Tea Leaf Reading カップに残った僅かなダージリンを口に含んで、眉間に1本、鼻根に3本の皺を寄せて、舌を出して、お決まりの台詞を吐く。
「にっが!」
「だから無理して飲まなくともミスタにはジュースがあるだろう?」
「ちっげーの」
誂いを含めたヴォックスの提言に、もにゃもにゃと下を向いて言葉を口の中に閉じ込めて、片肘を付いてそっぽを向いた。
タンニン、カフェイン、ポリフェノール。健康に良いとされるそれ等も、過剰摂取すればそれは毒となる。
そして許容量は人それぞれなのだ。特に嗜好品であれば、身体が拒否する物を無理に取り込む必要は無い。
と、最初は思ったものだ。
ヴォックスはゆっくりと眼を伏せて、口角をちょっとだけ上げて笑いながら、肘を付いた手に圧迫されて雛鳥の嘴の様にちょん、と突き出た唇をふに。と親指で押さえた。
「少し、オレンジジュースを分けてくれないか?」
「お?飲む?」
すがめていた青翡翠の瞳がぱちりと開き、自分の傍らで揺れるオレンジ色の液体を閉じ込めたグラスをズズっと正対するヴォックスに押しやって、パカリと口を開けて弾ける様な笑顔を見せた。
摩擦抵抗でコツコツとスキップしながら近づくグラスが倒れる前に指先で掴むと、一気に呷る。
「味が濃いね。ブランドは変えていないのに」
「あ、分かる?収穫が終わったから、この時期のが一番旨いって店の人が言ってたンだわ」
ワシャワシャと手を動かしながら得意気に説明するのをカワイイと思う。
つまり、同じモノを共有する。というその一点の為に、苦手な食物を口にするのだ。
◆
花の薫りを有するディンブラ産の茶葉は濃く抽出し、合わせたミルクに負けない重厚さを味わう。再び寒い時期がやって来たと実感する。
矢張り最後の一口は、丸い手が掠めて持ち去る。ぐっと舌先に広がる味は。
「…甘い?」
「同じ薫りを愉しめれば良いだろう?」
ひと掬いのコンデンスミルクはカップの底で、緩やかに飴色に融け会いながら恋人の唇を待つ。
細めた眼には、ソレよりも甘い蜂蜜色を乗せて、ヴォックスは微笑った。