三等星 えるちゃんと、一度だけコンビニで菓子パンを食べたことがある。
オーロラヴァイキングは五人。ひとりは進学で、ひとりは就職で、ひとりはいきなり連絡がつかなくなったから、どうしているか知らない。メンバーで最初から残ってるのは、わたしと、えるちゃんだけだった。
レッスンとバイトと家の往復で、時間もお金もなかった。レッスンの後、くたくたに疲れていて、何かものすごく食べたかったから、どちらともなく「コンビニでパンを買って食べよう」って話になった。どちらかが袋入りのスティックパンを買って、どちらかがペットボトルの紅茶を買った。はんぶんこしたから、どちらが何を買っていたかまで思い出せない。ただ、えるちゃんがペットボトルで紅茶を飲むときの、安っぽいコンビニの明かりに透かされた紅茶の色と、白い喉のうごきを覚えている。
「ごめーん、あたし汗臭いよね?」
「そんなことないよ、もしそうだったら、わたしも汗臭いはずだし」
えるちゃんは、いつもいつもきれいであろうとしているから、センターにふさわしいひと。
いつからそうなったのかはわからない。
新しいメンバーが加入したからか、観客動員数が増え始めた時からか、握手会をやり始めたからか、えるちゃんに胡散臭いファンがつき始めたからか、わたしが知り合った男の子にレッスンを受け始めたからなのか。
とにかく、えるちゃんはわたしと一緒に帰らなくなった。レッスンにも手を抜き始め、その後のメイク直しのほうが熱心になっていった。
自分はファンと遊んでいるのに、男の子にレッスンを受けているわたしに対しては、あたりがキツくなっていった。
インターネットでえるちゃんのことを検索すると「巨乳」とか「ドチャシコ」とか言われてて、褒めてるつもりなんだろうけど、怒りが沸いた。名前が出るだけでも、認知されるだけでも人気商売にとっては重要なことと、聞かされてきたし思っていたけど。もし自分だったらいいけど、他人だったらどうしても許せないことってあるよね? わたしにとってはこのことがそうだった。
「アンタ、ちょこちょこあたしの前にきて邪魔しないでよ」
楽屋でえるちゃんに、久しぶりに言葉をかけられた。それは正しい。振り付けにもないことを舞台上でやるのは間違っている。だから謝れる。
「……ごめんなさい」
でも、あの汚らしいやつら相手に、えるちゃんの姿を見せたくなかったの。誰にも、絶対に言えないけど。
久しぶりにえるちゃんに誘われたから、夜の街に出かけた。その後のことは思い出したくない。
えるちゃんと一緒なら、どんな嫌な撮影でも耐えられた。我慢できた。
でも、えるちゃんは、わたしをえるちゃんの代わりにしようとした。一緒に堕ちきってくれれば、わたしはなんでも受け入れたのに。えるちゃんが、わたしを、えるちゃんの代わりにしようとするなら、わたしは、えるちゃんの代わりになってもいいんだよね?