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    pk_3630

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    現代AU 拗れ練習用に書いた曦澄③
    彼女がいる曦への片想いに苦しむ澄ですがある日同僚の男に呼び出されます
    そろそろ展開が動き出す…かな

    想・喪・葬・相 ③「疲れた…」
    一人暮らしを始めてから「ただいま」という言葉を使ったことはほとんどない。
    実家を出る際、「一人の寂しさに耐えきれなくなってそのうちぬいぐるみや家電に話しかけるようになるぞ」と揶揄われたことがあったが、そんな気持ちになったことは一度たりともない。元々寂しがり屋なわけではないし、定期的に話す者もいる。ここしばらくお互いに連絡を取れていなかったが、今日は久しぶりに曦臣から着信が入っていた。
    話す前にまずは喉を潤そうと、冷蔵庫からロング缶のレモンハイを取り出し一気に三分の一程飲み干した。強炭酸が喉を刺激すると、一時的に疲労を忘れさせてくれる。いつもならこのまま全部飲み干してしまうところだが、今夜は思いとどまった。
    これから曦臣からの報告を聴くのだ。通話を切った後、またあの痛みが襲ってくる。それに備えて残りの酒は取っておくべきだと判断した。
    缶酎ハイを机に置くと、一つ深呼吸して通話ボタンを押す。
    『阿澄、お疲れ様』
    「お疲れ」
    『今日も忙しかった?』
    「部署から一人減ったからな」
    『そうなんだ、大変だね。新しい人員は配置されそう?』
    「今交渉中だが、望み薄だな」
    『そう。無理だけはしないでね、阿澄』
    「そんなヘマはしない。そんなことより要件は何だ」
    曦臣は江澄が疲れ切っていてもう眠いのだと思ったのだろう。少し慌てた様子で謝った後に、「その…」と歯切れの悪い声を出した。
    江澄の手が無意識に缶酎ハイを掴む。
    『先日の女性とお付き合いすることになったんだ』
    「良かったな」
    『ありがとう。阿澄の言う通りちゃんと話してみたら意外性があって面白い人でね』
    「そうか」
    『それに、なんていうか話していて安心できる女性だった」
    「いい人なんだな。今度こそ上手くやれよ」
    『うん。阿澄が後押ししてくれた人だからね。ちゃんと結婚のことも焦らずに考えていけると思う』
    「……それがいいな。藍叔父さんもやっと安心できるだろう」
    一瞬呼吸が乱れた。
    曦臣が「結婚」という言葉を出すのはこれが初めてだったからだ。余程相性の良い女性だったのだろう。長かった失恋の終焉がもうそこまで来ているのかもしれない。
    『あっ!でも、結婚しても阿澄と会うのはこれからも変わらないからね。阿澄は大事な幼馴染だから』
    深いところに刺さった棘をぐりぐりと揺れ動かされたような痛みが胸に走った。掴んでいた缶酎ハイが音をたててへこむ。
    (大事な幼馴染…か)
    その地位は江澄に残された最後の砦だ。長年の敗北によりガタガタになった砦だが、守ってさえいれば幼馴染として曦臣の側にいられる。それが最善なのだと、とっくに結論は出ている。
    曦臣が結婚して幸せそうに笑っている姿を見れば、きっと愚かで報われない恋心は止めを刺されるはずだ。そうすれば今度こそ本当に諦めきれる。
    (曦臣に「結婚おめでとう」と言えた時、ようやく『幼馴染』だった俺に戻れる)
    だからもう少し、もう少しだけ耐えろと慰めの言葉を反芻した。
    『阿澄?阿澄?聞こえてる?どうしたの?』
    「ああ、悪い。ちょっと考えごとしてた」
    『何を考えてたの?』
    「ちょっとな。そんなことより、早速またデートでも行くんだろ?俺に長電話なんかしてていいのか?」
    『大丈夫、もう準備も終わってるから』
    「準備?」
    『明日から彼女と旅行に行ってくる』
    付き合ってそんなに日数は経っていないのにもう旅行とは。本当に気が合うのだろう。いや、自分が交際というものを知らないだけで、世間では割とそんなものなのかもしれない。
    『彼女がどうしても行きたい場所があるって、飛行機のチケット取ってくれて』
    「意外と行動的なんだな。ま、楽しんでこいよ」
    『ありがとう。お土産買ってくるよ、何がいい?』
    「俺のことより、彼女のことを優先しろ。土産なんて何でもいい」
    『つれないな、阿澄は』
    曦臣は楽しそうにくすくすと笑う。何よりも好きなその声も笑顔も、明日には隣を歩く彼女へと注がれる。そう思えば、どうしても今は曦臣の声を聞いているのが辛かった。
    「悪い曦臣。何か連絡が入ったみたいだから切るぞ」
    『うん、おやすみ、阿澄』
    「ああ、またな」
    通話を切ると力なく項垂れた。腕も重力のままに垂れ下がり、もはや酒を飲む気力も残っていない。
    (勿体ないことしたな。一番美味しい時に全部飲めば良かった)
    流石にこの歳になれば涙が出ることはない。しかし、何度も味わってきた痛みは躊躇なく江澄の思考を奪っていく。
    しばらくぼんやりと机の上を眺めていると、スマホの画面が光った。
    見ると会社の同僚からのメッセージだった。一度仕事で相方として組んだ男だ。今回の辞令で海外支社への異動が決まり、その準備を少し手伝ってやっていた。メッセージにはそのことの感謝から始まり、出発日が決まったのでが都合が良ければ見送りに来てくれると嬉しいと書かれていた。その日は休日で特に予定もない。「了解した」とだけ返信し、そのまま机に突っ伏した。

    同僚の男は江澄を見つけるなり、小さく手を振り小走りで駆け寄って来た。
    「本当に来てくれたんだね」
    「お前が来いって言ったんだろ」
    「そうだけど。僕のために江澄が見送りに来てくれたのが嬉しいんだよ」
    「そうかよ。ま、次いつ会えるかわからないから、一応な。搭乗時間までどれくらいだ?」
    「まだ、時間あるんだ。出国前に江澄とちょっと話したくて」
    「そうか、じゃぁどっか店でも入るか」
    「うん」
    江澄がすたすた歩き出すと、後ろを子犬のようについて歩いてくる。江澄の素気ない言葉にも物怖じせず笑い返してくる陽気な男だ。丁寧な仕事をするし、人懐っこくよく笑う男だから、だいたいの人間からは好かれる。向こうでも問題なくやっていけるはずだ。本人には決して言わないが、部署からこの男がいなくなるのは相当な痛手だった。それに、あの激務な会社ではこの陽気さに救われる場面も多々あった。この子犬のような男が職場からいなくなることを寂しくないと言えば嘘になる。

    「店、結構混んでるな」
    「ちょうどお昼時だからね」
    「あっ、展望デッキ行ってもいいか。俺、行ったことないんだ」
    「いいよ、行こう。今日は天気がいいし、あそこならベンチもあるしね」
    展望デッキにはポツポツと人がおり、皆飛び立つ飛行機を見つめている。
    あっという間に空に溶け込み、白い鳥のようになる鉄の塊。
    二人ともそれを眺めながら、いつも通り仕事の話をして時間を潰した。
    晴天の下、爽やかに通り過ぎる風が気持ちいい。包むような日差しに眠気を誘われ、ついつい相槌が適当になってきた頃、同僚がすっと立ち上がった。
    「江澄、今日は来てくれて本当にありがとう」
    「何だよ、急に。お前が俺を呼び出すのはいつものことだろう」
    「そうだったね。仕事でも来てくれって頼むと、江澄はいつも文句を言いながらも絶対に助けてくれた」
    「ふん。まぁ、相方が潰れちゃ仕事にならないからな」
    「そんな君が好きだった、心から」
    「は?」
    突然何を言い出すのだろう。聞き間違いかもしれないと、首を傾げながら相手の顔をまじまじと覗き込んだ。
    「やっぱり気づいてなかったね。僕は江澄のことが好きだったんだ、恋愛対象としてね」
    寂しそうに笑う同僚にどう反応していいかわからず、言葉が喉奥に詰まった。半開きの口で「あー」としか言えない江澄に同僚は小さく吹き出した。
    「いいんだよ。困らせたいわけじゃない。自分勝手だと思ったけれど、……このまま隠していたほうが江澄のためだとも思ったけれど、やっぱり後悔したくなくて。江澄、僕は君が好きだ」
    真摯に江澄の目を真っ直ぐ見つめ告白する同僚に呆気にとられた。告白とはこうやってするのかと場違いな思考まで駆け巡る。しかし、少しすると僅かな申し訳なさと一緒に、本心を隠さなかったことへの尊敬の念が湧いた。こちらもはぐらかさずきちんと答えるのが礼儀だろうと、江澄も立ち上がり向かい合った。
    「すまない。俺も好きな奴がいるんだ。でも気持ちを伝えてくれたことを迷惑だとは思ってない。俺とお前は今後も変わらずにいい仕事仲間でいよう」
    「…そう言うと思った。ありがとう江澄。これで悔いなく旅立てるよ」
    「あっちでも元気でやれよ。応援してる」
    「帰国したら、また同僚として会ってくれる?」
    「ちゃんと成果出して帰国したら考えてやる」
    「ははっ、厳しいね江澄は。そうだ、最後に一つだけ我儘言ってもいい?」
    「なんだよ」
    「思い出にキスさせてほしい」
    「ぁ?」
    「も、もちろん口にはしないよ!頬とかに…ちょっとだけ。駄目かな?」
    いつもの江澄なら「冗談じゃない」と眉間に深い皺を寄せ即座に切り捨てていただろう。しかし江澄自身がつい先日も片思いの辛さを嫌という程味わったことで、この子犬みたいな男に同情心が芽生えた。
    「仕方ないな、ちょっとだけだぞ。いいか!ちょっと触れるくらいなやつだぞ!」
    「わかった。じゃあ、目をつぶって」
    「絶対に口にはすんなよ!いいか、絶対にだぞ!!」
    「しないよ!もう、江澄、黙ってて!雰囲気ぶち壊しだよ!」
    「早くやれ!恥ずかしいだろうが!」
    同僚は一歩進んで江澄との距離を詰めた。そして手首をそっと掴んで江澄を少し引き寄せ肩を抱くと、触れるだけのキスを頬に落とした。
    「…ありがとう、阿澄。行ってくるね」
    「ああ、行ってこい。元気でな」
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