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    846_MHA

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    たいみつ。付き合ってる。酔っ払ってるオーナーとデザイナー。

    #たいみつ

    酔っ払いの主張 俺も三ツ谷も仕事の繁忙期を乗り越えた金曜日、明日はお互い休み。とくれば自然と夕飯は外食になり、久しぶりに2人でゆっくり過ごす時間に、飯も酒も進んだ。こんな深夜まで飲んでいると、いつもは帰りにタクシーを使う。しかし今日は、酒が入って上機嫌な三ツ谷が
    「明日休みだし、折角だから夜の散歩と洒落込もうよ。」
    なんて店を出て1人先に歩き始めたものだから、30分ほどかけて自宅まで歩いて帰ることになった。まぁ俺も三ツ谷も相当飲んでいたので、酔い醒しにはなるだろう。
    ――
     大通りから一本外れて、人気のない道を進む。
    「さみぃ!」
    途端に、三ツ谷が俺のコートのポケットに手を突っ込んできた。さっきまでマフラー暑いって騒いでたのは誰だ。
    「歩き辛え。」
    ポケットに入ってきた手を出して指同士を絡めて握り、そのまま歩き出す。大寿くんの手でっけぇ!と笑って、三ツ谷の機嫌がさらに上向いたのが分かったので、これが正解なんだろう。少しずつ改善してきたが、やはりコイツは甘え下手だと思う。
     繋いだ手はそのままにして、たわいのない話をしていると、隣からあっと声を上がった。
    「なんだ、忘れ物か。」
    「じゃなくて。今日『○校へ行こう!スペシャル』だったのに録画すんの忘れちまったワ...。」
    ネット配信ないんだよなぁ、としょげている。いや、ネット配信あってもお前1人じゃ観れないだろ。言ったら怒るのでこれは声に出さずに、先ほど三ツ谷が発した耳慣れない言葉になんだそれと問いかける。
    「え、大寿くん『学○へ行こう!』知らねえの?!」
    三ツ谷のでかい目がこれでもかと見開かれた。
    「オレ達が小学生とか中学生くらいに、めっちゃ流行ったバラエティ番組だよ。アイドルがMCやってて、火曜の19時とか20時からやってたやつ。観たことない?」
    「...記憶にねえな。」
    今でこそ仕事柄、流行を掴むためにテレビは観るようにしているが、当時は全く興味が無かったし、それよりも本を読んで知識を得ることに専心していた気がする。
    「そっかぁ。ルナマナが大好きでさぁ、毎週その時間になるとテレビの前が争奪戦になんの。八戒とかも来てると、もう笑い声でうるせぇうるせぇ。」
    その時を思い出したのか、三ツ谷の顔に笑みが浮かんだ。コイツと妹達が笑い合いながらテレビを観ている様子は、想像に難くない。  
     自分はどうだったか、と記憶を巡る。一緒にテレビを観るどころか、全員でリビングに集まるということ自体が稀だった。もしかしたら、柚葉と八戒は観ていたかもしれない。  
     三ツ谷も俺の過去に思い至ったのか、絶えず喋り続けていた口を急に閉ざした。親指の腹で、繋いだ三ツ谷の白い手をそっと撫でる。三ツ谷が家族のことを話してる時の顔は、ある種の尊さを感じて好きだった。続けろ、と暗に伝えるために質問を投げる。
    「どんな番組だったんだ。」
    「...っえーとね。色んなコーナーがあったんだよ。ルナマナは○-rapハイスクールとか好きだったな。」
    「ビーバップじゃないのか。」
    「モジってんの。一般人がラップ披露するっていう。まぁ、後半ただの替え歌コーナーみたいになってたけどな。」
    「それ面白いのか。」
    「くだらなさすぎる替え歌とかあって、オレもめっちゃ笑った記憶あるワ。」
    段々と三ツ谷の調子が戻ってくる。
    「でも、コーナーの中で1番人気だったのは『未成年の主張』かな。」
    「なんだそれは。」
    「小中学生が、学校の屋上から叫ぶんだよ。自分の主張とか先生への感謝とか、告白とか。」
    見てて、と言った三ツ谷は何を思ったのか、繋いでいた手を離してちょうど通りがかった公園へ走っていく。お前、結構飲んでるんだからそんな走ったら気持ち悪くなるぞ。すぅと息を吸う音が聞こえる。そして
    「元東卍二番隊隊長、三ツ谷隆!オレは、柴大寿くんのことが好きです!これからもずっと一緒にいてください!!」
    と馬鹿でかい声で叫んだ。三ツ谷の声は腹に響く。
     完全に酔っ払いの奇行だ。素面の俺なら一発殴って、通報される前に即刻その場を立ち去っていたが、生憎こちらも酒が程よく回っていたから。
    「ってな感じ。どう、熱いでしょ?」
    と上機嫌に戻ってきた三ツ谷の肩を
    「待ってろ。」
    と言って軽く叩き、先ほどアイツが愛を叫んだ場所へ向かう。
    「え?大寿くん?え、え、怒った?」
    後ろから、戸惑う三ツ谷の声が聞こえる。怒ったか聞くくらいなら最初からやんじゃねえよばーか。
     たどり着くと振り返り、三ツ谷を見る。不安と期待が入り混じった瞳とかち合った。勘が良いから、何をやるかもう分かってるんだろう。俺を楽しむなんて、本当にいい性格してんなテメエは。思いっきり息を吸って、久々に腹の底から声を出した。
    「柴家長男、柴大寿!!俺は、三ツ谷隆を愛している!!!」
     ビリビリと音が周りの空気に伝染したかと思えば、すぐに静寂に包まれる。久しぶりに声を張ったもんだから加減なんて分からなくて、想像よりだいぶデカくなってしまった気がする。今更ながら、通報されないか心配になってきた。というか三ツ谷はどうした、と見るとこちらに向かって猛ダッシュしてくるところだった。だからお前、さっき相当飲んでんだからやめろ。気持ち悪くなるぞ。言うより先に、三ツ谷が首にしがみついてくる。
    「オレも!オレも愛してる!大好き大寿くん!」
    そのままキスしてこようとするので、その唇を手で覆った。ムッとした三ツ谷の目と視線がぶつかる。
    「...んだよ、こんな夜中じゃ誰もいないって。大寿くんはあんな熱い告白しといて、オレとチューしたくねえの。」
    確かに、普段であれば外だぞやめろと拒否していただろう。しかし、あんな告白されてそのままでいられるほど甲斐性なしじゃあない。
     三ツ谷の顔を覆っていた手を外し、今度はこちらから近づく。
    「なぁ、これもその真似事のうちか。」
    「...意地悪だなぁ、分かってるくせに。」
    好きだからだよばーか、そう呟いてまた三ツ谷が顔を寄せる。近づいてくる小さい唇を今度はこちらから塞ぎにいって、その身体を腕の中に閉じ込めた。
     テレビだったら一等盛り上がる場面なんだろう。だが生憎、ここにはテレビカメラも観客もいない。見せてたまるか。こんな三ツ谷を見ることができるのは、世界で唯一俺だけだ。
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