Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    (野田)

    @344no10jn

    のらくら好きなものを好きなだけ

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 6

    (野田)

    ☆quiet follow

    すてEp4劇中劇のソラとコウの小話。無自覚両思いで距離感がバグってる2人。終始捏造しかないのでなんでも平気な人向け。

    #空昂
    high-spirited

    「……ソラ、ちょっと太った?」

    白く長い指が俺の頬を軽くつつく。ふわふわなのかぷにぷになのかはわからないけれど、それなりの弾力を持って頬は指を弾き返した。
    ゆったりとしたオーバーサイズのパーカー下、するりと入り込んだ手が脇腹の肉を優しく掴んだ。

    「ふ、太ってないもん……!! これは、これはその、ロス出て美味しいご飯いっぱい食べたからちょーっと肉付きがよくなっただけで決して太ってはいない!」
    「ふ〜ん、そう」
    「うう……」

    自分でも薄々自覚はあった。少しずつではあるが着実に体重が増しているということに。歌って踊って、消費はしているはずなのにカロリー摂取がそれを上回るのかふわっとしている。主にお腹まわりが。
    それもこれもご飯が美味しすぎるのが悪い、絶対そうだ。そういうことにしよう。

    「まあでも、食事を出しているのはうちだしこのままソラが丸々太ったら食べちゃうのも悪くないかな」
    「だから太ってないって! ……って、え? 食べる?!」
    「ふふふ、冗談だよ」

    コウの冗談は時々心臓に悪い。今だって口を開けて俺に噛み付く素振りをしつつ、こちらが慌てたところでパッとやめてしまう。人をからかって、面白いとコロコロ笑って、己の見た目の良さも存分に使ってくる。どこか危なっかしくて放っておけなくて、キラキラと輝く美しい人。

    「……そういうコウは、最近少し痩せた?」

    指の背で軽く輪郭を撫でれば会った時より少し骨張っているような気がした。
    お返しとばかりに身体の線がはっきりとわかる細身のタートルネックの裾を捲り上げながら、そっと触れた腰や肋は骨が浮いているみたいな感触だった。

    「前と違ってステージに立って踊るようになったからね。そりゃあ前よりエネルギー消費が多いから多少は」
    「あんまり無理しないでね。コウが倒れたら元も子もない」

    少なくとも俺が来てからは食事の量が減った様子は無いから、元々太らない体質なのに運動量が増えたので体重が落ちているというところだろうか。俺が気にしたところでどうにもならないことではあるけれど、しかしそれはそれで心配なのである。
    コウは俺のことを期待の星だのなんだの持ち上げてくれるが彼だってとびっきり輝く星なのだ。マーカスいわく天性のダンサー、彼がステージに上がれば誰もが目を奪われ釘付けになるそんな魅力を持った人間。

    「抱き心地も悪くなるし?」
    「なっ、そうじゃなくて……!」
    「冗談だって。ホント、ソラは面白いなあ」

    悪戯っぽい笑顔で首を傾げる姿は可愛らしい。普段の格好良い姿とのギャップで彼をお目当てに来るお客たちはもしこれを見たらみんな落ちるだろうなあ、なんてぼんやり思ってしまった。
    本日何度目かのコウの冗談を聞いていると突然横から違う声がした。

    「……おいお前ら、イチャイチャするなら他所でやれ」
    「イチャイチャってなに?!」
    「なんで? 見られて困るようなことはないけれど」
    「お前らは平気でもこっちが迷惑なんだよ!」

    営業時間前とはいえここはクラブWYDの店内で、あちらこちらに居る従業員たちがせっせと開店準備を進めていた。

    コウの腰に手を回し抱き寄せる俺と俺の首に腕を回し離す様子の無いコウ。割と普段からこんな感じなので今更違和感なんて気づかなかったけれど、客観的に見てよく考えたら距離感おかしいな?!
    頭に疑問符を浮かべたと思ったのも束の間、突然コウにむぎゅうと抱きしめられてしまう。どうしたどうしたと顔を上げるが目線は合わない。あの綺麗な目はツッコミを入れて来た従業員兼用心棒へと向いているのだ。

    「やだなあソウシったら、一体何を想像したの?」
    「何もしてないけれどこの空気が! 甘ったるい! つーかソラもさっさと着替えて働け!」
    「俺準備終わったからあと着替えるだけだもん! やることやったもーん!」
    「えらいえらい」

    間違いではない、発声練習したしストレッチしたし自分が使う機材のチェックも終わらせた。あとステージの掃除があったような気がしないこともないけれど、今日は担当じゃなかったはずと思い込むことにした。
    それでも相変わらずコウはまだ放してくれないのでこちらからも抱きつくことにすれば何かはわからないけれど良い匂いがする。

    「そうだコウ、店が終わったらちょっとだけ付き合って?」
    「……いいけど、何をするの?」
    「新しい曲がもう少しで出来そうなんだけれどそのもう少しが難しくてさ……インスピレーションが欲しいから、ダンス、見せて」
    「ソラの曲が一番に聞けるなら、いいよ」
    「ホントッ?!」
    「俺はソラの曲が好きだからね。ああもちろん、その声も好き」

    首筋を掠めた手が喉を撫でる。犬猫にするみたいだと思いながら少し上を向けば彼は楽しそうに笑っていた。

    完成間近の曲に足りない何かが見つからない。パズルのピースなのか宝箱の鍵なのか、それとも全く違う別の何かなのか。
    コウはいつだって俺にいろんなものを見せて教えて与えてくれる。知らなかった世界、新しい考え方、形を変えても追いかけ続けられる夢。だからきっと、きっとコウと一緒なら何か掴めそうな気がする。
    だから俺も、俺の音楽と歌で君に何度でも新しい夢を見させてあげる。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💖💖💖💖🙏☺👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    (野田)

    DONE諸注意
    *これはツキプロ(ツキノ芸能プロダクション)合同舞台『太極伝奇』シリーズの用語や設定、世界観の一部をお借りしたものになります。原作と異なる点が多いので純粋に元ネタが好きな方にはおすすめ出来ません。割と好き勝手やってます。
    *人族(人間)の清麿と獄族(人型の魔物)の水心子の話。いずれ麿水になるけれどその前のおはなし。

    →続く
    →諸注意続き

    *史実の源清麿が自刃した、という説から別人格の清麿も出てきます。スランプになった時とかお酒飲んでそうなったらな〜程度で史実とは完全に別物です。
    *元ネタの世界観は中華ファンタジーみたいなものですがこの話の舞台設定は日本で江戸時代辺りを目安に書いてます。でも目安なので江戸時代風くらいで全部きっちり調べているわけではないのでご注意。
    *この時点ではまだ序盤なので後ほどいろいろと辻褄が合わない部分もあるかもしれません。そのうち続きとまとめることがあればその時に加筆修正します。








     この世界は陰と陽で出来ている。かつては陰(夜)と陽(昼)の天秤が釣り合わず、陰が世界を支配していた。
     陽の存在である人族は陽の光がさすわずかな時間だけ活動し、夜は魔物に怯え息を潜め肩を寄せ合い生きていた。だからこそ『最弱の種族』と呼ばれる。
    8237

    related works

    recommended works