Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    雨野(あまの)

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌹 📚 💛 💜
    POIPOI 30

    雨野(あまの)

    ☆quiet follow

    恋人同士のひふ幻。ポッキーの日のアレ。多分、ギャグ。わたしだけ今日が11月11日の世界線に生きているので遅刻じゃありません。いつもリアクションありがとうございます。励みになります。

    #ひふ幻
    hifugen

    ビターチョコだなんて嘘だ 静まり返る真夜中。おそらくほとんどの人が眠っているであろう時間帯に歩くのは割と好きだ。澄んだ空気に革靴がコツコツと鳴り響くのは形容し難い心地良さを感じる。しかも、恋人の自宅に向かうとなれば尚更。
     店を出る前にメッセージを送ったところ『執筆中なのでうるさくしないのであれば来ても良いですよ』という可愛げのない返事がきたことを思い出してくすりと笑う。
     まあ、それでも「来るな」とは言わないのだから愛されているなぁ〜とか思ったりして。なんて自惚れかな。本人に聞いたら間違いなく「自惚れですね」と言われてしまいそうだ。

     通い慣れた玄関の引き戸をカラカラと開け、一歩足を踏み入れると暖かい空気に混じって彼の使用する石けんの香りまで漂ってきたので不覚にも胸がときめく。
     洗面所に向かう前に台所を覗くと、シンクに作り置き用のタッパーが空っぽの状態で横たわっていたため「よしよし、飯はちゃんと食ったな」と頭の中で独り言を呟いた。
     しっかりと手洗いうがいを済ませた後はそっと書斎へと向かう。引き戸の向こうから漏れる光と文字を綴る音がほっと安心感を与えてくれる。
     控えめに戸を開けたつもりだが、建て付けが悪いのが存外にも大きな音が響いてしまい、彼もそれを耳にして筆を止めたが一瞬だけだったようですぐに執筆を再開させた。
     幻太郎のスケジュールは把握済みであり、締め切りまでまだ三週間もある。今日は筆が進むから書けるところまで書いてしまおう、といったところだろうか。つまり一二三に構う余裕もなくはないという状態だろう。その証拠に彼の小さな背中に抱きついても特に何も言われない。これが切羽詰まっている状況だとしたら問答無用で跳ね除けられているところだろう。

    「幻太郎、ただいま」
    「……ここは貴方の自宅ではありませんが」
    「もう半分、家みたいなもんっしょ」
    「駄犬を拾ったつもりはないんですがねぇ〜」
    「駄犬ってひっでぇ〜!せめて野良犬にしてよ〜!」
     幻太郎がふふ、と笑った後に小さな声で「おかえり、一二三」と言葉を紡いだ。
     ずるいよなぁ。そういうところが俺を夢中にさせてるって分かってんのかな。彼の身体からは微かな汗の匂いしかしないため風呂はまだ入っていないのだろう。後で一緒に入っても良いな、と煩悩にまみれていると、不意にシャボンとは違う甘い匂いが漂ってきた。
     ポリポリポリ、と可愛らしい咀嚼音が響く。甘い匂いの正体はこれか。

    「なーに食べてんの?」
    「コンビニで見かけて美味しそうと思って買ったんですよ。冬季限定のビターチョコのポッキーだそうです」
    「へ〜、おいし?」
    「ええ。普段こういった菓子を買うことはないので余計、美味に感じますね。貴方も食べたいならどうぞ」
     普段買わないお菓子をねぇ。カレンダーをちらりと見て、はっはーんとひらめく。
     日付けが変わって本日は11月11日である。世間ではポッキーの日と呼ばれており、それにかこつけて恋人同士はポッキーゲームなるものを行なうのが定番となっているそうだ。
     つまり、だ。幻太郎は俺とポッキーゲームがしたくてポッキーを買ったのだろうと推測する。普段からスキンシップをとるのは一二三の方からで恥ずかしがり屋の幻太郎の方から仕掛けてくることはほぼない。だから、この日に乗っかる形で一二三とキスをしたいという合図なのだろう。素直に「キスがしたい」とは言えないからポッキーに罪を着せて。
     しかも「美味しそうだから買った」だなんて見え透いた嘘までついて。
     ホント、いじらしい奴。

     幻太郎は少しだけ体を捻るとこちらを振り返って「食べないんですか?」と問いかけてくる。そして妖艶に笑うと濡れた口唇でポッキーを咥え込む。
     そこまで煽られてしまっては乗らない方が失礼だろう、なんて心の中で言い訳をしてポッキーの端を咥えた。
     俺だって我慢強い方ではないのだ。あっという間に彼の顔に近付くと、すぐさま唇を奪い取る。ちゅうと音を鳴らして紅唇を吸えば緩い悦楽が広がった。
     これがビターチョコだなんて嘘だ。だってこんなにも甘い。

     歯止めが効かなくなる前にとりあえず、と唇を離す。ラブラブイチャイチャはお風呂の中で。
     幻太郎に向かい合い柔らかく微笑む……が、当の本人は何故か呆気に取られたような表情を浮かべていた。
    「え〜!その表情、何〜?」
    「……何、はこちらの台詞なんですけど……小生は何で今、口付けされたんですか?しかもポッキー食べながら」
    「へっ?幻太郎がポッキーゲームしたがったんでしょ?今日、ポッキーの日だから」
    「はい?ポッキーゲーム?ポッキーの日?何の話ですか?」
    「え、違うん!?」
    「そんなこと毛頭も考えてないです」
    「はーー!?だってあんなに俺っちのこと誘ってたじゃん!表情で『一二三、チューして〜♡』って!」
    「は、はあ?そんな表情してないですし、誘ってもないですけど!」
    「じゃあ、あれは天然のエロい表情だったん!?」
    「て、天然のって!……どうやら互いに行き違いがあったみたいですね」
    「えぇ〜!行き違い〜……」
     幻太郎の首筋に顔を埋めて「ホントにホントにこれっぽっちも考えてなかったん?俺っちとチューしたいなぁとかポッキーゲームして遊びたいなぁとか〜」と問いかけてみる。わざとぐすんぐすんと泣き真似も付け加えてやる。
     てっきり「考えるはずないじゃないですか!」とズバッと切り捨てられるかと思いきや、存外にも彼は焦燥感に駆られた様子で「す、すみません」と呟いた。
     わ〜!面白いからそのまま泣き真似してよっと。

     しばらく、ぐすんぐすんと鼻を鳴らしていると幻太郎が再び口を開いて「あ、そうだ!小生、まだお風呂に入ってないんですよ!一二三と一緒に入りたいな〜って思ってて!」と見え透いた嘘をついてきた。普段なら幻太郎の方から一緒に風呂に入りたいだなんて言わないのに。俺を励ますためにそう言ってくれたのだろう。
     あまりの可愛さに思わず首筋に顔を埋めたまま笑ってしまった。彼は気付いていないようだけど。
     やっぱり俺は愛されているなぁとか思ったりして。自惚れかな?自惚れじゃないと良いな。
     心の中の声が聞こえるはずがないのにそれに答えるようにして優しく頭を撫でられたものだから、たまにはこうやって健気な姿を見せるのも良いな、と再び笑った。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍😍💖💖💘💘😚💜😭😭👏👏💞💞💞❤🙏👏💞🍫🛁🍫❤❤🍫🍫🍫🍫😍☺☺❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    雨野(あまの)

    DONEひふ幻ドロライお題「逃避行」
    幻太郎と幻太郎に片思い中の一二三がとりとめのない話をする物語。甘くないです。暗めですがハッピーエンドだと思います。
    一二三が情けないので解釈違いが許せない方は自衛お願いします。
    また、実在する建物を参照にさせていただいていますが、細かい部分は異なるかと思います。あくまで創作内でのことであるとご了承いただければ幸いです。
    いつもリアクションありがとうございます!
    歌いながら回遊しよう「逃避行しませんか?」
     寝転がり雑誌を読む一二三にそう話しかけてきた人物はこの家の主である夢野幻太郎。いつの間にか書斎から出てきたらしい。音もなく現れる姿はさすがMCネームが〝Phantom〟なだけあるな、と妙なところで感心した。
     たっぷりと時間をかけた後で一二三は「……夢野センセ、締め切りは〜?」と問いかけた。小説家である彼のスケジュールなんて把握済みではあるが〝あえて〟質問してみる。
    「そうですねぇ、締め切りの変更の連絡もないのでこのままいけば明日の今頃、という感じですかね」
     飄々と述べられた言葉にため息ひとつ。ちらりと時計を見る。午後9時。明日の今頃、ということは夢野幻太郎に残された時間は24時間というわけだ。
    4524

    related works

    recommended works

    しんどうゆか

    DONEチェリまほ94話の予告で、久々に安達の弟・和也くんの登場か……? にワクワクし過ぎて待ちきれなくて、気が付いたら、こんなド鬱な話書いていたんですけど、何ででしょうね……(聞くな)
    ええ……死ネタです。作中で安達が死んじゃいます。苦手な方、本当にごめんなさい。あと世界の理不尽さについて私的解釈で書きました。(長くなったので本文に続く)
    黒沢視点の話です。
    思い出のあとさき(キャプション続き)
    第1話から追っていたとはいえ、ブランクがあり、チェリまほ新規に近い人間なのと、こんな話、世の中にn番煎じにあると思ったんですが、私がくろあだで読みたかったから書きました。既に似た話があったら申し訳ないです。黒沢の心情を考えると、とても辛かったけど、書きがいはありました。
    くろあだ、前世でも今世でも来世でも幸せになってほしい(どの口が言う)。ちなみに私、伊藤左千夫の野菊の墓がめちゃくちゃ好きです(突然の性癖暴露)。あと直近でミスチルのHANABI聴いてました。


    ――――――――――――





    俺たちの穏やかな日常が、あんな形で終わりを迎えるとは想像もしていなかった。







    口下手で、分かりやすい言葉では、あまり表さないけれど。だけど、何気ない一言、さり気ない行動で、溢れる愛を示してくれて。
    2728

    ashi_5687

    DOODLE昔書いた冬の海のローサンに反応頂いて、懐かしい〜!て気持ちになったので、小説投稿し直し🙏🏼書き直したいところ結構あるけどまあそのままで😂
    死ネタです。
    無題/ローサン アイツはある日突然、死期を悟った野良猫のように、何も残さずおれの前から消えた。そして今日、五年越しに手紙が届いた。「この手紙は、おれが死んだら渡すように言伝した。」から始まる、おれへの謝罪と今住んでいる地について、そしてかつて過ごした日々のことを綴った短い手紙。涙も出なかった。
     その手紙を持って、アイツが死ぬまでの五年間を過ごしたらしいその地を訪れた。そこは小さな港町で、二月の早朝は人もまばらだ。吐く息は白く、鼻先と耳は冷たくて痛む。
     防波堤に沿って歩く。人の住む気配のない木造家屋、地蔵が祀られている小さな祠、長年強い日差しに晒されて劣化し色褪せた、バス停のブルーのベンチ。防波堤の石階段を上り、さらにその上を歩む。砂浜が見えた。防波堤のすぐ側では、海浜植物が打ち捨てられた漁船の船底を突き破り、まるで船体を丸呑みする大きな生き物の様に覆っている。砂浜に足を踏み入れ、波打ち際まで歩いた。潮の流れの影響か、漂着したゴミばかりだったが、そんなことは構わなかった。波打ち際の流木の上に腰かけ、しばらく遠くを眺めた。
    1101