七風リレー小説(3)日差しを浴びて色とりどりのコーヒーカップが楽しげに踊っている。
「七ツ森がこれを選ぶなんて意外だな」
「そう?」
「そうだよ」
「そうかなぁ」
七ツ森はくるりとまわりを見渡りた。周囲のコーヒーカップに乗り込んだ人々も自分達と同じくほぼほぼカップル連れだ。
それはそうだろう。先程の観覧車程じゃないけど、これも二人っきりの空間になるアトラクションだ。ハンドルを挟んで向かい合わせに座る風真との距離が近い。180cm越えの男子二人には、やや狭い空間で時折膝が触れる。怪訝な表情の風真とぱちりと目が合った。その瞬間、風真の瞳の色が移ったように七ツ森の頬がカッと熱をもつ。
「あぁ、もう…」
「え、七ツ森、どうしたんだよ。真っ赤だぞ」
「ちょっ、言わなくてイイ。自覚してるし」
そうだ。カラフルなコーヒーカップは可愛いくてテンション上がるけど、特別アトラクションとしてコーヒーカップが好きなわけじゃない。
ただ…
(二人っきりになれるモノを選んじゃってたとか、そんなの恥ずかしいが過ぎるだろ)
「なぁ、本当に大丈夫か?」
純粋に心配だけを集めた視線で見つめられていたたまれない。そんなきゅるきゅるした顔で見ないでほしい。
「ダイジョウブデス」
「なんで片言なんだよ」
「いや、うん」
「うん?」
一人で赤面してる七ツ森の様子に心配するようなことではないが、なにやら面白い事になってるっぽいと気づいた風真は、ハンドルをきゅっと握った。
「なんか、隠してるみたいだけど」
「いや、ほんと大したことでは無いです。うん」
「ふうん…?なら白状するまで回してやろうかな」
「え、っちょっ」
それまでゆるゆるとしか動いていなかったカップが勢いよく回り出す。あわあわする七ツ森の手が風真の手を止めようと伸ばされる。
「はやっ…!これ、カザマも相打ちでしょうが」
「お前よりは三半規管強いから大丈夫だ」
「どこからくるわけ、その自信」
ハンドルの主導権を巡って手を掴んだり離したりしてるのがおかしくて二人して笑ってしまった。
◯
コーヒーカップが止まり、二人揃って覚束ない足取りでベンチに座る。
「あぁ、なんかクラクラするな」
「そりゃ、あんだけ回せばクラクラもフラフラもするデショ」
「七ツ森もけっこう回してだろうが」
「まぁね」
結局、二人とも負けじと右に左に回したので世界がくわんくわんと揺れてる気分だ。こんな意地になるなんてなんて馬鹿みたいだ。目を閉じて空を仰ぐ。
「二人っきりを堪能する気で選んだのに、揃って目回すとか、わらえる」
閉じた瞼の上を気持ち良い風が吹いて、軽くなった気分のまま七ツ森は口を開く。同じように目を閉じていた風真がそれを聞いてぱっと目を開いた。
「え、お前がコーヒーカップ選んだのって……」
驚きが徐々に別の感情に塗り替えられて風真の顔を赤く染めた。
「カザマ、顔、真っ赤」
「うるさい」
カップの中でもしたようなやり取りが逆転してしまった。赤くなった顔を手で覆ってそっぽを向く風真が可愛くて上がる口角を押さえてきれない。その染まった頬を突いてしまいたいけど、下手に弄って機嫌を損ねるのも勿体無い。
「なんか飲むの買ってくる。ちょっと待ってて」
「わかった」
宥めるように風真の頭を軽く撫でて七ツ森はベンチを後にした