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    ラーヒュン ワンライ 「マフラー」 2023.10.25.

    #ラーヒュン
    rahun

     平和なパプニカに定住し始めた、その当初。ラーハルトにはまだ恋心は無かった。
     だから正直に、ストレートに、本音をブチ撒けてしまったのだ。
    「ん? オレにか? すまんなヒュンケル。生憎とオレは首になにかを巻くと落ち着かんのだ。そういう垂れ下がる部分がある物は特にな。たとえ柔らかくて、それで絞め殺される事は無いと理屈では分かってはいても、いざという時にそれを引っ張って体勢を崩される可能性などは考えてしまう。戦士として危機意識が働いてしまって気が休まらん」
     レストランでの食事中だった。メインディッシュにナイフを入れている所だった。ラーハルトが皿の肉から目を上げたのは、ここまで言い切ってしまってからだった。顔を上げて初めて、ヒュンケルが目に涙を溜めて愕然としているのに気付いた。
    「ならいいんだ……」
     一言こぼした彼が荷物袋に戻したマフラーが手編みの品だったとは、後日、人づてに聞いた。ヒュンケルに毛糸の選び方や編み方を伝授したらしい武闘家の女が、城で鉢合わせた際に、上手く出来てたでしょ? と悪意のないネタばらしをしてきたのだ。
     女から、ヒュンケルの張り切って編んでいた様子や、マフラーという贈り物に込められた意味などを一通り聞いたラーハルトは深い後悔に襲われた。
     だがしかし、まさかあの、リボンはおろか包装すらされていない真っ白なマフラーが特別な贈り物だったとは。てっきり気安い友人ゆえに使っていない衣類を要るかどうか聞いてきた程度のことだろうと思っていた。



     その一件でヒュンケルの淡い想いに察しの付いたラーハルトは、彼が気になって仕方なくなり、やがて順当に交際状態にまでは漕ぎ着けたのだが。
     どうしても忘れられないのは、やはりあれだ。
    「マフラー?」
    「ああ……ほら、あの、白い……」
    「いいんだ、もうあれなら」
    「捨てたのか」
    「そうではないが」
    「なら他の奴にやってしまったのか」
    「まだ持っているが……おまえが無理をして着けることはない」
     甘い夜を過ごした翌朝ですら寂しげに囁いたヒュンケルに堪らなくなった。ラーハルトは必ず使うから今こそくれと必死で詰め寄った。しかし。
    「ラーハルト……おまえは本当に優しくて良い男だな。オレが作ったものだからと気の休まらない物を急所に巻いてくれるという。それは戦士として鍛え抜いたおまえにとっては耐え難いだろうに。安心してくれ、オレもおまえが好きだからこそ、そんな苦労はさせたくないんだ」
    「そうではなく、心のそこからあれが欲しいんだ」
    「ふふ……ありがとう」
     あ、これは絶対にくれない流れだなと容易に察せられた。彼は固い意思でラーハルトに負担を掛けまいとしている。



     ヒュンケルは、ラーハルトが首に物を巻くのが絶対的に不快なのだと思い込んでいる。だがラーハルトはどうしてもあのマフラーをゲットしたかった。
     武闘家の女からもたらされた衝撃情報はずっと胸の凝りになっていた。
    ──何をあげたらいいかなって相談されたのよ。それで、マフラーを贈るってのは、『あなたに首ったけ』ってことなのよって教えてあげたらヒュンケル、すごく気合が入ったみたいで真剣に編んでた。
     ラーハルトは、あの日の自分がはね除けてしまったヒュンケルの想いを、なんとしても手にしたいのだ。
     なので折りを見て、欲しい、よこせ、くれ、くださいと頼み続けたのだが。
     おまえのくれた物なら着けたいんだ、と言い募ってもヒュンケルは信じてくれなかった。
    「首以外の着用品をプレゼントするから、それでは駄目か?」
    「駄目だっ」
    「そう我が儘を言うな……」
     違う。こんな下らない言い合いをしたいのではない。ただ彼からマフラーが欲しいのだ。



     とにかく、首でも大丈夫なのだと知らしめなければ。そうだ、ヒュンケルの為なら首のひとつやふたつ喜んで差し出してやるというものだ。
    「ヒュンケル! これをオレに着けてくれ!」
     ラーハルトは鋲の付いている犬の首輪をヒュンケルに突き出した。ご丁寧に鎖まで繋がっている代物だ。
    「え?」
     明日は休みで、恋人であるヒュンケルの家に招かれて、食事と湯浴みを終えて、両者ともガウンのみの姿。つまりベッドインの直前である。
     シチュエーション的にヒュンケルはゴクリと唾を飲み込んだ。
    「ど、どういう事だ」
    「オレの首は、おまえの物なのだ!」
     捨て身の策だ。おまえならなんでも好きに巻いて良い、だからマフラーくれ、と伝えたかったのだが。
    「それを言うなら、オレの首もおまえの物だな」
     ヒュンケルは、はにかみつつ自身の首に犬の首輪を着けて見せた。至福のビジュアルだが、しかしそうではない。
     マフラーください作戦はまたも失敗に終わった。無念だ。ラーハルトは泣き崩れそうになった。
     だが、その時である。
    「ならば、指輪の交換とまではいかんが、オレからは……」
     ヒュンケルはごそごそと寝室のタンスを探って、白いふわふわを取り出した。
    「──っ!」
     ラーハルトは指を差して、叫びの表情で固まった。あの時のマフラーだ。
     歩み寄ってきたヒュンケルが、ラーハルトの首へ勲章のようにそれを掛けた。
    「代わりにこれを、おまえに」
     花開くようにフワリと微笑んだヒュンケルに、今までの光景が走馬灯のように蘇る。レストランで見た涙、寂しげ伏せていた目や、詮のない押し問答での困った顔。感慨が頭を駆け巡り。
     そうして長く求め続けたぬくもりが、今まさに首元に巻かれている喜びに感極まって、ラーハルトは気絶した。



     一夜明けたら。
    「だからヒュンケル! オレはおまえのくれた物なら首に巻いても大丈夫なのだ!」
    「倒れたではないか! もう騙されんぞ! オレにだっておまえをいたわりたい気持ちはあるのだ!」
    「頼む、あのマフラーをくれ!」
    「断じてやらん!」
     ラーハルトのマフラーください作戦の難易度は爆上がりしていた。
     だが諦めない。一生を掛けてでも、もらってみせる。









    2023.10.25. 17:15~18:30 +60分



      SKR









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    dosukoi_hanami

    Deep Desireヒュンケル、仕事を納める。
    (アポロさんとヒュンケル、ほんのりラーヒュン)

    2021年、ダイ大、ラーヒュンにはまって。Twitterを始めたり、自分で何かを創作する日がくるなんて想像もしていませんでした。そしてそれがこんなに楽しいなんて!
    挙動不審にも関わらず、温かい声をかけてくださったり、仲良くしてくださって、本当に本当にありがとうございました。
    感謝しかありません。
    ヒュンケル、仕事を納める年の暮れ、パプニカ。

    平生は穏やかでありながら行き来する人々の活気を感じられる城内も、この数日ばかりはシンと空気が落ち着く。
    大戦前の不安定な世の頃は年の瀬といえど城の警備を手薄にするなどありようもなく、城内で変わらず職務をこなしながら、見知った仲間とただ時の流れとともに志を新たにしたものだった。

    勇者が平和をもたらしてくれたから。
    三賢者のうち、マリンとエイミの姉妹は今日うちへと帰った。アポロは今夜と明日の晩は城で過ごすが、二日後は姉妹とバトンタッチをして帰郷する。墓前に挨拶などこんなときにしかしない。頭の中で、城下の花屋でブーケを買い帰る算段をしているとき、意外な人物を認め足を止めた。

    姫の執務室の扉の前。
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