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    Mogmogsmaka

    ハマったものを軽率に書いていきたいです。現在は真Vのフィン主メイン。

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    Mogmogsmaka

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    7月〜12月にかけて画像SSで投稿していた、牡鹿フィン×主ちゃんの小話まとめです。
    ※フィンの擬獣化(鹿)注意

    2022年牡鹿フィン主まとめ☆牡鹿フィンと主ちゃん

    立派な角に肉付きの良い靭やかな四肢。毛並みは黄金で艶がありふんわりとしていて、形の良いエメラルドの瞳。縁取りに金色の長い睫毛。まるで御伽噺にでも出てきそうな、神秘的な牡鹿。
    「フィオ」
    高い声で鳴きながら、牡鹿…フィンは仕えるべき王である少年の胸に頭を寄せた。大きく立派な角で王を傷付けない様に、鼻先を押し当てて甘えて見せる。
    「うん、有難うフィン。いい子いい子」
    先の戦闘で、彼は先陣を切って活躍した。腰に下げた長剣を器用に口に咥え、果敢に戦い害なす悪魔を屠ったのだ。
    王の手が彼の頭を労い撫でれば、フィンは耳を跳ねさせ短い尻尾をふるりと振った。満足そうに鼻を鳴らして、「フィー」と高く鳴く。
    暫く毛並みを撫でる王の手を堪能していたフィンはゆったりと首を擡げると、王の頬に鼻先を寄せて愛らしくキスをしてみせた。
    「わ、擽ったい」
    これは彼の忠誠の証であると知っている。鼻先のキスを数回続けた後に、フィンはエメラルドの瞳を細めると王の耳元に口を寄せて囁くように鳴いた。
    「フィオ。フィー…」
    「っ…」
    高く、それでいて甘い牡の声色。
    「…今は、駄目だ」
    それは番である王にだけ聴かせる恋鳴き。フィンから愛しい王への、密通のお誘いだった。


    ☆主ちゃんにしか鳴き声を聞かせない牡鹿フィン

    「ナホビノよ。これは鳴かぬのか?」
    靭やかな毛並みを撫でながらマザーハーロットが訊いた。麗しく細い指で優しく毛を混ぜっ返されながらも、フィンは気持ち良さそうに目を細めるだけで口を真一文字に噤んでいる。
    「え?いや、よく鳴いてくれるけど」
    実際に王は彼の鳴き声を幾度となく聴いている。それは甘える声であったり、王にだけ聴かせる恋鳴きであったりと様々だ。
    しかし思い返すと他の誰かが居る時に彼が鳴く所は見たことが無い。鹿はあまり鳴くことがないと言うが、果たしてそれが悪魔であるフィンにも当てはまっているのだろうか。
    「…」
    当の話題の本人は耳をぱたりと跳ねさせると下げていた首を擡げてマザーハーロットを見つめた。エメラルドの瞳がキラキラと輝いている。
    「…ふむ。成程な、そなた…」
    力ある魔人の一人である彼女は彼が鳴かずともその瞳から意思を汲み取り、納得したように呟くと立派な角を撫でカタカタと顎を震わせて笑った。
    「ほほ、愛されておるなナホビノよ」
    「うん?」
    マザーハーロットの言葉の意味が分からず、王は首を傾げる事しか出来なかった。彼女はそんな王と従者たる牡鹿をその場に置いて「邪魔したな」というと赤い獣の巨躯を震わせて去っていってしまう。
    そうして二人きりになり、一体何だったのだろうか、と彼女の背を見送った王の元へフィンがそっと近付くと首を下げてその胸に寄せた。
    「フィン」
    柔らかい毛並みを撫でる。彼は他人に撫でさせる事はするが(但しゼウスには近寄るだけで攻撃をしに行く)、確かに鳴いて見せる事は無かった。
    不思議そうに見つめられる視線に気付いたのだろうフィンは、首を擡げると王の頬へ鼻先でキスをしてから小さく口を開いた。
    「フィー…フィーオ…」
    その口から紡がれる甘い恋鳴きの声色。先程は一つも声を放たなかったが、王の目の前で愛しむ声を惜しげもなく紡ぎ出す。
    フィンの声は番である王を甘く痺れさせていく。
    「ん…フィン…」
    「ミー…フィオン」
    たっぷりと囁かれる愛と懇願の声色に絆され口付けを交わしながら、熱に浮かされる頭で一つの可能性を考える。
    『もしかして、フィンは、俺にしか…』
    「フィー」
    しかしその考えも、フィンから与えられる甘い声と優しい愛撫で頭の片隅に追いやられてしまうのであった。



    ☆牡鹿フィンのもふふわお尻毛をもふる主ちゃん

    王座に近付けば近付くほど、敵は強くなっていく。勿論少年の仲魔達も強いが、身を震わすほどの強敵と出逢えば普段朗らかな彼等も警戒の姿勢を取る。
    「…」
    今はデメテルの謀略への裏切りと協力の元、至高天でゼウスと対峙している最中だった。鍵を巡って争った時よりも強い魔力を纏う姿に対して、仲魔達は緊張と殺気を纏う。彼の姉であり女神であるデメテルのサポートがあるとはいえ苦戦は必須だろう。
    そう、緊張感が走っているのだ。少年を守るように前へ出た仲魔達…ケルベロスは牙を剥いて唸り、クー・フーリンは愛槍を構えて息を殺し、デメテルは必死に弟を見上げ、フィンは鋭い眼差しを向けている。
    『わぁ』
    一触即発。その言葉が相応しいシリアスな展開。
    だというのに、当の話の中心である少年は目の前の強敵であるゼウス…ではなく、仲魔の一人に夢中だった。
    「ふわふわ…」
    鹿は、危険を周りの仲間に知らせるため警戒をすると臀部の白い毛をふんわりと膨らませて主張する。
    今まさに鹿の姿をしたフィンの臀部が綿毛のように真っ白くふんわりと膨らんでいるのだ。尻尾の毛までも膨らんでおり、日頃フィンの毛並みを大変気に入っている少年は自らの危機よりふわふわのお尻に夢中だった。
    「本気のゼウスはとんでもない力ですの…皆さん、覚悟はよろしくて?」
    「勿論、差し違えても主を渡しはしません」
    「オレサマにマカセロ!」
    「グググ…」
    じんわりと、圧倒的な魔力に気圧されて冷や汗が流れる。お互いの間合いを測り、仕掛ける時を待つ。全身の神経が逆立ち痛いほどであった。ゼウスが、にんまりと笑っている。

    「…フィーーーー!?」

    しかし張り詰めた空気を裂いたのは魔法の音でも剣戟の音でもなく、牡鹿のけたたましい鳴き声だった。
    「「「「えっ」」」」
    全員がフィンを振り返る。するとそこにあったのは、彼が纏うケルト紋様の腰布を盛大に捲り、恍惚の表情でふわふわのお尻に頬擦りする少年と、必死に少年を振り返るフィンの姿だった。
    「ほあ…ふあふあ…やわらか…」
    「フィオ!?フィーン!!フィー!」
    腰を掴まれ頬擦りをされながらも、彼にとっては忠誠を誓う王であるから後ろ脚で蹴るなどの無礼をすることは無く、小さく足踏みをしながら必死に王に呼びかけていた。普段は王にしか鳴き声を聴かせない彼がここまで取り乱すのは珍しい。
    「フィン…このおしりは…いけない…このおしりは…俺をダメにする…もふふわ…」
    「フィ、フィー…」
    お尻に頬擦りされながら恍惚の表情で言われ、フィンは困惑していた。今はそれどころではない、少年の命に関わるかもしれない戦いが始まろうとしているのだ。目の前にゼウスが居る。
    暫く主従の「もふふわ」と「フィー」のやり取りを聴いていた。ゼウスも優しいのかそれとも興が失せたのか、警戒心ゼロの隙まみれの少年達へ強襲を行うことはなく暫くそれを眺めると不意に「あー」と声を上げた。
    「…何だかこの尻フェチと合一化するのが馬鹿らしくなってきたぜ、オイ。姉上、俺は帰る。じゃあな」
    呆れたように肩を竦めると後ろ手に手を振って颯爽と消えていった。
    「えっ、ああ、じゃあな、ですの」
    消えた弟に困惑しながらも辿々しく返事をした姉は、再び視線を主従へと移した。
    「主、フィンも困っていますから」
    「オレサマのタテガミ、モフってイイゾ」
    「フィオ…」
    「いや待ってケルベロスもふもふも魅力的だけどフィンのお尻でしか得られない成分がある…あと少し…あと少しだけ…」
    先程までの緊張感が皆無となり、遂に座り込んでしまったフィンのお尻にそれでも顔を埋めたままの少年を仲魔総出で引き剥がそうとしているのを眺めながら、デメテルは思う。
    「彼は本当に黄金の稲穂…でしたのかしら…」



    ☆森の中で眠る牡鹿フィンを見つけた主ちゃん

    学校のある日は仲魔達を妖精の集落に預けている。オベロン王とティターニア王妃も「貴方の仲魔ならば」と快く受け入れてくれているので、何の不安もなく安心して預けることが出来るのだ。
    学校が終わり、アオガミと合一化しナホビノとなった少年は龍脈を伝って妖精の集落に辿り着く。思い思いに過ごしていた仲魔達が「おかえりなさい」と言うのに返事をして、従者であるフィンの姿を探した。
    「フィンならたぶん森の奥だと思うよ。きっと日光浴でもしてるんじゃないかな?」
    とは仲魔のピクシーの言葉だ。礼を告げて少年の脚は森へと向かう。ほんのりと感じられる彼のマガツヒに、確かに森の奥にいると確証を得る。
    長い草を掻き分けて、他のダァトでは見ない青々と茂る大きな木の陰をすり抜け、奥へ。
    小鳥の囀りと風に揺れる木々の柔らかな音、神々しいまでの美しい木漏れ日が降り注ぐ森の中に美しい牡鹿が居る。
    三編みに結われた金の鬣はきらきらと輝き、柔らかな毛並みはふんわりとしていて、装備している緋紅のマントや剣が更にその美しさを引き立てていた。長い睫毛を蓄えた瞳を閉じているフィンの体には、いつもなら見慣れないものが沢山あった。
    「かわいい…」
    と、思わず呟いてしまう。うたた寝している彼の立派な角や背中に、蝶々や小鳥、栗鼠などの小動物が寄り添い留まっているのだ。まるで小さい頃に見たお伽噺のアニメの一幕のような光景。
    フィンを起こさないようにそっと近付く。少年の姿に気が付いた小動物達は、それでも害なす者ではないと判断したのだろう、静かにその様子を見守っていた。
    傍らに座ると、耳の後ろを掻いてやる。大きな耳をぱたりと跳ねさせるが起きる気配は無かった。ふわふわの毛並みが心地良い。
    「俺も、眠くなってきた…」
    静かな森、心地よいせせらぎ、柔らかなフィンの毛並み。つい先程まで学生として学業に励んでいた少年の意識がゆったりと鈍くなっていく。
    「おやすみ、フィン」
    フィンの靭やかな体にもたれ掛かり、甘く誘われる眠りに少年は落ちていった。

    ぴゆ、という小鳥の耳打ちに眠りから目を覚ましたフィンは、小鳥に言われた通りに自らの腹部を見た。
    「…フィオ」
    そこには自分の腹部に頬を寄せて眠っている王の姿がある。安らかに眠る王の周りには兎や小鳥が集まって、その美しい寝姿をうっとりと眺めているようであった。
    フィンはゆったりと首を伸ばすと眠る王の頬を舐める。次いで美しい蒼の髪を繕い、動物達に「このヒトは自分の物なのだ」と知らせる。
    「フィオン、フィー」
    我が王よ、おやすみなさい。
    フィンはそう呟くと、王を護るように体を横たえて薄く開いた唇に口付けを落とした。



    ☆換毛期の毛を抜かれる牡鹿フィン

    換毛期、というものは悪魔であるフィンにも存在している。短い夏毛、長く密度の濃い冬毛。生え変わり時期はブラッシングしてやるとわんさか毛が抜ける。俺のお気に入りの真っ白ふわふわお尻毛も勿論。
    その毛が他の悪魔によって有効活用されてるとは知らなかった。
    今、座っているフィンのお尻付近にチンがやってきている。
    「あ、ナホビノのお兄さんこんにちは!」
    「こんにちは」
    ぱたぱたと翼を振る彼は確か、スキヤバシ付近にいた毒の秘石が好物なチンだったな…と思っていると、彼はフィンのお尻に嘴を差し込みあろうことがそのもふふわ毛を毟り取ったのだ。
    「…何やってるの?」
    正直無茶苦茶動揺した。本当に何やってるの?換毛期がやってきていたためあっさりと毟られ抜ける毛に、フィンも興味は無いようで前脚の毛づくろいをする始末だ。
    その質問に嘴に咥えていた毛を置いて彼は答えてくれる。
    「ボクの巣の材料にするんだよ!フィンくんの毛、ふわふわで気持ちいいんだ〜!」
    確かにフィンの毛はもふもふふわふわで気持ちがいい…けど、まさかこんなに安易に採取されているとは思わなかった。
    「フィン…?」
    割と容赦なく毟り取られているのでフィンに声をかけるが、彼は首を擡げると何でもないようにこちらを見るだけである。
    「フィンくんいつもありがとう!これであったかい巣が作れるよ!」
    これはお礼ね、とダイヤモンドを一つ置くと、チンは毟った大量の毛を咥えて飛び立っていった。フィンのお尻周りには飛び散った毛が落ちて白くなっている。
    「…」
    物凄くごっそり抜けてたけど、本当に痛くないのかな。俺もフィンのもふふわお尻に手を差し込み、そっと握って引き抜いてみる。
    「わ」
    綿毛のようなふんわり白い毛が大量に抜けて手の中にある。それでもフィンはやはり何でもないようで、目を細めて耳をぱたりと動かしているだけである。
    お尻の毛がこんなに抜けると思わなかった…でも確かに体の毛よりもお尻の毛の方がふんわりしているから鳥達の巣には最適なのかもしれない。と、考えていると別の悪魔がやってきた。今度はアイトワラスだ。彼もフィンのお尻と鬣の一部の毛を毟るとお礼を置いて去っていく。
    「成程、需要と供給か」
    荒廃したダァトでは巣材を集めるのも大変だろうし、換毛期のある悪魔の毛を利用するのは理にかなっている。
    「…」
    とはいえ、大切な彼の毛をこうも簡単に渡してしまうのは少しだけ妬けてしまう。
    「フィイ?」
    ああ、もふもふふわふわ。フィンの良い匂いがする。左腕でフィンを抱き締めたまま右手でマントと腰布を捲り背中を撫でる。それだけで気持ちがいい。
    やっぱりこのもふふわ毛も独り占めしたいなぁ。けれど巣材を集める彼らも大変だし。
    「…フィー」
    抱き締めて撫でながら悶々と考えている俺の髪の一束を、フィンが咥えて引っ張った。体を起こして彼を見ると、可愛らしく鼻先でキスをされる。
    「フィーオン」
    じっと見つめてくる翡翠の瞳からフィンの意志が伝わる。確かに毛が他の悪魔に抜かれたって、フィンは俺の大切な騎士であり伴侶だ。
    「じゃあ寒くなってきたら俺と一緒に寝てくれるか?」
    「フィー」
    勿論だと彼は答えてくれる。我ながら抜け毛を貰っていく悪魔に嫉妬するなんて恥ずかしかったけれど、フィン本人を丸ごと独り占めする約束を交わすとそんな嫉妬もすっかり晴れていった。
    明日はまた別の悪魔がフィンの毛を貰いに来るのかもしれないけど、穏やかな気持ちで眺められそうだ。



    ☆牡鹿フィンの恋路を応援するピクシーちゃん

    ピクシーは彼の背中に俯せに凭れ掛かりながら、小さな手で立派な鬣を混ぜっ返していた。それを咎めることはなく、フィンは草の上に座り込むと大きな耳をぱたぱたと動かしながら他の悪魔と話している王を見つめている。
    「鈍いよねー主は」
    不貞腐れた声色に、フィンは耳を跳ねさせると答えた。
    『仕方ない。種族の違いもある』
    「そうかもだけど」
    鬣から手を離し虹色の羽をはためかせて飛び上がると今度は彼の頭の上に座った。
    「こんなにアピールしてるのに!」
    ぷんぷんという擬音が似合うほど頬を膨らませる彼女の言葉に、フィンは少しだけ笑ってしまった。
    牡鹿の姿をした悪魔であるフィンの、主である少年への恋心を知っている彼女は最初こそ興味本位で彼を観察していたが、懸命にアピールする姿にいつしか本当に結ばれて欲しいと応援するようになっていた。だからもどかしい。
    しかし以前にもどかしさに耐え兼ねて告白を手伝おうか、と提案した所、彼に断られてしまったので見ているしかできない。
    『大丈夫だ。それに、次はどうやって伝えようかと考えるのも中々楽しいもんさ』
    そう愉快そうに答える彼に悶々としていると、話を終えた少年がこちらに歩いてくるのが見えた。フィンはゆったりと体を起こすと、ふわふわの尻尾を跳ね上げて歩み寄る。
    「何、二人で秘密の相談でもしてたの?」
    「フィー」
    同じ悪魔であるピクシーと違い、少年の耳にはフィンの言葉は鳴き声としか聴こえない。だから言葉で想いを伝えることは叶わない。
    「フィーオ、フィーン」
    それでもフィンは構わず少年に聴かせるためだけに求愛の恋鳴きをした。甘く鳴いて頭を擦り寄せるが、少年は甘えん坊だね、と微笑んで鬣を撫でるだけだ。
    『愛しています、我が王よ。どうか少しでも想いが伝わりますように』
    何度も何度も、その恋鳴きをする姿を間近で見ているピクシーは胸が苦しくなる。けれど手を出すことは出来ない。
    撫でられる手を幸せそうに受け入れる彼を見、一つ溜息を吐いて羽ばたき飛び上がると他の仲魔達の元へ向かった。
    「…」
    きらきらと煌めく羽を揺らし去っていく彼女の背を見送った少年は、撫でていた手を止めるとフィンの前にしゃがみ込んだ。
    「フィオ?」
    小首を傾げるフィンの、ふわふわの頬を両手で挟むとじっと翡翠の双眸を見つめた。
    「あのね、フィン。お前はよく俺にだけ違う声色で鳴いてみせるだろ?何か意味があるのかなって、調べたんだよ」
    「…」
    少年の言葉を、フィンは耳を立てよく聴こうとした。けれど中々次の言葉が出て来ず、比例して白い頬が赤く染まっていく。眉間に皺を寄せてあー、うー、と唸ると恥ずかし気に唇を震わせた。
    「…その、お前さ、本当に恋鳴きを聴かせる相手が俺でいいの?」
    「…ミィー」
    遂に伝わった想いに、フィンは大きな瞳を瞬かせると尻尾を振りながら『勿論だとも』と答えた。言葉は通じずとも嬉しそうなフィンの様子に質問の答えを理解した少年は、小さく「そっか…」とだけ返し、照れ隠しにふわふわの頬を揉んだ。
    「フィ」
    「んむ」
    そんな初々しい少年に、フィンは一歩前脚を進ませると無防備な唇に口付けた。ふわふわの柔らかい毛と、しっとりとした唇が触れる。
    ちゅ、と可愛い音を立てて離れた唇に、少年は熟れた林檎のように顔を染め上げるとフィンの頬を無茶苦茶に揉んだ。
    「も、フィンッ、いきなりキスするとか…!お前がそんなに手が早い鹿とは思わなかったよ!!」
    「フィー!?」
    照れ隠しで乱暴に揉まれついでに撫でくり回された後、ぼさぼさになったフィンをそれとは逆に優しく抱き締めて耳元で囁く。
    「俺もフィンを愛してるよ。今まで気付けてやれなくてごめんな」
    「…フィオン…」
    『そんなことはないよ』と頭を擦り寄せて答える。暫く抱き合い、体を離すと鬣を撫でた。今までよりも優しく愛しさを込めて撫でる指先が心地良くてフィンは目を細める。
    『…ほら、大丈夫だったろう』
    自分の恋路を心配してくれていた彼女に、真っ先に報告してやらないとと思った。
    そして君が応援してくれたお陰でずっと頑張れたんだ、とも。
    もう一度幸せな口付けを交すと、フィンはピクシーの元へと吉報を届けに向かった。



    ☆お昼寝する牡鹿フィン

    窓から射し込むぽかぽかの陽射し。外では小鳥が可愛らしく囀り、木々のせせらぎも合わさり最高の音楽だ。
    「フィ」
    更には仕える王であり、番でもある少年にゆっくりと優しく背中を撫でられ、フィンは正に夢見心地だった。目を細めてぱたぱたと耳を跳ねさせながら訪れる睡魔と戦う。
    少年の部屋で、学業と冒険合間の貴重な休みを共に過ごさせてもらっているフィンは読書をする彼の邪魔にならないようにとラグマットの上に佇んていたのだが、すっかり微睡んでしまっていた。
    勿論それを咎めるものは誰もいないし、少年はそんなフィンを優しく眺めているだけであったから緊張感もない。あるのは番で過ごすあたたかな時間だけ。
    『寝るものか…俺は王の騎士、なのだから…』
    しかし瞼は重くなり、起こしていた首も徐々に降りていく。王の騎士としてここで眠るなど、有事の時にどうするのだと自分を叱責しながら睡魔と戦っていたが、原因は他にもあった。
    「フィン、寝ていいよ」
    読んでいたページに栞を挟み、閉じた本をテーブルに置いた王がフィンの首をそっと引き寄せた。そして自らの膝の上に彼の頭を乗せると金の鬣を梳かし、耳の裏から顎の裏までを丁寧に撫でる。
    「…フィー…」
    そこはフィンが一番撫でられるのが好きな場所だ。
    あたたかな陽射し。小鳥と木々の子守唄。愛しい王の膝と優しい手に、睡魔と葛藤していたフィンの体は弛緩していく。折っていた長い脚をラグマットの上に投げ出すと、耳をぱたりと跳ねさせて長い睫を震わせる。
    「フィーン…ふ…」
    大きな口を開けて欠伸を一つ。その後にぺろぺろと鼻を舐める仕草も愛らしくて少年の頬は綻んだ。
    「…おやすみフィン」
    「ふぃー…」
    眠りに誘う唇を額に受けて、フィンは心地良い眠りに身を委ねた。



    ☆仔鹿にされたおフィン

    何の呪詛かはたまた魔法か、立派な体躯の牡鹿だったフィンが可愛らしい鹿の子模様の仔鹿になったある日のこと。
    「ミー、フィーン」
    小さな脚をちょこちょこと動かしながら必死に王の後ろを追いかけていた。中身も子供になっているようだが、それでも王を慕う気持ちは変わらないらしく(もしかすると母親と思っているかもしれないが)、いつも彼の後ろを追いかけていた。此方を見上げながら歩く姿がなんとも可愛らしくて、振り返れば大きな翡翠の瞳を嬉しそうに輝かせながら尻尾を大きく振る。
    「うわああ!だめ!可愛い!フィン!」
    何せあまりにも可愛らしいので、王はいつも彼を抱き抱えて移動していたが、見かねたアオガミに「少しは歩かせないといけないのではないだろうか」と苦言を呈されてからはなるべく歩かせるようにしている。それも少ししかもってはいないけれど…アオガミは目を瞑っていた。
    「はぁ…かわいい…」
    普段の彼はとても格好良かったから、可愛らしいのは新鮮であった。小さく細い体を抱き上げ、撫でてやれば牡鹿であった時と同じく嬉しさを隠さず高い声で鳴く。仔鹿らしい綿毛のような細くふんわりとした毛並みも魅力的なので抗えないのだ。
    「フィー」
    そのふわふわの誘惑に負けて堪らず背中に顔を埋め思い切り吸えば、あたたかくふわふわな毛並みの感触と若い草と太陽のいい香りが王を包み込んだ。まだ仔鹿だからだろう、普段の彼から香る甘いフェロモンの匂いはしない。
    頬擦りなんてしてみてもフィンは嬉しげに声を上げるだけであった。あまりにも可愛いのでやはりいつもの如くそのまま抱き抱えて目的地まで移動する。
    と、そんな平和な出来事の最中に悪魔の襲撃を受けた。
    「敵だ!来い!」
    こちらもすぐさま仲魔達を呼び出し戦闘態勢を取る。ただし王はフィンを抱えたまま。というのも、今仔鹿のフィンには戦闘は無理だと考えたからだ。ならば守らなければならない。前線は仲魔達に任せながら、抱えた状態でナホビノソードを振るうのが一番安全だと考えた。
    「フィ!フィー!!」
    「あっ!フィン!」
    しかしフィンは勇ましく鳴き声を上げると、抱えられていた王の腕から抜け出し、彼を守るように目の前に立ったのだ。細い脚に力を入れて踏ん張り、お尻の毛を警戒に白く膨らませながら敵を睨んで必死に声を上げている。
    「…そうだな、フィン。一緒に蹴散らすぞ!」
    「フィー!」
    いくら彼が仔鹿であっても、紛うことなく王を守る勇敢な騎士であった。
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    おんじゃ@ojachanco

    DONEどうも初投稿&初執筆でございます。
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    フィンに一目惚れの初恋をしてしまった主人公による苛烈で理不尽なドタバタハートフルラブコメ少女漫画風フィン主です。

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     散々他人から言われてきたが自覚はしている、それはダアトに飛ばされナホビノとして戦っている今でも変わらない。
     ーただ、成り行きで此処まで来た
     どんな苦境や鬼門だってその一言ですべて乗り越えて、くぐり抜けてきた。最初は恐れていた悪魔も逆に自分に恐怖を覚えるようになる程だ
     ー今日もやり過ごせるだろう、そう思っていたのに…

       あの瞳の、あの輝きを見た瞬間。

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    樹島を攫ったラフムを追うためダアト品川区を進み続ける僕と磯野上はアオガミが探知した気配を便りにコウナン四丁目方面へ向かうべく御楯橋を渡っていた、この辺りに悪魔はいない事を確認し、彼女と慎重に歩を進めていた。
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