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    おもち

    気が向いた時に書いたり書かなかったり。更新少なめです。かぷごとにまとめてるだけのぷらいべったー→https://privatter.net/u/mckpog

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    PsyBorg。国語教師🐏と高校生🔮の話。のんびり高校生活を謳歌するだけの、私が書いてて楽しいだけの話です。もうちょい高校生活楽しんでから卒業後の話でラブしたい。未定ですが。

    #PsyBorg

    始業のチャイムが鳴った後で人気のない廊下を、授業中の教室から漏れ聞こえてくる声を聞きながら歩く。生徒は立ち入り禁止となっている屋上へ続く階段や空き教室などを覗きつつ向かう先は図書室だった。水曜は図書室の先生がお休みで、昼休みと放課後は図書委員がいるけれど他の時間は無人のため図書の貸出は不可で開放だけしているのだ。
    今は自習のクラスもないから当然利用者もゼロのはずの静かな空間にそっと忍び込み、本棚の奥に隠れるようにある読書スペースに近づいた。本なんて読まないくせにそこをサボる時のお気に入りの場所にしている不真面目な生徒にこうして声をかけるのも、もう何度目か。
    「まだ昼寝の時間には早いんじゃないか」
    「……先生、暇なの?」
    「生徒指導も仕事の一環なんだ。今は浮奇のクラスは体育の授業中のはずだが?」
    「暑い日に外で動き回る意味が分からない。先生だってどうせ毎日家ん中で本読んでるんでしょ?」
    「その言葉の通りだとしても、浮奇が運動しなくていい理由にはならない。それにそういうことはせめて本を読みながら言ってくれ」
    「本もつまんないもん」
    「面白い本と出会ってないだけだろう。浮奇のクラスの、体育の次の授業は?」
    「……古典。先生の授業でしょ」
    「時間割りは覚えているんだな。まさか俺の授業もここでサボっているつもりか?」
    「出る、ちゃんと出るから、……今日の体育は本当にムリ。一時間だけ休ませて」
    得意不得意や好みがあるのは理解できるが授業である以上出席しなければ成績に影響が出る。体育の教師が彼に手を焼いていることは話に聞いていて、同じ立場にいる俺はきちんと授業に出るよう指導をするべきなのだろう。……けれど、苦しげな表情を浮かべる生徒に今すぐ外を走り回ってこいと言うことは、俺には難しかった。
    「……授業に出ないのならせめて保健室とか、誰か先生のいるところにいなさい。プリントや補習で少しは補えるかもしれない。見学でも授業に出席していることにはなるしそれで」
    「先生のところって、ファルガー先生でもいいの?」
    「……、……まあ、どこかに隠れているよりかはマシか……?」
    担任や各教科の先生方へ連絡をしなければいけない手間も、彼を探し回る時間を考えれば変わりないかもしれなかった。そもそも彼が他の先生方よりわずかに懐いているという理由だけで担当授業のない空き時間に彼を探す役割を任されている時点で、自分の立ち位置は分かっている。この学校はベテラン教師が多いため、生徒と年齢の近い(と言っても一回り以上離れている)俺に、扱いの難しい生徒たちと先生の立場でありながら友達のように距離を縮めて他の先生たちへの架け橋に、と、無茶苦茶な仕事を押し付けられ……頼まれているのだ。残念ながらこの仕事に「業務外」なんて言葉は存在しない。
    「先生っていつもどこにいるの? 職員室? 職員室は行きたくないんだけど」
    「国語科準備室がある。他の先生方もいる時はいるけれど、……国語科だったら浮奇の苦手な先生はいないよな?」
    「ん、大丈夫。先生、俺のこと詳しいね?」
    「誰のせいだと」
    「俺のせいかな?」
    嬉しそうに微笑んで、彼は荷物を持って立ち上がった。早速国語科準備室へ向かうらしい。ため息を吐いて俺もその後を追う。今は他の先生方は授業に出ているし、彼とゆっくり話すことができるだろう。今朝彼の担任から渡された未提出の書類のリストや課題プリントについても、ゆっくりと。
    施錠されていた準備室に鍵を開けて入り、隅にある席に彼を座らせた。物置と化していた机の上から辞書やプリントをどかして適当に埃を払う。
    「先生って綺麗好きっぽいのに案外雑だよね……。雑巾とかないの?」
    「どこかにあるかもしれない」
    「……ま、いいや。それで、俺は何かプリントをやらなきゃいけない?」
    「それもあるし、他にも色々あるが……。すこし話すか」
    「……なにを? 進路のこととか?」
    「それについて話したいのなら。なんでも、学校と関係のないことでもいい。カウンセラーになるつもりはないけれど、少なくとも俺は浮奇のことを分かりたいと思っている」
    「……先生が自分のこと話してくれたら俺も話す」
    「俺のこと? ……何も面白いネタが思い浮かばない。あ、先週買っておいた惣菜を食べ忘れてカビを生やした」
    「そんな面白ネタを求めてたわけじゃないんだけど……、……先生料理しないの? 一人暮らしでしょ? 彼女は?」
    「ノーコメント。料理はしない。買ってきたものを食べるだけなのにそれも腐らせるダメな大人だよ。浮奇は? 料理をするのか?」
    「うん。自分の食べたい物は買うより作るほうが好きな味付けにできるし」
    「料理上級者のコメントだな……」
    「今度何か作ってあげよっか? 先生何が好きなの?」
    「好きな食べ物? ……たこ焼きかな?」
    「作ってこれないような物言うのはわざと? やっぱり彼女いるでしょ」
    「ノーコメント。朝ごはんはちゃんと食べてるか? 嫌いな授業じゃなければ一限からいるし朝が苦手ってわけじゃないんだよな?」
    「朝はそんなに入らないんだよね。コーヒーとか、飲み物だけの時もあるかな。俺のクラス担任と仲良いの? なんで俺の出欠率把握してるわけ?」
    「おまえが問題児だからだよ」
    俺の言葉を聞いて彼は他人事のようにあははと笑った。問題児の自覚があるのか、ないのか。
    俺が話せば自分も話すという言葉通り、交互に質問をし合う形で話は繋がって浮奇は色々と自分のことを話してくれた。生徒一人一人の情報が書かれている個人表を彼の担任から見せてもらったことはあったけれど、そこに入り切らないほどの情報が三十分足らずで増えていく。個人情報とも言えないような極個人的な、彼の好きなもの、嫌いなもの、最近ハマっているゲームや近所のおいしいごはん屋さんなど。たぶん、先生と生徒として話すような内容ではないそれらが、彼が心を開くには必要だと思った。
    「で、先生、彼女はどんな人?」
    「しつこい男は嫌われるぞ」
    「俺モテるもーん。だって先生優しいしカッコいいのに、いい感じにダメでしょ? 私が支えてあげなきゃ、みたいなこと考える女の人が放っておかなそう」
    「……、……」
    「? どうしたの?」
    「今のは褒められているのか考えてる」
    「ふ、どうかな? 俺はすごく好きだよ? 褒め言葉のつもりで使ったけど、受け取り方次第かも」
    「……浮奇は、考え方が柔軟だよな」
    「ありがと」
    「大人と話すのも臆さないし、他の先生方ともうまくやれるんじゃないか?」
    「うーん、それは、……俺は先生だから話してるだけだし、無理じゃない? 例えば俺の嫌いな数学の先生いるでしょ」
    「せめて苦手と言いなさい」
    「はぁい。俺の苦手な、数学の先生。あの先生と今ファルガー先生と話してるみたいに話すの、絶対無理じゃない? 頭固いオジサンとオバサンは苦手〜」
    「……俺もそうならないように気をつけないとな」
    「うん、俺が嫌いなオジサンにならないで、ずっとそのままでいてね」
    「おじさんにはどうしてもなっていくものだが……」
    「カッコいいままでいないと女子生徒に嫌われちゃうよ」
    わざとらしい揶揄う口調に笑みを返し、彼の頭の上にポンと手を乗せた。軽く叩くだけでも体罰になる時代だから触れることには気をつけないといけないけれど、たぶん彼は少しくらい叱られたがっていたから。
    「髪をぐしゃぐしゃにされたくなかったら謝るといい」
    ふざけた口調で言うと浮奇は堪えきれなかったように吹き出して楽しそうに笑った。「ごめんね先生〜」とゆるい口調の謝罪を受け入れて、俺は自分の机の引き出しからある物を取り出した。
    「素直な生徒にはトクベツなご褒美だ」
    「ふふ、うん? なぁに?」
    「手を出してみろ」
    「ん!」
    笑顔のまま差し出された手のひらに、チョコレートをひとつ落とす。糖分補給用でいつも引き出しの中に入れているお菓子の一つだ。浮奇は自分の掌に乗ったものを目を丸くして見つめ、それから俺のことを見た。
    「いいの?」
    「他の先生には内緒にしておいてくれ。生徒を餌付けしていることがバレたら問題になる」
    「餌付けって。……俺、授業サボってる悪い生徒だよ?」
    「次の授業は出てくれるんだろう?」
    「先生の授業は餌付けされなくても出るもん」
    「じゃあそれはいらない?」
    「いる! もう俺の! ……でも、じゃあ、次の体育は見学してみようかな」
    「いい子だ」
    飼い犬を撫でる時のように頭を撫でてしまってから、自分のしたことに気がついてももう遅い。いつも綺麗にセットしている髪をぐしゃぐしゃにしてしまって、彼が機嫌を損ねてしまったらどうしようと心配して覗き込んだ顔は、しかし想像と違って嬉しそうに表情を緩めていた。俺と目が合うと余計に笑みが広がる。
    「えへへ、先生に褒められるの、好きかも」
    「……それはよかった」
    機嫌がいいうちに、とさりげなく渡した課題プリントを彼はきちんと鞄にしまい、チャイムが鳴ると「先に教室行ってるね!」と自ら教室へ向かって行った。思ったよりうんと素直ないい子、なのか……?
    彼の担任にどう説明をするか頭の中で話を組み立てながら、俺は浮奇が待つクラスの授業道具を持って準備室を出た。今まで八割の確率で寝ていて、残りの二割もぼうっとただ時間が過ぎるのを待っていただけの浮奇が、教科書を机の上に出していた時の衝撃は、教師になって一番と言ってもいいくらいだった。
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