胸の振子「人間とおれたちでは、持っている時計が違いすぎる」
なぜ人間と深く関わってはいけないのか、とうさんに聞いたとき、そう言われた。とうさんは、おれの髪を編んでいた。そのとき、おれは掌の上の火トカゲに炎の吐き方を教わっていたから、とうさんがどんな顔をしていたのかはわからない。戦でうちにいないのは寂しかったけれど、帰ってきたときにはいっぱい相手をしてくれた。他愛無い話も聞いてくれたし、祭にも連れていってくれた。子供でなくなった今にして思えば、おれはウザいガキだったのかもしれない。とうさんがいなくなってからは、もっとウザくなった。残されたとうさんの部下たちが優しく差し伸べてくれた手を跳ね除けて、ただ一人で泣いていた。大人たちの気遣いは、イヤな噂がおれの耳に届く速度を、少しだけ遅くしてくれた。奴等が懲りずにしつこく構ってくれたせいで、とうさんのいない生活に少しずつ慣れていった。
誰とも関わり合いたくなかったが、そうも言ってはいられない。夭聖どうしは持っている時計、つまりは寿命が同じらしいが、それで全てが理解できるわけでもないのは、先の戦でもわかりきったことだろう。目の前の悲しみを癒してやることのほうが、よほど大切なことだと、とうさんにも教わった。そもそも誰かを好きになるのに、いちいち寿命を考えてから踏み切るものなのか? どうでもいいじゃねえか、そんなことは。