俺は今、人生最大の難問を出されているのかもしれない。
「ねえ、アドラーはどっちが好み?」
長い髪を緩い三つ編みで一つにまとめ、ふわふわとした可愛らしい洋服で身を包んでいる恋人は、これまた可愛らしい声でこちらに一つ問いかける。それを直視できず、指の隙間から覗き見るという情けない姿でどうにか応対する。
彼女の手に握られているのは、二着の水着だ。片方は今着ている服に雰囲気がよく似ている。きっとウィルのこのみなのだろう、ふわりとした透け感のある素材をあしらったワンピースタイプ。もう片方はデザインは可愛いいのだが、出るとこは出るビキニタイプ。大変悩ましい。
本音としてはビキニ。しかしこれは水着
。ということはだ、これを着た姿を人前に晒すということである。それは由々しき事態だ。ウィルの豊満な肢体が不特定多数の野郎共に見られるなどあってはならない。となるとワンピースか。
だが、正直なところウィルの選んだワンピースは少しデザインが幼い。歳の割に幼い顔をした彼女なら十分に似合うだろうとも思うのだが、その幼さとは裏腹な発育のいい体とのギャップに、これまた野郎共が釘付けになるのは目に見えている。どうしたものか。
「……聞いてるのか、アドラー」
「聞いてる、聞いてる。待ってくれ、今めちゃくちゃ悩んでるんだ」
一切嘘などない言葉に、ウィルも少し気圧されたようで、「ア、ハイ」と気の抜けた返事をよこした。それを気にすることなく俺はひたすら思案する。
ビキニか、ワンピースか。究極の選択だ。どちらにせよ衆目に晒されるのならいっそ欲望に従うか? いや、でもやっぱり見られたらムカつくしな……。
ぐるぐると同じところを巡る思考に、つい頭もつられてぐるりと動く。その先にあったものが気になって俺はウィルに尋ねた。
「ウィル、あれは?」
「ああ、あれは……」
その言葉に、俺はようやく答えを出した。
「…………何その水着」
「……アドラーが選んでくれた」
「はあ!? 信じらんない!! 華の十代をなんだと思ってんの!?」
「まあ、私も思うところが無いわけじゃないけど……」
「何その顔」
「……男の人に見られるのが嫌だからって言われちゃって」
「は〜〜〜〜。ごちそうさま。よそでやって」