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    ariari2523_dai

    @ariari2523_dai

    @ariari2523_dai
    ポプダイ中心に右ダイ、竜父子、ダイレオ。左右固定というよりは、解釈固定。「ダイ君可愛い」が信念。原作既読のアニメ完走組。基本的にSS書いてるか妄想してる。成人済み。

    https://www.pixiv.net/users/69573

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    ariari2523_dai

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    ダイ君と叶えたい願い(ポプダイ)
    原作軸。謎時空。えちちなシーンは匂わせ程度。
    ポップ視点→モブメイドさん視点。

    WEBオンリーイベント「最高の友達!!」
    展示SS その2

    #ポプダイ
    popDie
    #最高の友達!!
    bestFriends!!!
    #さいとも
    evenIf

    ダイ君と叶えたい願い(ポプダイ)「そう……上手いぞ、ちゃんとこの間おれが言ったこと守れてる」
    「ほんと? おれ、ちゃんとできてる?」
    「ああ。まだちょいと危ういとこはあるけどな」
    「ううう……頑張るよ」
     椅子に座って書き物をするダイの背後から、おれは小さな手が辿々しく綴っていく文字を見守った。細い長方形の紙切れへと少しばかり震えた手が綴る文字は、形は歪んでいて悪いし、真っ直ぐに並ばず次第に斜めになっていて読みにくいことは否定しない。けれど、手習いを始めたばかりの辛うじて文字だと判別できるかなという程度だった頃に比べれば、飛躍的にレベルアップしていると言える。
     この紙は短冊、っていうらしい。年に一度願い事を書き込んで所定の植物に飾り付け、星に願う遠い異国の行事だと、今朝会った姫さんに説明された。明日の夜に城の中庭に掲げるのでよろしくねという一言とともにダイの分の短冊も渡されたので、つまるところこいつが願い事を書き込むまで面倒を見ろってことだとおれは解釈した。そんでもって今現在の状況になっている。
    「よぉっし、書けた!」
     ダイが上半身だけ振り返って満面笑顔で筆を置く。
     そんなダイの頭をわしゃわしゃと撫でてやると、おれは苦い想いを抱えながら完成した短冊に目を落とした。
     
    『世界が平和になりますように  ダイ』
     
     短冊には願い事を書けばいいとだけ説明を受けている。だから、別に、これでも全然問題はない。間違ってはいない。けどよ。
     これは『勇者』の願い事であって『ダイ』の願い事じゃない。おれはそんな気がして心がずんと重くなるのを感じた。ダイはこんな時まで勇者の肩書きを下ろせないんだろうか。こんな時にまでただの十二歳の子どもの願い事を書くことを許されないんだろうか。おれより三つ年下のこの弟弟子がこんな願い事を書くことを当然だと思っている世界は、そうすることを周囲の大人たちから雰囲気で願われている世界は、本当に正しいものなんだろうか。
    「おまえなぁ……本当にそれでいいのかよ」
    「え? 何かおかしい? 変かな?」
    「変じゃねぇよ。でもちょっとつまんねぇ願いごとだなって思ってさ」
    「えー?! 全然つまらなくないよ、大事な願い事だよ!」
     当然のようにあがった抗議の声を聞きたくなくて、おれはダイの唇を塞ぐためにわざとちゅっと音を立てて啄むようなキスを落とした。突然のキスにダイも目を白黒させたみてぇだが、紡ごうとしていた言葉を飲み込んでおとなしくおれのキスを受け入れている。
    「ん……っ、は……ぁっ………」
     唇を離せば再び抗議の声があがりそうだったので、おれは何度も角度を変えて小さな瑞々しいそれを塞いだ。
     とろんと熱を帯びてダイの琥珀色の瞳が閉ざされていく。陽に焼けた健康的な頬もまた薄っすら桃色に染まっているのを見届けて、おれはそっと唇を解放してやった。ダイは忽然とした表情でおれを見上げている。こいつホントにやばいくらいに可愛いなって、こんな時は思っちまう。
     けどこんな簡単に自我を放り出しちまってさ。さっきの願い事だってそうだ。大意に沿って願い事なんか書いている。これじゃ意のままに何色にでも染められそうだなんて、そんな仄暗い感情まで芽生えさせちまう。
    「ポップ……?」
     頑是ない子どもがどうしたのかとばかりにおれの名を呼ぶ。
     おれはダイの頬に手を添えると、そっと前へと屈み込んだ。
    「ダイ様、ポップ様、お飲み物をお持ちいたしました」
     コンコン、と控え目に扉をノックする音のあとに聞き覚えのある声が続いた。おれたちの世話をよくしてくれるメイドさんの声だ。そう言えばいつもの手習いをしているのであれば、そろそろ休憩する時間だった。
     あまり褒められたもんじゃない感情に押されるまま再びダイにキスしようとしていたおれは、小さく息を吐いてそっとダイから身を離した。危ねぇ、危ねぇ。このままダイに覆いかぶさって机の上に縫い止めて、いくとこまでいっちまうところだった。
    「どうぞ」
     答えてから、ここがダイの部屋だったことを思い出す。部屋の主でもないのにおれが応答してどうすんだ。ダイはダイのやつで、おれの声でようやく我に返ったようで、慌てて口元を手の甲で拭っていた。悪ぃ、そんな深いキスをしたつもりなかったけどそこそこの惨状になってたみてぇだな。
    「失礼いたします」
     扉が開き、ワゴンを押しながらメイドさんが部屋に入ってきた。
    「お茶とマドレーヌはこちらの机に置かせていただいてもよろしいでしょうか?」
    「あぁ、すみません、ありがとうございます」
     おれの返答にメイドさんは微笑みながらてきぱきとお茶の用意をしていく。淀みない手の動きは申し分ないんだが、時折ちょっと視線を感じる。
     この城に勤める少女めいたメイドさんは、たいてい誰もが大なり小なりのミーハー心を持っている。姫さんに聞いてみたら、城仕えの人間とはいってもメイドさんの多くは歳若く、好いた惚れたは学校に通う子どものような一面があるんだそうだ。
     城勤めってのは行儀見習いの側面もあるもので、ある程度の礼儀や作法を学んだメイドさんの多くは、転職や結婚を機に辞めていく。勤めに残ったメイドさんは次第に落ち着いていくものなので、若いうちのそういった感情は仕事に差し支えない限り黙認されているらしい。
     ただこのメイドさんは、なんかちょっと他のメイドさんとは違う雰囲気を纏ってるメイドさんで、おれは少しばかり気にするようにしている。別に殺気や害意を感じるわけじゃねぇし、仕事ぶりは確かに真面目で真摯なものだったので、文句をつけるようなもんじゃないんだけどよ。
     この人、もしかしてダイにそういう感情向けてるんじゃねぇのかなって思ってて。なんかよくダイのこと見てるし。平々凡々な顔立ちのおれと違って、ダイは確かに今でこそ幼さが際立ってて目立たねぇけど、将来はぜってぇイケメンになるに違いないんだよな。あの整った容貌の父親の遺伝子と、顔は知らねぇがダイにそっくりだという母親の遺伝子が合わさるんだ。世の中の不公平感を少し感じる。こいつ最強かよ。
     そんなことをおれが考えているうちにお茶の支度は終わったみたいだった。ふんわり茶葉の香りが立ち昇る紅茶と、芳ばしいバターの香りが広がるマドレーヌが目の前に並べてられている。
    「わぁい、いただきます!」
     ダイがさっそくティーカップを手にしてひと口飲んで息を吐いた。
    「いつも美味しい紅茶をありがとうございます」
    「お褒めいただき光栄です、ダイ様」
     微笑んで応え、おかわり用の紅茶の用意を始めたところで、メイドさんが不意に小さく何か呟いた。言葉は聞き取れなかったが、彼女の視線はダイが書いた短冊に向けられている。
    「世界が平和に……、これはダイ様のお願い事ですか?」
    「そうです。さっきポップに見てもらいながら書いたんだけど……変ですか?」
    「……いえ、全然変ではございませんよ。とても……立派なお心掛けですわ」
     メイドさんは少しだけ困ったように眉尻を下げて微笑んだ。どこか寂しさすら感じさせる笑みを浮かべたままポットの茶葉を取り替え、お湯を注いで蓋をして蒸らし始める。
    「ダイ様はこの他にどんなお願い事を考えられたのですか?」
     ふとメイドさんとおれの視線がかち合った。憂いを帯びた瞳は、彼女がダイの書いた願い事を知っておれと同じことを感じているんだなってわかって、なんだか同志を得たような心強い気分になった。
     そうだ。ちゃんと聞こう。『ダイ』の願い事を。こんな公に示すためのものじゃなく。弟弟子の、三つ年下の親友の、想いを通じ合わせた伴侶の、本当の願い事を。
     背中を押してくれた彼女に感謝しなくちゃな。
    「他に……?」
     大きな目をきょとんとさせてダイが小首を傾げる。想像外のことを聞かれたと言わんばかりの表情だ。
     こいつは本当に世間知らずで物欲に乏しいし、他人に我を通すこともあまりない。物はない、自分以外に人間はいない、唯一の身内は育て親のモンスター。まぁ育った環境が環境だけに、そういった感情が育ちにくかったんだろうな。
    「ダイ、他になんか願い事ないか?」
    「ポップまで……急にどうしたんだよ?」
    「なぁ、ダイ。世界を平和にするのはお星様の仕事じゃねぇ、おれたちのすべきことだ。他力本願してねぇで、おまえ何か他の願い事を考えろ」
    「うっ……そう言われればそうだけど………。うぅん、他にお願いしたいことあるかなぁ」
     腕を組んでうんうん唸り始めたダイを、おれは内心胸を撫で下ろしながら見守った。何か考えてくれたらいい。『ダイ』が望むことを『ダイ』の言葉で聞きたい。
     ふと目をやれば、メイドさんも優しく微笑んでダイを見つめている。やっぱこの人ダイのこと好きなのかな……。ダイより五つか六つ歳上ってところか。いやいや、今はダイと歳が少し離れてると感じちまうけど、あと十年も経てばこの程度は歳の差のうちに入らないようになるだろうしな。
     でも悪ぃな、メイドさん。おれはダイを譲る気も手放す気もない。こいつはもうおれのものだ。おれのダイだ。こいつの唇の柔らかさを、吸いつくような肌を、触れられてあげる甘い声を、温かで包み込むような最奥を、誰も知らない『ダイ』をおれはもう知っている。
    「あ……っ! えっと、ひとつ書きたいことあるかも」
     ダイがぱっと明るく顔を輝かせた。
    「お、願い事でてきたか。よしよし待ってろ。おれ、どこかで短冊を貰ってきてやっからよ」
    「その必要はございませんわ」
     メイドさんはきっぱり言い切ると、懐から何も書かれていない真新しい短冊を取り出した。それをダイの前に差し出して彼女は静かに微笑む。
    「こんなこともあろうかと一枚ご用意しておりました。どうぞお使いくださいませ」
    「わぁ、ありがとうございます!」
    「……なんで短冊なんか持ち歩いてんすか………?」
     おれの疑問を軽くスルーして、メイドさんは蒸らし終えたおかわり用の紅茶を別の温めたポットへと注ぎ始めた。あぁ、うん、お仕事ご苦労様です。
     やがて真剣な手つきでダイが願い事を書き始める。何と書くつもりなのか気になって、おれは短冊についての追求などどうでもよくなってしまった。
    「これならどうかな、ポップ?」
     改めて短冊に書かれた願い事を見て、おれはもちろんメイドさんも安堵に目を細めた。そこには等身大の子どもの、未来を想うささやかな願い事がある。
    「素敵なお願い事ですわ」
    「おっ、嬉しいこと書いてくれるな。いいんじゃねぇの? シンプルでおまえらしい」
     
    『これからもずっとポップと一緒にいられますように  ダイ』
     
     少しはにかんで笑うダイを、おれは力いっぱいぎゅうぎゅうと抱きしめてやった。やがてあがった苦しいというダイの文句は完全に無視する。腕の中にすっぽり収まるこの小さな身体が愛しくてたまらない。
     叶えような、ダイ。おれと一緒に。大魔王を倒して平和になった世界で、ずっとともに生きていこう。
     メイドさんが退出の言葉を告げて部屋を出て行く。彼女の姿が完全に扉の向こうに消えたのを確認すると、おれは腕の中のダイを抱き上げ、額に、頬に、鼻先に、そして最後に楽しげに笑う唇に口づけた。
     
     
     
     
     
     
     
     明日は七夕という異国の行事が行われるみたい。手渡された短冊なる願い事を書き入れる紙を見下ろしながら、私は長い長いため息を吐いた。
     推し活してると願い事なんて多すぎてひとつに絞れないわ。ざっと見繕っても、『ポップ様とダイ様が城下町デートとかしますように』とか『ポップ様とダイ様が結ばれますように』とか『ポップ様とダイ様の結婚式に参列したい』とか、他にも色々あって両手の指の数じゃ足りないってやつよ。
     お祭り騒ぎに浮き立つ周囲を見渡したのちに、私は手にした短冊を懐にしまった。今すぐ願い事をひとつになんて搾れない。
     まぁいいわ。短冊に書く願い事は、ポップ様とダイ様の様子を窺ってからにしましょう。どうにも私が見ている限り、ポップ様には勢いが足りないと思うの。兄のようにダイ様に接するのもいいけれど、キスのひとつやふたつ、ぶっちゅーっといってほしいわ。
     ————うん、わかってる。おふたりは別につきあってるわけじゃないって。これは私の願望、いえ、単なる妄想。いっそのことさっきの短冊に『ふたりが付き合い始めますように』って書くべきかしら。
     目まぐるしく妄想を展開していた私は、ガチャンという甲高いティーセットを棚から降ろす音に我に返った。
    「ポップ様に御就寝前のお飲み物をお持ちしなきゃ」
    「あなたは昨日行ったじゃない。今日は私の番よ。持ち回り制なのを忘れないでね」
     ポップ様にお近づきになり隊の隊員たちがお盆とティーセットを囲んで静かに火花を散らしている。それを横目に私はワゴンの準備を始めた。
     懐かしいわね。私もかつてはあの火花を散らす隊員のひとりだったわ。救国の英雄でそこそこの顔面偏差値かつ歳の近いポップ様狙いの子たちって本当に多いのよ。でも今は違うわ。私は私の真の望みを知ってしまったんですもの。
    「じゃあ私はダイ様に御就寝前のお飲み物を用意するわね」
    「ええ、よろしく!」
    「頼んだわよ!!」
     同僚たちの快い返事を背に受けて、私はさりげなくワゴンに二人分の茶葉とティーセット、それから料理長お手製のバターたっぷりマドレーヌをふたつ皿に乗せる。
     ふふふ……まだまだ観察力が足りないわね。甘い、甘いわ、あなたたち。この短冊とやらは城にいる全員に配られたと聞いたわ。つまり、ダイ様にも当然配られている。
     でも文字を書くのが苦手なダイ様が、ひとりで短冊に願い事を書くとは思えないわ。必ずポップ様が付き添っているはず。
     いつもの手習いであれば、ポップ様のお部屋におふたりはおられるでしょう。でも今日みたいなイレギュラーな場合は、ポップ様が気を利かせてダイ様のお部屋を訪ねているとみるのが常套。私の観察眼に狂いはないわ。
     どんどんと重くなって澱んでいく空気を背中で感じながら、私はワゴンを押して配膳室を出ていった。まぁ、さすがに取っ組み合いの喧嘩はおこらないでしょう。
     
     
     
     
     
     私の推測した通り、ポップ様はダイ様のお部屋に行かれているようね。物音どころか灯りの一筋さえも漏れていないポップ様のお部屋の前を素通りして、私はダイ様のお部屋の扉をそっとノックした。もしイイカンジな雰囲気になってたら邪魔しちゃうことになってしまうでしょ? ……うん、わかってる、妄想なのは。
    「ダイ様、ポップ様、お飲み物をお持ちいたしました」
    「どうぞ」
     あら、ダイ様のお部屋だっていうのにポップ様がお返事なさったわ。ダイ様ったら返事をする余裕もないほど文字を書くことに熱中しているのかしら。それともアレ……遠い異国の通い婚的風習みたいなカンジで、ダイ様のお部屋はポップ様のお部屋と見做すとかいうやつですか?!
     妄想だけで興奮冷め止まぬ私だったけど、ひとまず入室許可を得たので、冷静さを装いながら扉を開け、ワゴンを押してダイ様のお部屋へと入った。
     何故だかダイ様は手の甲で口もとを拭っていたわ。ポップ様が飲み物を用意していたのかしら? でも特にカップや水筒の類は机上にはないみたいだけど。
    「お茶とマドレーヌはこちらの机に置かせていただいてもよろしいでしょうか?」
    「あぁ、すみません、ありがとうございます」
     またポップ様がお返事をなさる。なるほど、これはこの部屋の主はポップ様だと主張したいってことね、きっと! いつものお兄ちゃん然とした態度はどこへいったのかしら。いつになくダイ様をリードしている気がするの。
     もしかしておふたりの関係が一歩先へ進んだのかしら。もし本当にそうならば見逃すわけにはいかないわ! お茶の支度をしながらおふたりを観察して昨日との違いを見つけなくては。
     ポップ様はぴったりと背後からダイ様とくっついて何やら真剣にぶつぶつと独り言のように言葉を零されている。そのくっつき具合は恋人同士の距離感だと思うんだけど、このふたりにとっては日常茶飯事のことね。
     ダイ様は足をぶらぶらさせながらポップ様の腕に半ば頭を預けて、湯を注がれたガラスのポッドの中で茶葉が踊って開いていくのを楽しそうに見ていた。それって恋人同志の距離感以下略。特にいつもと変わった様子が窺えなくて私は内心でしょんぼりした。
     そんなことを私が考えているうちにお茶の支度は終わってしまった。ふんわり茶葉の香りが立ち昇る紅茶と、芳ばしいバターの香りが広がるマドレーヌをおふたりの前に並べる。これといって何も発見できなくて歯軋りしたくなるほど無念だわ。
    「わぁい、いただきます!」
     ダイ様がさっそくティーカップを手にしてひと口飲んで息を吐いた。
    「いつも美味しい紅茶をありがとうございます」
    「お褒めいただき光栄です、ダイ様」
     子どもらしい真っ直ぐで飾り気のない素直な感想だわ。ダイ様は小難しいことをお考えになるのは苦手のご様子ですしね。
     でもこういうストレートなお言葉をいただけると、やはり嬉しく思ってしまうものなの。おかわり用の分も張り切って作っちゃうんだから。
     微笑んで応え、再度紅茶の用意を始めたところで、私はダイ様が短冊に願い事を書き終えていることに気づいた。勝手に見ちゃ悪いとは思うんだけど、こうもどどーんとばかり机の上に広げられてると、むしろ視界に入れない方が難しいじゃない。
    「ちっ……やっぱりラブのラの字もない願い事だわ………」
     思わずぼそっと声に出してしまったわ。
     そうよね、現実的にはおふたりは恋人同士でもなんでもないんですもの。甘い蜜事を吐き出すパリピな陽キャが書くような願い事をダイ様が書くわけないわよね、当たり前じゃないの!
     とはいえ、なんとか願い事を書き直してもらえないかしら。萌えさせてほしいとまでは言わないけれど、こんなありきたりな願い事じゃつまらないじゃないの。
     それになんだか聞き分けの良すぎる優等生の願い事すぎて子どもらしくないわ。いくらダイ様が勇者様だっていったって、まだまだちっちゃい子どもじゃない。もっとのびのびとした願い事を書くべきよ。————そう、ポップ様と相思相愛の恋人になれますように、とか!
    「世界が平和に……、これはダイ様のお願い事ですか?」
    「そうです。さっきポップに見てもらいながら書いたんだけど……変ですか?」
    「……いえ、全然変ではございませんよ。とても……立派なお心掛けですわ」
     ダイ様ったらこの願い事で満足してるのね。勇者根性手強いわ。変えていただくのは至難の業ね。
     何か……何か考えなくちゃ。ダイ様の願い事を変えさせる方法を。私はポットの茶葉を取り替え、お湯を注いで蓋をして蒸らし始めた。とにかく作業しながら頭を回転させるのよ。
     そうだわ、さり気なく願い事の候補を聞き出すってのはどうかしら。そこから他の願い事へ誘導できればしめたもの。ダイ様は押しに弱そうだし、この作戦でいけるんじゃないかしら?!
    「ダイ様はこの他にどんなお願い事を考えられたのですか?」
     ポップ様、ポップ様関連で何かないですかダイ様!! こんなに仲がいいんですもの、ひとつやふたつあるでしょ?!
    「他に……?」
     大きな目をきょとんとさせてダイ様が小首を傾げる。想像外のことを聞かれたと言わんばかりの表情だわ。ああ、そんなお可愛らしい言動……ポップ様以外の者には見せられないわね。
     思考が昂りすぎて思わず勢いよくポップ様へと視線を向けてしまった私は、少しばかり驚いたようなお顔をされたポップ様と視線がかち合った。
     あ、やばいわ。挙動不審なメイドだと思われておふたりから遠ざけられてしまったら、ポップ様&ダイ様ウォッチングに支障がでちゃう。
     けど私の焦りに反して、ポップ様はとても落ち着いた静かな視線を私に向けてくる。何なのかしら、この同意を求められてるみたいな真剣な瞳。
     はっ! もしかしてポップ様もダイ様の願い事を変えたいんじゃないかしら。そう、きっとダイ様に、相思相愛の恋人になれますように、とかそういうのを書いてほしいのよ! ついに私の妄想が実を結ぶ時がきたのかしら?!
    「ダイ、他になんか願い事ないか?」
    「ポップまで……急にどうしたんだよ?」
    「なぁ、ダイ。世界を平和にするのはお星様の仕事じゃねぇ、おれたちのすべきことだ。他力本願してねぇで、おまえ何か他の願い事を考えろ」
    「うっ……そう言われればそうだけど………。うぅん、他にお願いしたいことあるかなぁ」
     ポップ様ナイスリードですわ! ダイ様の想いそのものは否定せずに別の願い事に誘導する……さすがは勇者の魔法使い、卓越した頭脳の持ち主とうわさになるだけあるわね。
     腕を組んでうんうん唸り始めたダイ様を、ポップ様がほっとしたような表情で見守ってる。
     ちょっと私の妄想と願望が二枚目すぎるきらきらなポップ様を生みだしてるだけで、実物のポップ様だって十分にお優しくてダイ様思いの兄弟子なのよね。
     これであともう一押しさえしてくれれば、素敵な恋人同士になれるのに……。ダイ様あんなにちっちゃいんだから物理的に押し倒すくらい余裕でしょ?! 服なんかひん剥いちゃっていいのよ?! それともこんなちっちゃいダイ様に腕力で勝てない……とか? まさかね……ポップ様いつも軽々とダイ様を抱き上げてるし、魔法使いといえどそこその力はありそうなんだけど。
     ん? なんだかポップ様にじっとりとした視線を向けられてる気がするわ。私、今の妄想を口にしてしまってたかしら? いや、そんな事はないはずだわ。品行方正なメイドを装って数年、化けの皮なんて剥がれたことないもの。
    「あ……っ! えっと、ひとつ書きたいことあるかも」
     ダイ様がぱっと明るく顔を輝かせた。
     お日様笑顔ってこういうのをいうのね。屈託なく無邪気な微笑みは年相応のもので、なんだか安心しちゃうわ。ポップ様もさっさと私からダイ様へと視線を移してる。よかった、ちゃんと猫を被れてたみたいね。
    「お、願い事でてきたか。よしよし待ってろ。おれ、どこかで短冊を貰ってきてやっからよ」
    「その必要はございませんわ」
     部屋を出て行こうとするポップ様を制止して、私は懐から何も書かれていない真新しい短冊を取り出した。それをダイ様の前に差し出して静かに微笑む。
     煩悩が溢れすぎて何も書けなかった短冊に、これ以上ない出番がきたわ。あの時懐に仕舞った私グッジョブ!
    「こんなこともあろうかと一枚ご用意しておりました。どうぞお使いくださいませ」
    「わぁ、ありがとうございます!」
    「……なんで短冊なんか持ち歩いてんすか………?」
     ポップ様の当然の疑問を軽くスルーして、私は蒸らし終えたおかわり用の紅茶を別の温めたポットへと注ぐことにする。何故短冊を持ち歩いていたかなんて正直に言えるわけがないでしょ。
     スルーをし続けているうちにポップ様も追求を諦めたみたい。というか、ダイ様が願い事を書き始めたからかしらね。ポップ様ったらどんな時でもダイ様を最優先されるもの。はたから見てるとちょっと異常なくらいよ。
     このことについては、ポップ様とダイ様以外のお仲間が集まられている時に話されているのを聞いたことがある。気をつけて見ておいてやらねば、みたいなこと言っておられたわ。仲がいいって、戦いの場においてはいいことだけじゃないのね。
    「これならどうかな、ポップ?」
     改めて短冊に書かれた願い事を見て、ポップ様が穏やかな表情で安堵に満ちた目を細められた。どれどれと私も拝見させていただく。
     おお! やったわ……ついに確変、この時がきたってやつね!! ちょっとばかりラブの圧が弱いし、できればもっと深いアレコレをお願いしたいところだけど、初めの一歩だからまぁこれくらいでも良しとしましょう!
    「素敵なお願い事ですわ」
    「おっ、嬉しいこと書いてくれるな。いいんじゃねぇの? シンプルでおまえらしい」
     
    『これからもずっとポップと一緒にいられますように  ダイ』
     
     少しはにかんで笑うダイ様を、ポップ様が力いっぱいぎゅうぎゅうと抱きしめてる。いつものハグより熱烈だわ! これはもしかしてイケるんじゃ?!
     いい……いいわよ……もっとやれ! いけ、そこだ、そのまま抱き上げて押し倒して!! ちゅーして、ちゅー!!!
     はっ! もしかして私の存在が邪魔かしら?! いくらなんでも他人の目のあるところで行動に移すほどポップ様もダイ様もハレンチじゃないわよね。
     私は大急ぎで使い終わったポットや茶道具をワゴンに乗せた。もちろん大きな音を立てておふたりの意識を反らしたりなんかしない。その辺は自他共に認める優秀なメイドなのよ私。
     退出の言葉を告げて、私は完璧な作法で部屋を出て行く。
     邪魔者は消えます。どうか今日こそちゅーのひとつやふたつやみっつくらいやっちゃってくださいな。
     
     
     
     
     
     今にも溢れそうになるあくびをなんとか飲み込み、私は配膳室へと向かった。窓から差し込む朝日が眩しい。っていうか、目に沁みる。昨夜は妄想が荒ぶりすぎて、全然眠れなかったわ。
     あのあとポップ様とダイ様はどんな時間を過ごしたのかしら。あぁ、うん、わかってる。たぶんぎゅうぎゅうのハグのあと何事もなかったかのようにお寝みになったんでしょうね。おふたりとも別に付き合ってるわけじゃないし。ちょっとばかしイイカンジの願い事を書いたところで、突然恋人が爆誕するわけないわよね……。
     城内は勤めている者たちが慌ただしく各々の仕事を始めている。少し遅くなったので私は足早に歩を進めた。
     配膳室ではティーセットを乗せたワゴンを取り囲み、ポップ様にお渡しする目覚まし用のコーヒーを誰がお持ちするかで早くも火花が散っていた。
     私はそれを横目に新たなワゴンを引き、厨房へと向かう。ポップ様や姫さま方と違って、ダイ様はお目覚め用のコーヒーなど飲まれないから、水か果実を絞ったジュースをご用意するのが常なの。
     ちなみにダイ様へとお飲み物をお持ちする理由はただひとつ。何故か時々ポップ様が朝早くからダイ様のお部屋におられるからよ。そんな時のダイ様は少しばかりお寝坊さんで、ぐっすりと寝ておられるダイ様を見つめるポップ様のお顔のなんとお優しいこと。
     そんなおふたりのご様子を拝見してるだけで、私の妄想と願望が交差して煩悩を奉り上げるの。さすがにいつも早起きなダイ様よりポップ様の方が先に起きているなんてレアケースなので、なかなかお見かけできないけれど。遭遇できた日は浮かれてしまって仕事が手につかなくなるくらいよ。
    「お、いいところに来たな」
     厨房に足を踏み入れた途端、料理長に声をかけられた。彼が持っていた小瓶を渡されて私は小さく首を傾げる。
    「今朝俺の友人のところの初乳牛から絞ったミルクだ。なかなかコクがあって美味かったので勇者様にお持ちしてくれ」
    「搾りたてのミルクですか。それは勇者様もお喜びになられるでしょう」
     搾りたてのミルクってワードはなかなか心にクるものがあるわね。自分で言っちゃってなんだけど、ちょっとえっちな響きを感じるわ。
     ワゴンにミルクの入った小瓶を乗せて、ダイ様のお部屋へと私は向かった。お部屋からは物音ひとつ漏れていない。お留守かと思いつつ軽く扉をノックする。
    「どうぞ」
    「……っ!」
     ポップ様のお声だわ!
     どうやら今日はレアケースに遭遇したようね。幸運の朝だったみたい!
    「失礼いたします。ダイ様のお目覚め用のお飲み物をお持ちいたしました」
    「あぁ、ありがとう。おれ、預かっときます」
    「ありがとうございます、それではこちらを」
     ポップ様に小瓶の乗った盆をお渡しする。
    「ダイ様はまだお寝みですか? こんな時間まで珍しいですね」
    「ダイのやつ昨夜は寝るのが遅かったんです。もう少し寝かしといてやろうと思って」
     あら、確かに短冊に願い事を書くなんてイレギュラーな工程があったとはいえ、あのあとそんなに遅くまで、おふたりでお話されたのかしら?
    「この小瓶の中身って何なんですか?」
     中身が見えないからかしら。少し不審に思われているみたい。警戒とまではいってなさそうだけど、眇められた榛色の瞳が注意深く小瓶を見つめている。
     それもそうよね。勇者様が口になさる物だもの。あからさまに怪しい物は、兄弟子としても勇者様の魔法使いとしても排除なさる立場におられるのでしょう。ダイ様ってそういうところちょっと無頓着というか甘いところあるものね。
    「料理長所縁の者が用意した今朝搾りたてのミルクでございます」
    「へぇ、搾りたてのミルク!」
     くすりとポップ様がお笑いになった。少しばかり悪戯げな色を乗せた笑みは、普段あまり見ないポップ様のお顔だわ。
    「こいつ昨晩たっぷりミルク飲んだからなぁ。まだ飲む気あるかな……」
    「……? 昨晩ご用意したのは紅茶でしたが」
    「あぁ、そのあとにちょっと、な」
     料理長に断りなく厨房でミルクを飲まれたのかしら? 余分に材料は仕入れてあるでしょうから少々目減りしても問題はないでしょうけれど。
    「……ん…………っ」
     寝台の上のダイ様が小さなお声をあげて身動がれた。なんだか重たげに目蓋が開かれていく。
     そんなダイ様を見つめるポップ様のお顔のなんと甘くて柔和なこと。まるで恋人の目覚めを見守るかのごとくってやつよ。あー、いいもん見せてもらったわ。できれば目覚めのキスとかいってほしいけれど、おふたりは別に付き合ってないからね……するわけないわよね。朝から妄想がたくましすぎて自分でもびっくりよ。でもポップ様がいけないのよ。そんなお顔でダイ様を見つめるから!
    「ダイ、目ぇ覚めたか?」
     ポップ様が小瓶を片手にダイ様の元へ向かわれたので、私は丁重にお辞儀をすると、ワゴンを引いてダイ様のお部屋を退出した。
     扉を閉める瞬間、ポップ様がダイ様の体調を心配される声が隙間から抜けて聞こえてきたわ。短冊に願い事を書くってだけで、頭でも痛くなるほど文字を書くのが苦手なのかしら。これじゃダイ様もお勉強が大変ね。
     それにしても今日は本当にレアなもの拝ませてもらったわ。完全に扉を閉めると、私は一日お仕事頑張ろうと、気合を入れて作った力こぶを撫でながら上機嫌で笑った。
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    ariari2523_dai

    DONE「ディーノ君と隠棲パッパ」シリーズのこぼれ話。
    パロディ軸。捏造設定。竜父子+北の勇者。

    パッパ→ディーノ君は、意識のないディーノ君に薬を飲ませる際に何度もしてると思いますが、ディーノ君→パッパは初めてかもですねw キスとしてはノーカンだとパッパもディーノ君も言い張るでしょうが。

    時系列的には、パッパからの贈り物→隠棲パッパ→魔法使い→天使の梯子→お姫さま→北の勇者→パッパへの贈り物、の順になります。
    ディーノ君と北の勇者 ルーラによる着地音を響かせながら、ノヴァはレジスタンスの拠点となっているカールの砦から少し離れた地へと降り立った。
     既に夜の帳が深く色濃く下りており、周囲の木々も砦も闇に紛れている。見上げれば星が薄く光っていた。雲がかかっているのだろう。明日は天気が崩れるかもしれない。ここから遠い前線の地まで影響がなければ良いのだがと、戦地で戦う者たちを憂う。
     ノヴァは用心深く周囲を警戒しながら見渡し、邪なモンスターや魔王軍の気配を探った。特に気になる事象はない。小さく息を吐いてノヴァは砦へと足を向けた。
     歩き出すと懐から紙が擦れる小さな音がする。ノヴァは瞑目して我知らず胸元に手を当てた。懐にはアバンへ手渡す手紙がある。あの竜の騎士から託されたものだ。
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    ariari2523_dai

    DONEダイ君とポップの七色のキャンディー
    原作軸。捏造設定。

    「最高の友達!!2」展示SSです。
    ダイ君が初めての飴玉をポップと食べるお話。
    題材は甘いですが、中身はビター風味です。
    えちちな描写はほとんどありませんが、キスはがっつりしてます。
    ダイ君とポップの七色のキャンディー「わぁ、綺麗だなぁ……!」
     すぐ隣の頭ひとつ分低い位置から上がった歓声を耳にして、おれはぶらぶらと街の通りを往く足を止めた。それから目を輝かせる相棒の視線の先を追う。
     小さな勇者さまの関心を射止めたのは、焼けた黒ずみや剣戟の跡が刻まれて傷んだ箇所を出来合いの木片で貼り付けて直した手押し屋台に並べられた、幾つものガラスの小瓶だった。所々細い蔓草模様で装飾された何の変哲もないただの小瓶だが、中には色とりどりの飴玉が詰め込まれている。
     赤、青、緑、黄、桃、紫、そして白。七色の飴玉だ。おれには色からだいたいの味を想像することができる。小瓶同様に飴玉も巷にありふれたフルーツ系のものだろう。
     もっとも、姫さんが見れば安堵に胸を撫で下ろすだろうなと、おれは美しくも勝ち気な、けれども己に課された王女としての役目を誠心誠意務める少女の姿を思い浮かべた。復興途中のパプニカの市に、ついに嗜好品の飴玉が美しいガラスの小瓶に詰められて並びだした。その報はどれほど彼女の疲れた身体を労ってくれるだろうか。
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    ariari2523_dai

    DONEダイ君と叶えたい願い(ポプダイ)
    原作軸。謎時空。えちちなシーンは匂わせ程度。
    ポップ視点→モブメイドさん視点。

    WEBオンリーイベント「最高の友達!!」
    展示SS その2
    ダイ君と叶えたい願い(ポプダイ)「そう……上手いぞ、ちゃんとこの間おれが言ったこと守れてる」
    「ほんと? おれ、ちゃんとできてる?」
    「ああ。まだちょいと危ういとこはあるけどな」
    「ううう……頑張るよ」
     椅子に座って書き物をするダイの背後から、おれは小さな手が辿々しく綴っていく文字を見守った。細い長方形の紙切れへと少しばかり震えた手が綴る文字は、形は歪んでいて悪いし、真っ直ぐに並ばず次第に斜めになっていて読みにくいことは否定しない。けれど、手習いを始めたばかりの辛うじて文字だと判別できるかなという程度だった頃に比べれば、飛躍的にレベルアップしていると言える。
     この紙は短冊、っていうらしい。年に一度願い事を書き込んで所定の植物に飾り付け、星に願う遠い異国の行事だと、今朝会った姫さんに説明された。明日の夜に城の中庭に掲げるのでよろしくねという一言とともにダイの分の短冊も渡されたので、つまるところこいつが願い事を書き込むまで面倒を見ろってことだとおれは解釈した。そんでもって今現在の状況になっている。
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