ふたりだけ「ふーふーちゃん?」
おかえりのキスを楽しみにドアを開けたのに。
玄関には、愛しい人が倒れていた。
「…ふーふーちゃん!!」
そっと、影を落とす身体に触れた。
まだ、大丈夫。息をしている。
「う、き」
「ふーふーちゃん!どうした?なにがあった?」
問い詰めるように言うと、目の前の優しいサイボーグは目を細めて笑った。
「ガタが来てるんだよ…ほら、ここも取り替えないとさ」
ぼろぼろになった身体を、あくまでも冗談にしようとわざと僕に見せつける。
「…」
ふーふーちゃんは、一瞬にして曇った僕の表情を見てすぐに顔を歪ませた。
数秒の沈黙の後、耐え兼ねたように言う。
「ごめんな…俺が…こんな」
「謝らないで。ふーふーちゃんは何も悪くない」
泣きそうな顔。
一体何がこんなにも彼を苦しめているというのか。
僕の考えがわかったように、ふーふーちゃんはまた目を細めて笑う。
「階段で転んだんだ。ただそれだけだよ」
嘘だ。でもいつも絶対に本当のことは教えてくれない。
仕方なく問い詰めるのは諦めて、やるせない思いを込めながら目の前の傷ついた恋人を強く優しく抱き締める。最優先事項だ。
「ふーふーちゃん、君がどんな姿になったとしても、僕はただ愛してる。愛してるからさ」
震える息が耳元にある。
嗚呼、どれ程怖かっただろう。
「もう少し、もう少しだけ頼ってくれよ」
耳元で、はっと息を呑む音が聴こえた。
数秒の穏やかな沈黙を湛えて、彼はひとこと
「わかった」と言った。その息には喜びが混ざっていて。
嬉しくて、ふ、と笑って。込み上げる愛しさには耐えきれなくて。
彼が気づく間もないくらい素早く、その唇を奪った。
生温い涙の味。柔らかい感触。
どうしようもなく生きている。
それが余りにも儚くて、切なくて、胸がつきんと痛んだ。
段々とふーふーちゃんが縋るように抱き着いてくる。
しゃくりあげるように泣くから、背中を擦ってやる。
そんな僕たちにもう言葉は要らなくて。
ただ、交すキスだけが温かい、
温度を持ったその時間を永久へと変えていく。
僕らはまた今日も、
絆されて、夜に溺れてく。