高杉晋作の贈った銃　「わぁ」
龍馬から手渡された鉛の塊を持ちその重さに驚きのあまり雅子は声を上げた。
「これが晋作様が坂本様に贈ったという銃なのですね」
「ああ…本当に当時の僕は喜んだものだよ」
そう言って龍馬は笑い雅子はしげしげと銃ーーピストルを見つめた。きっとこの場に話題の中心である高杉晋作その人がおれば雅子から銃を奪うなり、龍馬に嫉妬したりするだろうが今はクエストに駆り出されておりその当の本人はいない。それをチャンスと見た雅子が龍馬に持たせて欲しいとお願いしたのだった。
「あの人は贈り物が好きでしたから…」
「まあ、気持ちは分からないでもないよ。贈り物をする時ってその人のことを考えるものだから、手紙もそうだな」
と言う龍馬に雅子も頷いた。生前、その夫はその両方をよくしてくれたものだと雅子にとっての生涯の宝物を思い返しそして満足した雅子は龍馬に銃を返した。
「もういいのかい？」
「ええ。意外と重いものなんだというのも分かりましたし…あの人はどういったものをあげたのか…それが知りたかったんです」
だからもう充分です、と雅子が言った時ふわりと後ろから抱きしめられ雅子は硬直した。
「坂本くん、僕の妻に色目を使わないでくれよ」
「使っていないけど！？」
「ふぅん、それならいいんだが…」
そう会話を続ける龍馬と高杉に雅子はわけが分からず慌てるしか出来ない。
「雅、用事は終わった？」
「は、はい…」
「ならいいね？」
そう言われ頷くと雅子は龍馬そしてお竜に頭を下げ手を取られるまま部屋へと向かうのだった。
＊＊＊
　「で、何が知りたかったの？」
部屋へ戻り上着を脱ぎながら高杉は問うものだから聞かれていたと知らなかった雅子は「え」と声を漏らした。
「き、聞いてらしたんですか！？」
「別に聞くつもりじゃなかったけどさ…雅と坂本くんが楽しそうに話してるもんだから…そりゃ、気になるだろう！？」
「あなたが思っているようなことは何もありませんよ」
「それは信じているけど！」
「…わ、笑いませんか？」
「ああ、約束しよう」
「坂本様にあなたがあげたという銃を持たせてもらっていたんです」
「なっ…！？」
絶句する高杉を無視して雅子は言葉を続けた。
「ずっとずっと気になっていたんです。だからこのような形で持てて嬉しくて…あなたは坂本様の身を案じ、坂本のことだけを考えて贈ったのだと思うと…嬉しくて」
「雅に銃は似合わないよ」
「そういう意味ではありません」
そう言って笑う雅子を見て高杉の中に複雑な気持ちが湧いて出る。高杉にとって雅子はいわば、勝利の女神とでもいうような…自分にとっての女神であり、天使だった。だからこそ危ない目に遭ってほしくないし英霊として戦いに身を置くのを本当ならやめて欲しいくらいなのだ。
「雅に銃はあげれないけど…簪でも、紅でも反物でも帯でも花でも、そういうものならあげれるよ」
「だから欲しくて言ったのではありませんったら。あなたを知りたかっただけです」
そんな殺し文句のようなことを口にする妻に深くため息が溢れた。
「晋様？」
頭を抱え突然項垂れ、ため息を吐く夫を見て不思議に思った雅子は首を傾げるが気付かないうちに高杉のその頬は赤く染まっていた。
(敵わない…)
こうやって無意識に雅子は何度も高杉の心を射止めてしまう。それが愛おしく、たまらなく、無自覚な雅子を置いて高杉はかき抱くのだったーー。
-了-