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    pk_3630

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    平安時代AUの曦×澄♀ ②
    今回は帝(主上)曦臣が女官の中から江澄♀を探し出します。
    ちょこちょこ続きを書いていこうと思っているのでお付き合いいただけると嬉しいです。
    平安時代の衣装や行事等そんなに知識なく書いているのでそのあたりはスルーしてください。

    #曦澄

    平安時代AU 第2話「大変ですっ!主上がこちらに向かっていらっしゃいます」

    女官達が集まり、次の宮中行事の衣装を準備していた時だ。まだ年若い女官がばたばたと慌てて入ってきた。常なら大きな足音をさせてはしたないと叱るだろう古株の女官達も、主上のお出ましとあっては目を白黒させている。
    すぐに衣装を片付けるように指示が出たが、片づけ終わる間もなく主上が入室した。
    「忙しいところに急に来てしまって悪かったね。」
    「主上、とんでもないことでございます。御見苦しいところをお見せしてしまいました、お許しください。」
    女官達がひれ伏していると、皆顔をあげるようにと言われた。
    主上を間近で見ることなどそうないことであったため、皆が好奇心を抑えられずにそろそろと顔を上げる。後方に控えていた江澄も前の女官達にならって顔をあげると、驚いたことに主上がこちらをじっと見ていた。
    目があった瞬間、数日前のあの夜のことを鮮明に思い出し冷や汗が出た。
    (あの方は帝だったのか…!私は何ということを)
    すぐにでもこの場を離れてしまいたいが、そんなことができるわけはない。緊張のあまり浅く息をしていると、主上がまっすぐにこちらへ歩いてくるではないか。他の女官達も道を開けながら、何事かと江澄と主上に注目した。

    「ここにいたんだね、江家の末の姫君。あなたと話がしたい。ついておいで」
    周囲の視線が痛い。女官達も何が起きているのかという顔をしているが、江澄が一番混乱していた。主上が部屋から退出する頃になって、古株の女官に小声で叱られ慌てて後について歩き出した。
    (話とはなんだろう。あの夜のことを叱られるのだろうか。女官ともあろうものが宮中で道に迷い、危うく酔った殿方達と鉢合わせそうになるなど失態以外の何物でもない。まさかこれを理由に実家に帰されてしまうのだろうか。)
    そうなれば実家でどんな扱いを受けるかと思えば震えがとまらなかった。帝の寝殿に通されると、何とかして許してもらいたいという考えしか頭に浮かばず、そのまま平伏して顔を上げることができなかった。
    「江澄、顔をお上げ」
    「主上、どうかお許しください。先日のような失態は二度といたしません」
    「そんなに怯えないで。あの夜のことを咎めようなどと思っていないよ。むしろ、咎められるのは私のほう。咄嗟のこととはいえあなたに怖い思いをさせてしまった。」
    宮中から追い出されることはないのかと少しほっとしていると、間近まで曦臣が寄り江澄の顔を上げさせた。陽の光の下で見る曦臣の顔はあの時よりもはっきりと目に移り、その美しさも格別だった。
    「私を許してくれる?江澄」
    「あなた様は主上でいらっしゃいます。私ごときが意見するまでもありません」
    「あなたの言葉で許しを得たい。これからも私と仲良くしてほしい。」
    「…これからも主上にお仕えしとうございます」
    混乱しきった頭では主上の一つ一つの言葉を上手く飲みこめず、やっと絞り出すように返答した。この返事で良かったのか、無礼ではなかったか心臓が冷える思いだったが、主上の嬉しそうな笑顔を見ると一先ず危機は脱したようだと安堵した。
    「そうだ。あなたを呼んだのはね、訊きたいことがあったからなんだ」
    「私に?」
    「ええ、あなたの好きな花を知りたい」
    突然何を言っているのだろうと思ったが、安心しきってしまったせいか素直に返答が口から出てしまった。
    「蓮の花…」
    「蓮?」
    そして、しまったと思った。無難に桜や梅と言うべきだった、父から目立たず無難な回答をするようにと常日頃言われていたのにと、背筋がすっと冷たくなった。しかし、主上は優しい微笑みを浮かべ楽しそうに話しかける。
    「蓮の花か…確かにあなたに似合う花だね。凛として美しく、しかし僅かの間しか花開かない儚さもある」
    主上の両の掌が江澄の小さな顔を包み込む。そのしぐさにあの時と同じ気持ちが湧いてくる。殿方としかも帝と二人きりでこんな状況になっていることが怖ろしいのに、ひどく甘く美しい夢をみているような心地だ。
    その後退室を許され部屋に戻ったが、珍しく部屋を訪れた女官達から質問攻めにされても、ふわふわと定まらない心では碌な返事もできないままだった。

    ***

    宮中の行事の中でも特に大きく華やかな行事が始まった。
    数多の貴族が宮中を訪れるとあって、貴公子の目にとまろうと女官達はここぞとばかりに美しく着飾っている。
    女官の衣装は普通は実家が用意するものだが、この日に限っては男性からの贈り物を纏う女官も多い。どんな衣装を纏っているかで、その女官がどれほど高位の貴公子から想われているのかがわかるのだ。美しい女官と恋の駆け引きをしたがる貴族の男性も多く、この日は女官達の気合の入り方が違った。
    行事の中で出会った貴族と結婚した女官も多いからか準備の仕事があるというのに浮ついた者が多く、江澄はいつも以上に仕事にかかりっきりだった。

    「江家の末の姫君はお仕度はいいのかしら」
    「私も一応尋ねたのだけれどね、あれでいいそうよ」
    「でも、あの衣装は先日もお召しになっていたものよね」
    「あのご気性では殿方との文のやり取りすらないのでしょう」
    「それならご実家に頼めばいいのに。江家ほど高貴なお家柄なら衣装などすぐに届けてくれるでしょう」
    「でも、末の姫君はわけありだから。入宮した時のお道具類も、江家の姫君のものとは思えない程に質素でいらっしゃって皆驚いたものよね」
    手を動かさないわりに口はよく動くのだなと、江澄は聞こえないふりをしつつ行事の準備の手伝いを進めていた。
    今更貴族の子弟と結婚できるとは思っていない江澄は、確かにいつも通りの紫を重ねた装いしかしていなかった。
    無礼にならない衣装であればそれでいい。実家や貴族の殿方に頼ってまで着飾っても何の意味もない。さっさと仕事を終わらせて落ち着いた自室に戻りたいと思っていたその時だった。
    「江家の末の姫君にお届けものです」
    年若い女官達が江澄に衣装箱を持ってきた。開けると中には見事な十二単の衣装が一式入っていた。白を基調として淡い紅色や薄桃色、鮮やかな緑色を何色も重ねた衣装で、蓮の花の文様が織り込まれていた。
    「こんなに素晴らしい衣装は見たことがないわ」
    「蓮の花の衣装だなんて、私初めて見た」
    「江家の末の姫君はどちらの貴公子とできていらっしゃるのかしら」
    それまで遠巻きに噂話をしていた女官達までもが江澄の衣装の周りに集まってくる。衣装には香まで丁寧に焚きこめられており、甘く清涼な芳香はこれまた女官達が大いに羨ましがった。

    (主上が用意してくれた…。私が恥をかかないために?何故そんなに優しくしてくれるのだろう)
    江澄が蓮の花が好きだということは限られた人しか知らない。宮中では帝しか知らないことだ。蓮の花の十二単など宮中の衣装係を兼任している江澄でも聞いたことがない。となれば、わざわざ江澄のためにこの衣装を用意してくれたということになる。蓮花重ねの衣装を手に取ると、慣れない優しさにぎゅっと胸が締め付けられた。
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     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
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     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
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     江澄は眉間にしわを寄せた。
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     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
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     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
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     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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