紅灯祭 まだ、母さんが生きていた頃の話だ。
隠れ住んでいた街は祭りの日で、夜になっても紅い灯や青い灯が明るく、小さいおれも浮かれた気分になって夜店のくじ引きをねだった。母さんは少し考えたようだったが、おれの手をひいてどこかの店に入り、肌身離さずしていた腕輪を手放して、数枚の銅貨をおれにわたしてくれた。
かあさん、あの腕輪は、と聞くと「いつも同じのをしてて飽きちゃった」と答えが返ってきた。とうさんが生きていて、まだ後宮にいられるのなら、それは本当のことだったのかもしれない。
あのときから今までずっと、欲の裏側にうしろめたさが貼り付いていて、その二つを分けて考えられない。
母さんが手放した腕輪で何を手に入れたのか、もう忘れてしまった。おおよそくだらないものだったのだろう。そうしておれを生かして、母さんは死んでいった。母さんはおれに、金鋼族の復興を果たすように言い残したけれど、それはおれが、母さんみたいな女の人を増やすことになるのを、どれだけわかっていたのか?
世継ぎが生まれれば、先代なぞ所詮は偽物の王様で、追放されるか殺されるか。おれが生まれたから、父さんは殺され、母さんは何不自由のない生活を失った。
だから、おれは王位を目指すふりをしながら、嵐がおさまるまでやり過ごそう。おれに賭け金を全額支払った母さんの生命を無駄にしないために。