底無しに好きになって、ありがとうは積もりに積もる~②~「ただいまー!」
「おかえり…あ、すまん、今からご飯作る!」
熱くなった目頭を指で拭って、まだ流れるほどに涙が溜まっていなかった事に安堵した。青木に心配はさせられないし、させたくない。
「井田が当番忘れるなんて珍しいなー。しかも何?段ボールなんか組み直しちゃったりして。」
「ぃにゃーーーぅ」
「ふあ?!猫じゃん!どうしたの?!」
青木は段ボールに駆け寄り、中を見て目を輝かせた。
「今日の帰りに見付けて…」
LINEしておけば良かったと今更気付いた。
「ぃにゃーーん」
「ははは!なんか井田って言ってるみたいだな。」
「どうすんだ?飼うの?」
「………。」
正直悩んでいた。一口に飼うと言っても簡単ではない。当たり前に青木にも費用や世話の負担が掛かるし…それに、やっと同棲生活をスタート出来たのに青木は不満は無いのだろうか?
「まずはいろいろ聞いてみる。宛がなかったら同居も考慮には入れているんだが…青木は賛成してくれるのか?」
青木は相変わらず他人の意見を優先してしまうことが多い、だからこそ俺の前では包み隠さずに本音を言って欲しいんだ。だから
「俺が聞いているのは、青木の本音だ。」
と一押しを加え、答えを待った。
「俺は本当に構わないよ。だって、井田と一緒に動物育てるなんてさ…なんか俺たちが出来ない事の半分擬似体験出来るみたいな…さ。」
青木はそう言うと、ちょっと頬を染めて段ボールの中に手を優しく入れた。
人に警戒心を持たないようで、青木にも初対面から懐いてくる動物に感激してるのか、なかなか段ボールから離れようとしない。
「なんだ、もう病院にまで連れてってくれたのか?ありがとう井田!」
「ぃにゃーーー」
病院でもらった、猫の病気についての冊子を見付けて青木が言った。呼応するように猫も応えた。
「いろいろお疲れさんだったな。今日くらいはさ、久々にカップ麺で良くね?そうだ!知ってるか?こっちのど◯兵衛って、汁の味が違うんだって!」
言いながらケトルに水を注いで、スイッチを押してくれた。
「やっぱり青木は凄いな。」
実を言うと、病院に行ったまでは良いものの、重大な病気が見付かったりやしないか等ずっと落ち着かなかった。更にこれからのことも考えると、けっこう心労には負担が掛かっていたようで…。
「こういう時は臨機応変!俺が作るよ、…ってカップ麺だけどさ。」
「ありがとう。」
「へぇー、スープの色からこんなに違うものなんだな」
ど◯兵衛を二人ですすっていると、青木が唐突に
「あ…きつね!!」
と言った。
「ん?」
「この猫の毛、正にきつねの色じゃん。名前、それにしねぇ?」
「うーん、猫に他の動物の名前はどうなんだ?しかも完全にこの家で飼う事がまだ決定したワケじゃない。情が移るぞ。」
「えー、でも名前無しのままも可哀想じゃん。(仮)みたいな感じで気軽にさ。」
「でも流石にきつねはちょっと…」
「じゃあお揚げ!」
言った瞬間に猫は威勢よく
「ぃにゃん!」
と言った。
「おー、お揚げって名前気に入ったかー、そうかそうかー!」
こうして、たぶん一定期間の唐突な2人と一匹暮らしは始まった。
名前は俺、井田浩介・恋人の青木想太・そして猫のお揚げである。