フラペチーノ おとうさんの退院が決まったし、今日はちょっと贅沢してもいいかな。恵夢は病院構内のコーヒーショップに立ちよろうと決めた。今日こそは、フラペチーノを頼むんだ。いきなり倒れられてびっくりしたけど、大したことなくて本当によかった。
水道水をペットボトルに入れて持ち歩いていた半月前だったら考えられない。それも、花園せんせいのおかげだ。過払金がどうとかいう話で、借金がいきなり無くなった。未だに信じられない。
いままで身に余る贅沢だと思っていたことが、当たり前になるかもしれない。少しずつ、ほんの少しずつ、身なりを整えるだけの贅沢もできそうだ。
そうしたら、同じ年の友達だって、好きな人だってできるかもしれない。
カウンターで注文を済ませ、恵夢は中庭の椅子に座りながら出来上がるのを待つ。外は暖かく、パジャマ姿の入院患者や、その家族の姿も見える。おとうさんにも、買ってあげれば良かったかな?
そのとき、赤っぽいシャツを着た、崩れた雰囲気の痩せぎすの男が、恵夢の前を通り過ぎた。
花園せんせいの所に出入りしている、あのうさんくさい男に似ていた。もし、付き合うとしても、ああいう人はイヤ。あんな、金持ちのマダムにモテているのを鼻にかけてそうな、うさんくさい男は。
煮詰まったコーヒーの味が蘇る。変なの。お店のコーヒーなんて、飲んだことないのに。フラペチーノが飲みたすぎて、舌がおかしくなったのかな。そのとき、誰かに優しい言葉をかけられた気がするけど、何も思い出せない。