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    マトリ

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    百発百中恋の弾丸3 カウントダウン企画 #hyakukoi3_CD 参加作品
    ツイート版に不備があったので上げ直しました

    Everybody Needs Somebody「失礼…知り合いによく似ていたもので」

    今どき、安いメロドラマでも使われないような陳腐な台詞が口をついて出てきた。自分でも驚いた。
    人混みで一瞬見かけた見覚えのある顔に目を奪われ、咄嗟に袖を引くなどといった真似をした自分に驚いた直後のことだ。
    通りすがりの男にいきなり声をかけられて、切れ長の目を大きく見開いて驚くような顔をするだけという相変わらずのチョロさを誇る彼は、少しの沈黙の後こう言ってのけた。
    「私も、何だか初めて会った気がしないんだ」
    それを聞いて笑えばいいのか、嘲ればいいのかわからなかった。

    何だかおかしな流れを引きずったまま、何の冗談なのか今もってわからないが、いつの間にかその辺にあった喫茶店で向かい合って座っていた。
    にこにこと「知り合い」について色々尋ねられたが言えるはずがなく適当に誤魔化した。「いけ好かないボンボン」だったということは何故か言えなかった。
    「少尉殿」と和やかにお茶をしている奇妙な時間を壊したくない、この時間が心地よいとと思わなかったと言えば噓になると思う。
    その笑顔はかつて俺ではなく他の誰かに向けられるものだったのだから。

    思いのほか他愛もない会話が続いてしまい、流れで連絡先を交換した。
    今世でも裕福な家に生まれたらしい彼は育ちの良さを遺憾なく発揮し、こちらの肚の底にある澱んだものを少しずつ取り去っていく。
    どちらからともなく連絡を取り合い、会話や食事を重ね、何といわゆる「交際」にまで発展する日まで訪れた。
    初めて抱き合った夜も、まるで初めから決まっていたかのように大人しくこの腕におさまった。

    彼に前世の記憶があるかどうか疑ったこともある。
    何か試すようなことを言いかける度に「今日はカレーだぞ」「今度動物園に行きたい」「次の週末はゼミ旅行だから会えない」と話を変えられる。
    (ちなみにゼミ旅行について参加メンバーと行き先をしつこくしつこく確認したら拳骨を食らった)
    そうだ。大嫌いな「山猫」と今世でも出会った上に付き合っているだなんて「鯉登少尉」が知ったら憤死しかねない。
    この関係を壊したくない俺と全てをぶちまけたい俺が俺の中でせめぎ合って未だに決着はついていない。

    今日も彼は朝夕メッセージを送ってくるし、毎週末やってきては俺の平日の食事情に文句をつける。
    彼の実家の味だという甘めの味付けにももう慣れた。…醤油だけは口に合わないと今日こそ言うつもりだ。

    ネタばらしのタイミングは今日も掴めない。





    「失礼…知り合いによく似ていたもので」

    三文小説でも見たことのない、陳腐な台詞を聞いて噴き出さなかった自分を褒めてやりたい。
    人混みで一瞬すれ違った顔に既視感を覚えたと同時にいきなり袖を引かれる。
    確かに見覚えのある、妙に焦ったような顔でそんなことを言われてどうしよう…と思った瞬間、口からこぼれた言葉に自分でも驚いた。
    「私も、何だか初めて会った気がしないんだ」
    それを聞いて、目の前の顔が笑ったのかどうなのか未だに思い出せていない。

    何だかおかしな雰囲気のまま、どちらから言い出したのかはわからないが、いつの間にかその辺にあった喫茶店で向かい合って座っていた。
    「知り合い」とやらについて訊いてみたものの、うすぼんやりした答えが返ってくるだけだった。私に似ている人物とやらがそんなに朧げな印象なわけがない。
    それでも「尾形上等兵」と穏やかに話をしている自分が何だかおかしくて、思いつくままに会話を重ねた。

    今世でも少し複雑な家庭に育ったらしい彼は、前世と同じように…いやそれ以上に捨てられた猫の空気をまとっていた。
    何を考えてるかまったくわからなかったあの頃の面影を感じる度に、憐憫とも同情ともつかない感情が湧いていたことを否定はしない。
    交換した連絡先に他愛もないメッセージを送ると律義に返事が返ってくる。それを繰り返していくうちに、いつの間にか一緒にいることが当たり前になっていた。
    私の初めての「お付き合い」がこんなことになるとは思ってもみなかった。が、それほど悪くないと思ってしまう。


    彼に前世のはっきりとした記憶があるかどうかを正直いつも疑っている。
    何か「昔」のことを探られる気配がするたびに「洗濯物を籠に入れろ」「水族館がダメなら動物園に行きたい」「来週はゼミ旅行だと言っただろう」とさりげなく話題を変えている。
    (ちなみにゼミ旅行については言っているのに知らないふりをされた上に色々探りを入れられて鬱陶しかったので一発入れておいた)
    そうだ。「ボンボン少尉」と仲良くお付き合いするような「山猫」ではないだろう?記憶があろうがなかろうが、貴様に振り回されるのはもうごめんだ。

    今日も彼は私のメッセージに適当なスタンプしか返さないし、放っておくとカロリーメイトとエナジードリンクで三食を済ませようとする。
    捨て猫を拾ったら、世話をするのは当然のことだ。

    カミングアウト?気が向いたらしてもいいし、その日がいつはわからない。
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    ☺☺☺☺☺☺💘💘💘😍😍😍😍😍👏👏❤👏❤❤❤❤❤❤😭😭😭😭😭
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    DOODLEタイトルまんまです
    めちゃくちゃ出来る男な月を書いてみたくてこうなりました
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    直接の描写はないですが、肉体関係になることには触れてますので、そこもご了承の上でお願いします

    2/12
    ②をアップしてます
    ①エリートリーマン月×大学生鯉「正直に言うと、私はあなたのことが好きです」

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     ずっと憧れていた。厳つい見た目とは裏腹に、彼の振る舞いは常にスマートだった。成熟した、上質な男の匂いを常に纏っていた。さぞかし女性にもモテるだろうとは想像に容易く、子供で、しかも男である己など彼の隣に入り込む余地はないだろうと、半ば諦めていた。それでも無邪気な子供を装って、連絡を絶やせずにいた。万に一つも望みはないだろうと知りながら、高校を卒業しやがて飲酒出来る年齢になろうとも、仕事帰りの平日だろうと付き合ってくれる男の優しさに甘えていた。
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