだが……」
    「悪い。ちょっとだけ、このまま」
    「そうか」
     腕の中にある一冊を本棚に戻して、がっちりと締めつけてくる腕に手を添えた。
    「どうしたんだ? 何かあったのか」
    「何もねーよ。マジで、なんとなく」
    「そうか。それなら、よかった」
     もしそれが本当ならば。
     寂しくなってここまで来てしまったのだろうか。
     急に居た堪れなくなって、自分を求めにきてくれたのだろうか。
     だったら嬉しいな、と思って、自然と口角が上がる。彰人は自分で自分を守ろうとするから、どういう形であれ頼ってもらえることが嬉しかった。
     彰人の熱い手は、冬弥の心臓を掴むように胸を捕らえている。このままでは鼓動が高鳴っていることが筒抜けになってしまうな、と思った。喉が酷く渇いた。早くここから出て、水を飲みたい。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏😭💖💖🙏👍💯💖💖💖💖💖😭😭😭☺❤💖🌋💞🙏💖😭❤😭😭💘❤❤❤👏☺☺💖💖💖💖💖💞❤❤❤💕💕💕💕💕❤💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works