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    palco_WT

    @tsunapal

    ぱるこさんだよー
    Pixiv https://www.pixiv.net/users/3373730/novels
    お題箱 https://odaibako.net/u/palco87

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    遠征選抜の説明会後のみずかみんぐとおーじちゃん♀(半同棲)

    #水王
    waterKing
    #ニョタ
    gnota

    「お風呂いただいたよ、ありがとう」と脱衣所から出てきた王子は、オーガニックコットンのパジャマに、色白の肌がより生えるオフホワイトのカーディガンを羽織り、頬やうなじを淡いバラ色に上気させて何とも愛らしい風情で、畳の上に座りこんで遠征試験に関しての要綱に目を通していた水上の背中に、もたれるようにして膝を抱えて腰を下ろした。
     柔らかい背中の感触と、ふんわりとまとった甘い香りにもすっかり馴れてしもうたな、と水上はぼんやりと思った。今は湯にぬくめられた温かさとシャンプーの匂いにも包まれているけれど。
    「ねえ、みずかみんぐ」
    「なんや、二番隊隊長」
    「そう、それさ」と王子は背中合わせのまま、水上の片腕に自らの片腕を絡ませた。
    「きみはてるてるやカシオに水上隊長って呼ばれるのかい?」
    「……さあ。別にどう呼ばれたいとか全然考えてへんかったわ。実際、生駒隊《うち》かて『生駒隊長』ちゃうて『イコさん』やし。自分とこはどうなん」
    「王子隊のこと? それとも臨時隊のほう?」
    「王子隊」
    「そう言えばぼくもそう呼ばれたことは身内からはないな。ハッパかけてくれる時の弓場さんとか、実況の時くらいだね」
    「せやったら特にどうこうもないやろ。どうせ十日ばっかのコトやんけ」
     そんなことが気になるんかい、王子隊長は、と揶揄するように口にしながらも、水上は体を入れ替えて、王子を抱きくるむようにしてあぐらの上へと招いた。
     そして濡れ髪をくるんでいたタオルを解き、いつものようにドライヤーを当てて、ブロンズ色の髪を乾かし始めた。髪をすく指の感触と、弱風に設定されて優しく撫でる温かい風に王子は瞼を伏せた。
    「ぼくが臨時隊長に指名されてなかったら、選んでくれた?」
    「どーやろなー」
     難題の詰将棋に行き当たったような顔で首をひねる恋人に、ぷう、と王子は頬をふくらませた。新世界のてっちり屋でこういうフグの提灯あったな、と思ったが、さすがに口に出すような愚は犯さない。
    「ぼくはきみの好みのタイプじゃないって言うのかい」
    「人聞きの悪い言葉を選びなや」
     ここまでしとったるのに、とふくらんだ頬をなだめるように水上は撫でる。少しかさついた長い指先で。
    「クジ運とどこのプールに分けられたかによってそんなん幾らでも左右されるもんやん。じぶんはどっちかっていうとオールラウンダーよりのアタッカーやろ。今回のチーム構成やったら、照屋ちゃんと同じプールにおったら、迷ったかもしれんのう」
    「迷った」
    「最終プールにはヒュースも香取ちゃんも木虎ちゃんもおったからな。それこそクジ次第、や」
     それに、と水上は少しだけ意地悪い笑いを浮かべた。
    「そっちかて、俺が一般隊員枠におったら選んどったか? 選ばんやろ。俺の機動やと文字通り足手まといや。王子隊長《・・》は足でかき回す戦術が身についとる。一週間だけの即席部隊でも、それやからこそいままで積んだ経験を活かせる方向で面子を、……ちゃうな、『足』を厳選しよった。俺の見立ては間違っとるか」
    「……んー、ライバルになる他隊長の見解にはノーコメントでぇす」
    「おいこら、そっちから振っときた話題やんけ。こすない?」
     眉をひそめた水上に、ふふ、と王子は朱唇に艶やかな笑みを含んだ。
    「だったらそれこそ、きみの言う通り、クジ運とプール分け次第だよ。確かに、どれだけ動けるかをぼくは重視するけど、それでもきみを顎で使うことが出来るとなればその快楽には抗えないかもしれないしね。多少の不具合や予定外はそれこそ戦術や戦略で調整するものだろ。むしろ縛りプレイのほうがゲームは面白い。……格下相手にきみたちだって駒を落とすみたいに」
    「ゲーム、なァ」
    「だって試験なんて命を取られるわけでなし、ぼくたちが手抜かりをしたせいで逃げたネイバーで一般人に被害が出るわけでなし。削られるのはプライドだけさ」
     けど、と王子はくるりと体を返して膝立ちになると、水上の顔を掌で手挟んで、ちゅっと軽く唇を触れさせた。
    「だからこそ侮られるのは御免だ。例え遊びでも手は抜かないよ」
    「分かっとる」
     おのが腕《かいな》に抱くのは、麗姿だけに優れたただの少女ではなく、誰よりも誇り高い戦乙女《ヴァルキュリア》でもあった。その唇は、ワルハラへと集った勇者へと注がれる蜜酒のように甘く酔わせもする。水上のような人間ですらも、立場と、それこそなけなしの矜持さえなければ、魂の芯まで蠱惑されてしまいそうになるほどに。
     その柔らかな耳朶を指先でふにふにと弄びながら、反対側の耳元に水上は囁く。
    「おーじ、ピアスはせえへんのか」
    「何で急に? 前にぼくがピアスしようっかなって言ったら、見てるだけで痛そうだからイヤって言ったのはきみじゃん」
    「言うたけど、まさかそれでやめる思わんやん」
    「きみはぼくのことが意外と分かってないんだね。いや分かってないのは女心かな」
     お返しをするように王子は水上の左の耳たぶにやんわりと歯を立てる。
    「どうせなら一個のピアスを分け合おうよ。ぼくは右につける、君は左につける、どう?」
    「いやいやいやいや」
    「大丈夫、痛いのは一瞬だけだから」
    「したことあらへん奴がしれっと何言うとんねん」
    「あるよう、中学の時に、だけど」
    「マジ?」
    「マジでーす。六頴館高校の面接の前の日にね」
    「よ、よりによって」
     だから落とされたんだろーけどね、と笑って王子は水上の胸の中にぱふっと身を預けた。おかげでかどうかは分からないが、六頴館高に弾かれて、三門一高に悠々と合格した王子は水上とそこで巡り合うことになるわけなのだから、人間万事塞翁が馬とはよくも言ったものだ。
    「……行けるかどうかはさて置き、たぶん遠征には余計な私物《もん》、持ちこめへんやん」
    「だろーね」
    「けどまあちょっとした装身具くらいはお目こぼしされるやろと思って。……魔除けとかお守りになる言うやん。せやからおーじの生まれ石でな、その……俺に贈らせてくれるか」
    「……」
    「おーじ?」
     王子は無言だった。けれどその代わりに水上の背中に腕を回し、その手にぎゅっと力をこめた。
    「……あかん?」
    「あかんわけないじゃん! けど、みずかみんぐらしくもないこと急に言うんだもん。吹き出しそうになったよ、もう!」
    「はーいはい、笑ってください。幾らでも」
    「好きだよ、みずかみんぐ」
    「……知っとる」
    「きみは?」
    「分かってること言わせなや」
    「けど聞きたいんだ、ぼくは」
    「……」
     きらきらの碧翠の瞳が、英雄の放つ弓矢のように水上の双眸を射抜いて小揺るぎもしようとしなかった。
    「……いや、だから、それは」
    「……聞かせてよ、敏志」
     王子が水上を下の名前で呼ぶことは滅多になく、あるとしたら、それは体を重ねた忘我の時くらいだ。それをあえて交渉のワードとして持ち出してきたくせに、そのおもざしは無邪気な幼子めいてすらあって。
     ほんまこの姫さんは強情でかなんわ! 肚裡《とり》で半ば悲鳴を上げて、水上はそのくびれた、と言うよりは自然に引きしまったしなやかな腰をぐいと引き寄せ。
    「……!」
    「好きや」
     低く、喉に絡んだ声で囁くや否や、愛の言葉を紡いだ唇は、王子の柔らかで愛らしい唇に触れた。しばらく唇の温度と弾力を楽しむように重ねられたそれは、やがて融け合うように浸食し、そしてどちらからともなく交互に忍び入れ、引き、追いかけ、すがり、むつみ合う。せっかく丁寧にほぐされて乾かされた髪にさしいれた指がかき乱すことすら、官能に繋がり、接吻の合間にもれる王子の吐息は酔いの熱を伴うものだった。
     吐息も体液も何度となく味わい、混ぜ合わされてきたものだけれど、それでも交わすたびにもっともっととねだり、その果てを惜しむ恋人たちの口づけだった。言の葉などよりもひたすらに雄弁な。
    「どおや?」
     終《つい》を選んだのは水上からだった。それでも引き離すことを僅かに惜しむように、つい、と親指が濡れた王子の唇と、とろりと熟んだまなじりを撫でた。
    「うん、及第点、かな」
     ごちそうさま、と王子はにっこりと応じて、餌を貰った猫みたいにぺろりと舌で唇を舐めてみせた。
    「でも、やっぱりみずかみんぐと一緒の部隊になってみたかったなあ」
    「せやけどな、正直、試験が閉鎖環境試験だけやったらじぶんはなるべく避ける」
    「は?」
    「一週間、退屈はせえへんだろーけどな。ただ、触れとうなるかもしれんやん。こまいのもおるしさすがにあかんて。そないの、例えば万が一見られたらカシオに寝首かかれてまうわ」
     樫尾からすれば聡明で文武両道、とびっきりの高嶺の花でいて欲しい大事な隊長が水上「如き」に絡まっているのがどうにも釈然としてないらしい。それくらいは薄々察している。
    「けど、長時間戦闘訓練なら選ぶで」
    「なるほど。そのココロは?」
    「なにするか分からん奴、敵にするより味方に囲っといたほうがなんぼかマシや」
    「あのね……」
    「褒めとる。先の先まで手筋が読める奴なんて敵にしても味方にしてもおもろないやん」
    「ん、ん-……喜んでいいのか迷うね」
    「褒めてんから喜んどき」
     はぁい、と王子はどこかしら舌足らずに答えて、水上の首筋に顔を埋めた。
    「こら、くすぐったい。って齧ったらあかん。いやだから舐めてええとも言うとらんし」
    「なんで」
    「……」
    「なんでダメ?」
    「……あー、もう少ししたら俺、行かなあかんから。防衛任務、生駒隊で」
    「今日の今日で? 防衛任務?」
     おん、と水上は頷く。
    「遠征選抜試験が始まれば俺らは殆ど任務につけへんやろ。十日近くも、B級下位の部隊と審査しとらん時のA級だけに任せることになるやん。だからせめてこの三日の間だけでも、詰めれるだけ詰めれるようにイコさんに言うてん。幸い隠岐も海もマリオちゃんもええ言うてくれたんでな」
    「そっか……そうだね。そこまで考えが回らなかった」
     目端が利くのは盤面にだけではない。それが王子の自慢のダーリンだ。表向きは決して愛想がいいわけでもないし、むしろ取っつきにくいところがある。あれのどこがいいの、などと聞かれることもあるけれど、その分かりにくいところが何よりのお気に入りだった。めんどくさくて厄介で、そのくせ、人の痛みや疵には聡くて、優しい。自分はひとりで抱え込みたがるくせに。
     王子は水上の匂いを目いっぱい吸い込んでから、軽やかに立ち上がった。
    「だったらぼくも実家に帰らせていただきます。着替えなくっちゃ」
    「言い方!」
    「だってどうせ試験でしばらく本当に戻れなくなるんだし、一応、親に説明しとかないとね」
     王子はそそくさとカーディガンから腕を抜いて、水上の頭の上にかぶせた。
    「今夜は無理に帰らんでもええやん。俺が帰るまで布団、あっためといてくれとったら嬉しいし」
    「湯たんぽでも代行できるほど安い女じゃないよ、ぼくは」
     パジャマの上も脱げば、当然下は下着もつけていない。色と形が絶品の双丘がぷるん、と披露されるが、十代の性欲ゲージが振り切れてるはずの水上といえば、呆れた顔で見上げるだけだ。そのすました顔をはさんでくれようか、と王子とて一瞬思う。
    「ぼくのところも明日から入れるだけ入れられるか、みんなに相談しなくちゃならないでしょ。……きみたちには引けも遅れも取ってたまるもんか。弓場隊を抜いた以上、次の標的は生駒隊なんだからね」
    「おう、やってみい」
     この変則的なスケジュール下では、ランク戦《それ》がいつになるかは分からないけれど。まして、遠征に向かった近界でどうにもならない事態にだってなるかもしれない。こちらに戻れなくなるほどの。それでも今更引くような真似は、水上も、そして王子とて選ぶはずもない。
     だから、水上は王子の手を引いて、その指先にうやうやしく口づけた。
     トリガーを握り、弧月をスコーピオンを携え、ハウンドを放ち、そして自分も他者も守る盾を備える勇ましく健気な白い手に。
    「楽しみにしとるで」
     もしかしたらいつかその薬指に互いを結う輪の代わりに、温度と想いを飾るかのように。
     それはこちらの台詞だよ、と王子は彼女だけにできる、花よりも可憐に、そして物騒なくらいにふてぶてしく微笑で応えた。
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    palco_WT

    MAIKINGこの世の涯【https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14056310】の続き書いてます。ラストシーンだけど、もっともっと煮詰めて書いたら変わるかも。「……嘘つきブロッコリー」
     しぼりだすような王子の声に、隣でコンソールに指を走らせている寺島は彼に悟られない程度に顔をしかめた。
    「最後まで嘘つきだったよ、きみは」
     眼球の裏のほうがかっと熱くなる。あふれ出しそうな涙を、しかし王子の理性は懸命に押しとどめる。
     泣いて、視界を濁らせなどするものか。
     この網膜に、記憶に、彼の晴れ姿を少しでも多く焼きつけて、伝えなければ。
     これから先、もしかしたら長く近界で暮らし、そこで子をなし、育てることになるかもしれないぼくらがしなくはいけないことのひとつだ。
     彼以外、誰をもう愛せるものかと思うけれど。記憶と命を、希望はつないでいかなければ。
     かつて、旧ボーダーが、迅さんや小南ちゃんたちに託したように。
    「……水上先輩のメテオラ、だ」
     喘ぐように元茶野隊の藤沢が呟く。
     次の瞬間、まるで命の輝きのように、眩い光が目を焼く。
     遠征艇という名の箱舟の出立を寿ぐ花火のように。
    「……戻ってくる」
     届きはしないのは分かっていた。それでも王子は叫ばずにはいられなかった。
    「絶対に無事にたどり着いて、戦力を整えて、ぼくたちは戻ってくるから!」
    938

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    MOURNINGさよなら大好きなひと

    三門市を出ていく水上と残されるおーじちゃん♀
    プロットとして手を入れていたんですが、書き上げる棋力じゃないや気力がなさそうなので。
     うっすらと予感みたいなものはあった。
     イコさんが大学卒業と同時に実家へと戻り、当然ながら生駒隊が解散することになって―水上隊として再編するかという話もあったがそれは当人が断り、現在はオッキーと海くんは別の隊に所属して生駒隊で磨いたその腕を存分にふるっている―、遠からず彼もこの街から去ることになるのではないかという予感。
     当たらなくても良かったのに、と王子は、すまん、と膝を正して畳に額をこすりつけるようにして土下座をする赤茶けたブロッコリーをただ見やるしかできなかった。
     水上もボーダーを辞めて、三門市を出ていくのだと言う。まるでかつての隊長の背を追うように。
     トリオンの減衰なんていう、ごくごくあり触れたつまらない理由で。
    「使いものにならへん駒は駒台にかて不相応や」

    →ちょっと前に時間戻る。
     王子隊作戦室:作戦会議が終わって。
    「ぼくとみずかみんぐってどういう関係に見える?」
    「どういう関係も何も恋人同士だろ」
     麗しの隊長の問いに、何を今更とばかりに呆れたというよりは怪訝そうに蔵内は告げた。
     一週間の大半を彼の部屋で暮らし、キスやハグをしている姿もキャンパスで見かけてい 2210

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    DONE遠征選抜の説明会後のみずかみんぐとおーじちゃん♀(半同棲)「お風呂いただいたよ、ありがとう」と脱衣所から出てきた王子は、オーガニックコットンのパジャマに、色白の肌がより生えるオフホワイトのカーディガンを羽織り、頬やうなじを淡いバラ色に上気させて何とも愛らしい風情で、畳の上に座りこんで遠征試験に関しての要綱に目を通していた水上の背中に、もたれるようにして膝を抱えて腰を下ろした。
     柔らかい背中の感触と、ふんわりとまとった甘い香りにもすっかり馴れてしもうたな、と水上はぼんやりと思った。今は湯にぬくめられた温かさとシャンプーの匂いにも包まれているけれど。
    「ねえ、みずかみんぐ」
    「なんや、二番隊隊長」
    「そう、それさ」と王子は背中合わせのまま、水上の片腕に自らの片腕を絡ませた。
    「きみはてるてるやカシオに水上隊長って呼ばれるのかい?」
    「……さあ。別にどう呼ばれたいとか全然考えてへんかったわ。実際、生駒隊《うち》かて『生駒隊長』ちゃうて『イコさん』やし。自分とこはどうなん」
    「王子隊のこと? それとも臨時隊のほう?」
    「王子隊」
    「そう言えばぼくもそう呼ばれたことは身内からはないな。ハッパかけてくれる時の弓場さんとか、実況の時くらいだね」
    「せやっ 5021

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    MAIKINGよるのひみつ

    みんぐと王子。恋人のようでいて恋人と言い切れもできず、な関係に刺さってるトゲ。
    「ふう……」
     シーツに手をついてゆっくりと身を起こした彼の唇から、熱をたたえた、艶っぽい吐息がこぼれた。
     王子が交情に浮いた汗を拭う為に後ろ髪をかきあげると、ちらりと襟足のあたりに走る古傷が見える。そこに気づいたのは、肌を合わせるようになってから何回目だったろうか。いや、もしかしたらボーダーのシャワー室で見たとか、クラス合同の体育の授業の最中とかだったのかもしれない。
    「王子、その傷、なんでか聞いてええか」
     ついにたまりかねて、というほどではないけれど、その首筋の少年らしいしなやかさと上気した色に誘われるように問うてしまった水上に、あは、と彼は花びらのような唇に蜜のような甘い笑みを含んだ。
    「どうして聞いていけないと思ってたんだい?」
    「そりゃ事情《わけ》ありなんやろなと」
     触れることで、心にある傷をかきむしることになるのではないかと。
    「そこまで無神経と思われとったか」
    「思ってないよ」と王子は水上の赤毛をくしゃくしゃとかきまぜた。
    「ただ、ごめんね、君はぼくにそこまで関心を持ってないと思ってたから」
    「……セックスまでしとる相手に無関心て、俺、そこまでひとでなしだと思われと 1088

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    DONETricks 199話の弓場隊+王子蔵内の中華ご飯のその後の小話。弓場王の過去がある水王。
    https://twitter.com/palco87/status/1338726343077326848
    「みずかみんぐ、お土産持ってきたよ~、蘿蔔糕と春巻」
    「おう、すまんな。ちょうど腹減っとったところや」
     ご機嫌な様子でドアを開いた王子に、水上は米朝の二階借りの落語のDVDを止めて玄関へと顔を巡らす。
     軽やかな足取りで、王子は美味しい匂いのするドギーバッグを彼が座っている前へと置いた。おおきに、と戻ってきた恋人に水上は軽くキスをする。
     こんなやりとりもいつの間にか日常になってしまっているのだから、人は慣れる生き物だというのが水上の正直な感慨ではある。
    「で、どやった、神田の追い出し会」
    「美味しかったよ~」
    「どんな感想や。せめて、追い出し会じゃなくて打ち上げとか慰労会ってツッコミ返せーや」
     ボケた甲斐がないではないか。明敏な王子ならすぐに打ち返してくると期待しているのだし。
    「だって弓場隊を抜いたぼくが、中位落ちになっちゃったランク戦打ち上げに顔を出しましたっていうのもね。ちょっと無神経っていうか」
    「自分、そういうところは気ぃ使いやのう」
    「尊敬する先輩と古巣には配慮するさ、さしものぼくだって」
    「ほうほう」
     頬に触れる掌に、王子は撫でられた猫みたいな顔で水上を見やる。だ 1264

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    DONE幸福の条件

    https://twitter.com/palco87/status/1336247005849350144 で蔵っちが一番だったのでつい書いた~
    たまには三人で食事をしないかと、蔵内が王子と水上に打診されたのは一週間ほど前のことだった。
     同隊である王子はともかく、生駒隊の水上とは防衛任務等の兼ね合いもあったが、たまたま週末にスケジュールが空いていたのでその日に王子が予約したというレストランで落ち合った。
     そもそも、王子と水上がわざわざ顔を揃えて尋ねたあたりで、これは何かあるなと察しはしたが、デザートまでたどりついたあたりで「ぼくたち籍を入れようと思うんだ」と言われて、少しばかりは驚くのではないかと思ったけれど、予想していたよりすとんと蔵内の中では腑に落ちた、というのが正直なところだった。というか、むしろ王子みたいな人間がそういう世間のシステムの迎合しようとしていることのほうが、少々意外な気持ちではあった。
    「……おめでとう。幸せになれよ、っていうのは陳腐かな。おまえたちなら誰に言われなくても自力でどうにかするだろうから」
    「そうだね! さすがはクラウチだ、ぼくらをよく分かってる」
     おおきに、と告げる水上の口調がぶっきらぼうなのは照れ隠しだ。対照的に王子は背中に大輪の薔薇とヒマワリとカスミソウを背負っているような爛漫とした笑 1098

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    MEMO水王ちゃん♀一泊二日フェリーの旅ドラの音は出航の合図ではなく、出航時間が近づいたので船客と乗組員以外は船から降りろという意味だと聞く。聞きなれないその音が響いた数分後、控えめで上品な案内の声が改めて港から経つことを知らせた。
     奮発しただけあって、自分の古びたアパートなどよりも遥かにたっぷりとした広さと居心地の良さで出迎えてくれたスイートルームの客室の設備を確認していた水上は、手首の時計をちらと確認した。予定時間より三分遅れだ。
    「出航だって、みずかみんぐ」
     アナウンスを耳にした王子はぱっと顔を輝かせ、良人たる水上の袖をじゃれる仔猫がひっかくようにくいくいと引いた。
    「どうせなら港を離れるところを外で観ようよ」
    「外がええなら、そこからプライベートバルコニーに出れるで? スイートの特典やで」
    「もう、きみってばそういうんじゃなくてさ! いいからほら、さっさとカードキー持って」
     水上が扉の内側に挿したカードキーを手に取るのを確かめてから王子は、問答無用とばかりにその腕に自らの腕を絡めると、引きずるように船室を出て行った。はしゃぐ王子にこれだけは、と水上は手荷物の中からマフラーを何とか掴んで、その首と頭をぐるぐると巻 1390

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