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    かわな

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    かわな

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    ガスウィル。10章あと

    #ガスウィル
    gaswill

    君は月に似ている両手じゃ足りないぐらいのパトロールをして、もしかしたら一気に仲良くなれるかも~なんて甘い算段はことごとく外れたけれど、それでも無意味なことなんてないんだなと思えるぐらいの成果みたいなものは感じる。たとえば話しかければ一度こちらに視線を寄越すことだとか、お互いの得意分野をきちんと見極めて対処にあたるだとか。嫌われている、といったら心にくるけど、好意という下駄をはいてないぶん実力をきちんと認められていてパトロールは思った以上にうまくいっている。目に見えて仲良くはできていないけど、ヒーローとしてはけっこう好かれているかも、なんて。思ってもいいのだろうか。
    「アドラー。集中しろよ、まだパトロール中なんだ」
    「ああ、わりぃ。そうだよな、あと二時間だっけ? だいぶ日が長くなったけど、太陽って沈むときはあっというまに沈んじまうよな」
    短い謝罪のあと、思ったことを口にすると少し前を歩いていたウィル・スプラウトが肩越しに振り返り目を細めた。さしずめ、ごちゃごちゃうるさいやつだな、とでも言いたいのかもしれない。へらっと笑い返して、足を進めて隣に並ぶ。
    数分前まで街は橙色だったのに、すでに周りは暗く沈み始めて、濃い夜の気配を近くに感じた。
    「なあ、ウィル」
    返事はなかった。だからといって、ここで引く気はない。なぜならこの真面目クンは、噓を吐くのも、人に邪険にすることも、そんなに得意じゃないからだ。
    「ウィールー。なあ、ウィルってば」
    まっすぐ前を向いた横顔がかすかに動いて、ウィルはだれもかれもが珍しいと口にする露骨に嫌そうな表情で振り返った。
    「なんだよ。パトロール中だって言っただろ」
    「そうなんだけどさ。だからって話しちゃだめなんてことないだろ? せっかく一緒にパトロールしてるんだし」
    「俺はお前と話すことなんてない」
    「おっ、そっちは否定するけどパトロールに関してはなにも言わないんだな」
    言ったあと、じろりと睨みつけられた。
    しまった、また言いすぎちまったか。
    「いやいや、深い意味はないぞ?」
    あわてて言い足すと、あからさまに大きなため息が聞こえた。同時に俺たちのあいだを強い風が吹き抜けていく。ウィルの前髪がふわっと風で浮いて、ため息のわりにおだやかなまゆが見えた。風に促されるように前を向いて、いつもどおりのウィルの横顔が瞳に映り込む。とりあえず肩の力を抜いた。
    「パトロールは真面目にやってるからな。だからべつに、嫌じゃない」
    その言葉に心臓を打ち抜かれた気がした。こっちを向いていないのに、どうしてかその言葉はまっすぐに俺をめがけて飛んできて、もののみごとにあれこれ考えていた俺の言葉を壊してしまった。
    「……そっか」
    そんなふうに真面目に言われてしまうとうまく言葉が出てこないのはいつものことで、ウィルも気にしていないのか「行くぞ」と足早に歩いていく。おう、と言った声はウィルの肩をつかんだのか、一歩ほど足を進めれば隣に並ぶことができた。
    今日パトロールで割り当てられた地区はレッドサウスのおだやかな住宅街で、歩いていけばいくほど静かになって風で木々がこすれる音があたりに流れていた。昼間は遊んでいる子どもやキッチンカーが公園や通りにあふれていて賑やかなのに、日が沈んでしまえばあっというまに様変わりする。そういえば、昔はここらへんには寄り付かなかった。昼はともかく夜は、とにかくここにいることが良くないことのような気がしてならなかったからだ。
    「そういえば、ここらへんにアキラの好きなホットドッグの店があったよな」
    なんとなく話題に出してみると、アキラのことだからかしぶしぶ返事があった。
    「ああ」
    「だよなぁ。俺もけっこう好きでさ、サウスに来るときはよく食べるんだ」
    「そうか」
    「ウィルは?」
    「俺?」
    「そう、ホットドッグ。アキラに付き合ってよく食べたりするのか?」
    やっぱりさ、レッドサウスが担当なんだからよく食べるのかなって思って。
    と言葉を重ねていると、どうしてこんなことを話しているのか分からないと言いたげな声でウィルは答える。
    「別に嫌いじゃないけど……」
    「けど?」
    「甘いもののほうが、よく食べる」
    どうしてか不貞腐れたような声に、おかしくなって口元を抑えた。じろりと横目でにらみつけられたけど、ちっとも怖くない。
    「なんだよ、その顔。なにか言いたいことでもあるのか」
    「いやいや、んなことねぇーって。ただ、アキラが言ってたとおりだなって思って」
    俺の言葉にウィルが怪訝そうに振り返った。
    「アキラが?」
    その様子に、まだちょっとアキラに対して過保護なところあるよなあと思う。
    「ああ、ウィルは昼を甘いクレープで済ましちまうって」
    「たしかに……そういう日もあるけど。というか、知っていたのなら聞くなよ」
    「ははっ、悪かったよ。でもさ、ウィルと話したかったんだ」
    カサカサと風でこすれて葉が心地よい音を立てた。立ち止まったウィルを追い越してしまい、振り返る。どうした、とは聞かなかった。目をパチッと開いたウィルは何かを言おうと口を開いたあと、きゅっと引き結んだ。
    「ウィルは和菓子が好きなんだろ? 前に、団子食ったって言ってた。今日みたいな夜にさ」
    「今日みたいな?」
    「ああ。月がきれいだったって、アキラが言ってたぜ」
    ウィルが空を見上げ、同じように空を仰いだ。藍色を深くしたような明るい夜の色が広々と空を塗りつぶしていて、そこに浮かぶ丸い月はそれこそウィルが好きそうな和菓子みたいな形をしていた。
    「お月見をしていたんだ」
    ウィルが空を見上げたまま、ゆっくりと答えた。たぶん、そのときのことを思い出しているんだろう。夢心地みたいな、優しい声だった。
    「日本の文化で、月を見ながら団子を食べるっていうのがあるんだ。十五夜っていうんだけど、そのときはきれいな満月で、アキラを誘ってタワーの屋上で団子を食べた」
    「へえ?」
    「季節も秋じゃなかったし、風習もまるっきり無視しちゃったけどな」
    「まあ、いいんじゃないか。そういうのって、楽しんだもん勝ちだろ」
    フォローするつもりで言ったのに、空から戻ってきたウィルの瞳は責めるような強さがあって頬を掻く。あー、ともう少し弁明しようとしたところで、ウィルが視線を落として答えた。
    「まあ、そういうのも……良いのかもな」
    いま、いったい何を言われた?
    信じられない気持ちでウィルを見て、ゆっくりと言葉をかみ砕いて咀嚼する。大きく頷いた。
    「じゃあ、今度はきっちり準備して、本格的なお月見ってやつをしようぜ」
    この言葉が本当になるのかは分からないが、いまこのとき、この言葉を言わずにはいられなかった。
    顔を上げたウィルは呆れたふうにも見えたし、不機嫌そうにも見えたし、欲目というフィルターを通すとうれしそうにも見えた。返事代わりに聞こえた歩き出した足音が楽しげに葉擦れに重なる。
    「そういえば、月にはうさぎが住んでるんだってな」
    「……またアキラから聞いたのか」
    「そう。しっかし、わっかんねえよな。俺にはうさぎなんて見えない」
    もう一度月を見上げたあと、へらっと笑って答えると、ウィルは肩をすくめてあごを触る。頭の中にある本をめくっているのかもしれない。思い出そうとしている真剣な表情は悪くなくて、目が離せなくなった。次、こいつはどんな顔をするのだろうと、瞬きさえ惜しく感じる自分に笑ってしまいそうになる。
    「うさぎが見えるのは日本だかららしい。他の国では女の人にみえたり、カニに見えたりするんだ」
    「へえ。じゃあ、ニューミリオンだったら、いいや、いまここから見える月にはなにが見えるんだろうな」
    「どうだろう。アドラーには、何が見える?」
    「え?」
    不意に尋ねられた言葉に声を上げた。まさか、ウィルから会話をつなぐような言葉が返ってくるとは思わなかったからだ。
    「なんだよ」
    「いやいや、なんでもねえよ。それより、何が見えるかだったよな!」
    葉擦れの音が響く住宅街を、二人でゆっくりと歩いていく。月を見上げながら歩いていると、おい、気をつけろよ、と隣から声がした。それは少しトゲがあったけど、口元をにやけさせるには十分の力がある。
    「あ、わかったぞ。ウィル」
    立ち止まり、そのまままっすぐに歩いていくだろうウィルの腕をとった。なにするんだ、アドラー。悪ぃ、でもさ。ここから見るのが一番だって、分かっちまったんだよ。
    「なにが見えたんだ?」
    ウィルの問いかけに、俺は月によれよれの線が描かれているのを想像する。それは昔、何度も飽きるほどに見たものに似ていた。
    「花」
    「花?」
    「そう、しかもよれよれの」
    「よれよれって……なんだよ、それ」
    「妹がさ、描いてた花に似てるんだ」
    ウィルが空を仰ぎ見て、思い描くように目を細めていく。さすがに分からないかもなぁ、とその横顔を眺めていると、ふっと口元が緩んだ。
    「たしかに。俺もそれ、見えたかも」

    何事もなくパトロールを終え、タワーに戻るために二人並んで歩いていく。月の話をしたからか、眺めて帰るのも悪くないなと思っていたら、お互いに同じことを考えていたのかもしれない。遠回りだけど、静かな道をお互いに進んでいた。高いビルや明るいネオンがないだけで、月はいつもより大きく、美しくみえる。
    「ウィルは月に似てるな」
    なんとなく、思ったことを口にした。怒るかもなぁ、と思っていたら想像通りの「はぁ?」が飛んできて胸にグサッと刺さった。
    ははっ、と笑ってごまかしたけど、別に冗談で言ったわけじゃない。
    うさぎに見えたり、女の人に見えたり、カニに見えたり。妹の描いた花に見えたりする月は、ウィルにとても似ている。アキラの保護者で過保護、できれば仲良くしたいけど今は難しいかもしれないと思っていたあのころの俺は、ウィルをずっと同じところから見ていたのだ。そのことがもったいないと思い始めた。もっと、いろんな表情を見てみたいと思った。
    今日、ウィルと二人で見上げた月のように。
    感慨にふけっていると、
    「置いていくぞ、アドラー」
    と前から鋭い声が飛んできた。
    どうやら考えているうちに遅れてしまっていたらしい。待ってくれよ。声をかけて、俺としては、もうちょっとだけ仲良くしたいんだけどなぁ、と決まり文句になりつつある言葉をつなぐ。もちろん、それには「俺はそうは思わない」なんてつれない言葉が返ってくるんだけど、置いていくつもりがないだけ進歩したと前向きにとらえていきたい。
    気分が舞い上がるような風と、心地よい葉のこすれる音。丸く、黄色の月。見上げながら、隣に並ぶ。
    「なあ、ウィル」
    「今度はなんだ」
    「月がきれいだな」
    同意を得られるだろうと振り返ると、視界からウィルが消えていた。そのまま後ろを向くと、どうしてかウィルは立ち尽くしていて、薄い唇をはくっと震えさせた。降り注ぐ月あかりが明るいウィルの髪をすべっていく。きらきらして、とてもきれいだと思った。
    「おいおい、どうしたんだ。ウィル」
    どこか具合でも悪いのかと近づくと、キッと今日一鋭い視線を突き付けられてたじろいだ。また、なにか言っちまったのか。
    「だ、大丈夫か?」
    「……平気だ。行くぞ」
    「お、おう……だな」
    横を通りすぎてずんずんと歩いていく背中を追いかける。
    隣に並び、様子をうかがうように横目でみた。
    あ、と口元がにやけた。
    吹き抜けた風でふわっと揺れた髪の下から、ウィルの真っ赤な耳が見えた。
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    DOODLEガスウィル
    ウィル女体化
    ガストを女性下着売場に放り込みたかったなどと供じゅ(ry
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    もじもじと指をいじり、恥ずかしげに問いかける恋人に、一も二もなく頷いた。ウィルの頼み事だから、てっきりカップル限定スイーツのあるカフェだとか、購入制限のあるケーキ屋だとかそういうものだと思ったのだ。
    「……えっと、ここ?」
    「うん……」
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    動かない俺の袖口を軽く掴んで、ウィルは店内へと足を進め 1106

    hinoki_a3_tdr

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    穏やかな昼下がり。丸々としたフォルムの毛玉が床を転がる。それは一直線にとある人物を目指していた。とある人物、ガストは足にまとわりつく毛玉を踏まないよう、慎重に足をずらしている。それ見守るのは赤と青の弟分だ。
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    pagupagu14

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    # 神道愛之介誕生祭2021
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    ショートケーキの幸せ 愛忠
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    「…かしこまりました。腕によりをかけて振る舞いますので、楽しみにしていてくださいね」
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    「ええ。洋食だとか和食だとか、何が食べたいとかそういう…」
    「いや、そういうのは特にないが――そう、だな。」
    ふむ、と考える仕草をした後愛之介は忠の方に目 3162

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    DONEガスウィル
    別れようとしたウィルと荒療治でつなぎとめることにしたガスト
    「別れてくれ」
     たった一言。それだけで、世界から一人と残されたような、うら寂しさがあった。
     俺とアドラーは恋人同士というものだった。俺は、アドラーが好きだった。アキラの一件があったのにも関わらず、俺はアドラーに惹かれていた。そんなときに、アドラーに告白されたのだ。嬉しかった。が、同時に怖くなった。だって、俺の中にあるアドラーへの感情はプラスのものだけではなかったから。
     アドラーへの恋心と一緒に、彼への恨みのような感情もまだあった。そして、それが今後消えないだろうことも、なんとなく分かっていたのだ。こんな俺では、いつかきっと振られる。今が良くても、いずれ破綻することだろう。そんな想像から、俺はアドラーを先に振った。そうすれば、無駄に傷つくことはないと。
     だが、アドラーは諦めなかった。何度も何度も俺に告白してきて、その度に俺は、アドラーを振って。傷つきたくないからと始めたことが、どんどん傷を増やしていく。俺だけじゃなくて、アドラーにも。それは、本意ではなかった。だから、受け入れることにしたのだ。アドラーの粘り勝ちと言ってもいいだろう。
     大喜びするアドラーに、これで正解だったのかも 4699