日常カタルシス○月○日 くもり、にわか雨
結構大き目の雨粒に襲われたけど、ヴォックスが傘に入れてくれたから、事なきを得た。
「丁度良いからティータイムにしよう」
通りの先に視線をやっているヴォックスの、黒い髪に滑る雫は、ちょっとセクシー。
思ったんだけど、傘、どっから出したのかな?雨はすぐ止んで、雲間から陽射しが差し込んで綺麗だった!
○月○日 曇雨天
驟雨に見舞われたものの、本日の降水強度は然程では無かったようで、雨宿り先に着くまでに上った。
「見て!エンジェルラダーだ!」
ミスタの声の通り、夕映えの残光が雲の間から放射状に街に降り注いでいた。
彼の牡丹鼠色の髪に載った雨粒もキラキラと彩光を拡散していた。
○月△日 雨
今日は雨だし寒い。こんな日は何時も憂鬱。もう慣れた様にヴォックスが蜂蜜を垂らしたホットミルクを入れてくれる。
毛布と一緒に隣に移動して、読書している真面目な顔を見ながら、与えられる温もりにとろとろ微睡んだ。
「少しお休み。Myboy」
うん。そうするよ。
○月△日 翠雨
梅雨寒の気温は、ミスタには少々酷だ。取り敢えず温かいものを。とハニーミルクを渡した。マグを両手で抱えて真剣な顔で少しづつ、ちみちみと舐める様子は猫のよう。
笑ったら怒るだろうから、本に集中するフリをした。
「眠い」
身体を預けられて、緩く共有する温もりが心地良かった。
○月□日 はれ!
「ジェラートを食べに行かないか?」
こんな暑い日にピッタリの提案に2つ返事でヴォックスの後に付いて行くと、アンティークなミントグリーンのインテリアが小洒落たカフェ。
男二人でジェラートだけってどうなの?と思ってたのに、ハムがたっぷりのパニーニなんかもある。ナルホド。外さない男だ。
カウンター席に並んで、食事を開始する。豪快に齧り付き、咀嚼時に動く喉と筋肉の動きが雄臭いのに、上品なのはどうしてだ?ジッと見てたら金色の目を細めて表情を緩めて。やられっぱなしだ。
「空を見てご覧」
帰り道にふとヴォックスが視線を上げてびっくりしたように告げるから、空をみる。手でちぎった紙屑みたいな雲が、虹色に光って溶けた。
○月□日 晴朗
「あっつい!」
先日まで寒い寒いと言っていたミスタが暴れている。まぁ、昼食がてらデートするのも楽しそうだ。
食の細い彼には珍しく、軽食後にダブルのジェラートと格闘している。片方に集中して反対側が垂れるのを急いでリカバリするという、仔犬が自分の尻尾を追うようなエンドレスレースが可笑しくて怒られるまで笑った。
見上げた空に散る叢雲が、至近距離で太陽光を受けて彩雲となる。一刻も持たぬであろうその煌めきを、同じ空色の瞳に映し、破顔する様子に再び顔が綻んだ。
二人は今日もそっとお互いの横顔を盗み観て、甘やかなカタルシスを得る。