虹を食べる 一軒家の後片付けはなかなか骨が折れる。押入れの中から貰い物のタオルはごっそり出てくるし、昭和生まれのおばあちゃんは悪気はないけど、賞味期限にルーズすぎて怖い。もう、いなくなってしまったけど。可愛がってくれたおばあちゃんに最後のお別れができた。
仕事がうまくいかなくて、電車を見て、ふらっと誘い込まれるように気を失って、なぜか飛行機に乗っていた。いろいろなものから逃げたかったのかな。
「千佳ちゃん、あと少しでお昼だから、そうめんとトウモロコシ茹でてくるねー」
「あー、ありがとうございます」
一緒に片付けをしていたおばさんは、お昼の用意をしに、近所の自分の家に戻るらしい。
出前もコンビニも遠いここでは「お構いなく」ということもできない。何か作れたらよかったな、と台所に行き水屋を漁る。おかきやチョコレートの袋の奥に、ゼリー菓子があるのを見つけた。まるで虹みたい、そう思っておばあちゃんに言ったら、来るたびにいつも出されるようになった。思いつきで言ってみただけで、特別好きというわけでもなかった。でも目に鮮やかできれい。そのとき気づいた。このゼリー菓子がここにあるってことは、おばあちゃんが、わたしがまた来ると思ってたから買ってたんだ。
砂糖系の菓子に賞味期限は関係ないと信じて、千佳はセロファンを剥いてゼリー菓子を口に入れる。思ったほど悪くない。片付けで疲れているせいかもしれない。無意識のうちに、鮮やかな色のセロファンを指で畳んで見つめる。お葬式で疲れてたのかな、白黒のモノトーンが苦手になった。あとは田舎だからしょうがないけど、虫とか…エビ? が見るのもイヤになってきている。昔は平気だったのに。