独占欲は人一倍です「よっ、暁人!」
「おはよう!」
渋谷で起こった出来事から一か月、ようやく暁人は復学を果たすことが出来たのだ。昼前の暖かい時間に少し眠気に負けそうになりながら、ノートを広げ、いつも座る席で待っていると、突如、背中を叩かれた。横を向くと、同じ講座をよく取っていることから何気なく仲良くなった友人がそこにいた。
「やっと、復学かよ」
「うん、まあね」
友人は隣に座ると、自然にノートを手渡してきた。頼んでいなかったのにも関わらず、暁人が休んでいた一か月分の講座の内容をメモっていてくれたようだった。
「ありがとう、助かるよ」
「気にするなよ、てか、もう大丈夫なのか?入院してたって聞いたけど…」
「ああ、大丈夫、大したことないから」
「そっか」
そう呟くと、何も言わずにノートを開く。言いたくないことは無理して聞かない、そんな察しの良い友人に酷く助かった気がした。実際、入院していたというのは一週間ほどで、実際は外に出られなかったというのが正しい理由だからである。
「(大変だったな…)」
渋谷での儀式を無事に中断させ、KKと再会の約束をしたと同時に気を失い、気づくと病院のベッドの上で一週間も眠っていたのであった。しかも、目が覚めるとそこには、顔は動物、体は人間が複数人いたのだ。未だに霧に包まれた渋谷にいると勘違い暁人が妖怪の一種だと退治しようとして、止められたのが今にでも蘇ってくる。あの時、KKの声が聞こえなかったら、力を惜しみなく使っていたであろう。
一度死にかけ、憑りつかれ、黄泉の国にも行った猿人であったはずの暁人は、目が覚めると先祖返りになっていたのだ。
意識を取り戻してから、三週間、ずっと斑類のKKに斑類とは何か、先祖返りとは何か、魂現のコントロールを教え込まれた。はっきり言うと、まだ完全ではなく、これだったら妖怪やマレビト退治の方が楽だったと言えるほど、難しく、そして辛い日々を過ごしていたのであった。
「(それにしても、本当にほとんどが猿人なんだな…)」
周りを見渡すと、講義室内にいるほとんどの人が猿人で、暁人より数メートル離れて座っている人が斑類であった。猫又や犬神人が多く、特に重種は隣に座っている友人と数名のみだ。他の中間種や軽種は遠目でこちらを見ている。何やらジロジロ見られている気がして、居心地が悪い。両手で覆い隠すように顔を伏せ、項垂れる。そのまま、チラッと友人へと横に顔を向けると、周りには聞こえない小さな声で呟いた。
「ねえ、僕何かしたかな?」
ぼそっとした呟きだったにも関わらず、聞き逃さなかった友人はばつの悪そうな顔をすると、額に皺を寄せ、悩み始めた。その表情に焦った暁人が顔を上げ、辺りを見渡す、すると目があった斑類の同期生からあからさまに目を背けられる。
「えっ、いじめ?」
「あー、嫌、違う…」
「じゃあ、何で⁉」
再び友人へと振り向くと、彼は手を指さした。KKがこれを付けていれば大丈夫だからと、プレゼントされた黒翡翠の数珠であった。恋人から始めてプレゼントされた品で、毎日つけてろというKKの言葉がなくても外すはずわけがないと身に着けていた物だ。これが何か?まさか、憑いてるのか?急に冷や汗が伝う。
「それ、重種からのプレゼントだろ?」
「え?」
なぜ、それがわかるのだろう?重種はそういう事がわかるのだろうか?頭上に?マークが浮かんでいる暁人に「ああ、知らないんだ」と呟くと、気まずそうに説明しだす。
「独占欲強いんだな、その人。『暁人は俺のものだから手を出すな』って数珠から臭う」
「……?」
「つまり、動物でいうマーキングされている状態ってことかな…」
何を言われているのか、わからず、硬直した暁人はマーキングの一言で理解する。三週間学んだとはいえ、完全に全てを学んだ訳ではなかった為、知らなった。だが、知らなかったといって、周りがそれを知っているはずもないのである。
独占欲は人一倍です
大声を上げ、顔を真っ赤にし、アジトに乗り込んでくる暁人は何時来るのか、コーヒーを飲みながら待つKKがそこにいる。
「KK―――――‼」