【現パロ】線香花火 『線香花火をしよう』
部屋の隅で忘れられたように残っていた線香花火。僕はそれを夏休み最後の逢瀬の口実として使い雅は可愛いらしい純白のワンピースと薄手のカーディガンを羽織って現れた。僕じゃなかったらそのまま襲ってしまっていたところだと思いながら本能を押し殺して片手を上げて雅を招いた。
「前に学校の男連中でやったんだが男でやると線香花火に手をつけることはなくてね」
「そういうものですか?」
「そういうものだよ。でも、残っているの見つけてさ雅とやれたらな〜って思ってたから来てくれてよかったよ」
肩がくっつくほどの距離で雅は線香花火の先の火を見つめている。嬉しそうな幸せそうな顔だった。
「私、線香花火って好きなんです」
「そりゃ、よかった」
「短いけれど一生懸命咲き続ける感じが晋様みたいで」
そう言ってくすくすと笑う。
「それ褒められてる?」
「褒めてますよ。綺麗で、一生懸命で目が離せません」
それは本当のようでじっと雅は線香花火を見つめていた。ふとずっと雅を見ていた僕と目が合う雅。ふわりと花が咲いたような笑顔で「楽しいですね、晋様」なんて言うものだから思わず、そう…本当に思わず。その唇を奪ってしまっていた。
「あ、悪い」
掠めるような口付けだったがそういう下心なしだったのは本当だ。いや、ちょっとはあったかもしれないけど…
「わ、悪い…とは?」
「い、いや!今回はそのそういうことしたいと思って誘ったわけじゃなかったら!ただ、雅と線香花火がしたい…ただ、それだけだったから!それに…雅って苦手とまでは言わないけどキスするといつも慌てるし慣れてないように感じていたから。だから…」
と言葉を繋ぐ僕の袖を小さく雅は握った。
「い、嫌じゃありません…!」
「え、」
「嬉しくて、幸せで、けれどどうしたらいいか分からなくなってしまうから…だから…嫌じゃないんです!」
もう僕のも雅の線香花火も火が落ちてしまっていた。
「…じゃ、じゃあ…いいの?」
小さく雅は頷いた。その頷きに生唾を飲み込み、そっと顔を近づける。舌はまだ入れない。怖がられたくもなかったから。ただ僕の唇の形を覚えてもらおうとするような、そんな確かめるような口付けだった。触れて離れてを繰り返して離れてはまた触れたくなってキスをする。ドキドキと僕の鼓動は煩く高鳴りそれは雅も同じようだった。
「……せ、線香花火…するか、」
「は、はい…!」
夜で良かった。僕たちが密着しあってキスしているのがバレていないようで。そして、互いの頬の赤みがバレていないようで本当に…
***
「家まで送ってくださりありがとうございます、晋様」
「なに、これも彼氏の務めってね」
流石の僕でも家の前でキスする勇気はないな、と別れを名残惜しく思っていた。握っていた手を離さなければならないのに離せなくてつい弄ぶようにその手の甲を指の腹でなぞった。
「晋様」
きゅっと握る力が強められて雅は僕の手を引いた。
「わっ」
突然のことで驚き雅の方へと顔が向かいそしてそれを待っていたように軽く雅は僕にキスをした。
「??!!」
「ふふ、さっきのお返しです」
可愛すぎる笑顔だった。
「ま、雅…」
「晋様。夏休みが終わってもたくさんデートしましょう?」
「勿論だとも!」
「では」
そう言ってするりと僕の手をすり抜け家の門の中へと入っていく。
「雅!」
名前を呼べば振り向く。
「愛している!また会おう!」
そういえば顔を真っ赤にして嬉しそうに笑った。雅が消えたあとも僕は門をずっと見つめていて。
「やられたなあ…」
そうまた、何度目になるのかわからないほど。君に。雅に。僕は、恋に落ちた。
-了-