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    カリフラワー

    @4ntm_hns

    🐓🐺・🥴🐺
    作品はすべて全年齢向けです。

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    カリフラワー

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    マ右ワンライ/ルスマヴェ/お題「手入れ」
    さらっとお題を撫でたくらいの話で恐縮です。マーヴの作業風景を眺めながらもやもや考えるルスの話です🐓💭

    #TGM
    #ルスマヴェ
    rousmavet
    #roosmav
    #M右ワンドロワンライ
    mRightWandolowanRai

    あなたのそんなところが 乾いた風がハンガーに吹き込み、風に運ばれた砂が外と中の境界を曖昧にする。ぶつぶつと何かを呟く声。「ああ、あれが要るんだった」大きな歩幅で道具を取りに行く長い脚。俺には名前もわからない道具を迷いなく掴む小ぶりな右手。
    「ブラッドリー、せっかく来てくれたのに構えなくて悪いな」
     愛機の元へ戻ったマーヴは振り返って言った。するとソファに寝そべる俺と目が合い、マーヴは可笑しそうに笑い出した。太陽が動き、さっきまで影に覆われていたソファと俺の顔が、扉から差し込む強い陽の光に照らされているのだ。
    「ほんと、俺はマーヴに会いに来たのにね。これじゃ帰る頃には丸焼けになっちゃう」
    「すまない、もう少し待ってくれ」
     マーヴは笑いながらもう一度謝罪した。
    「仕方ないよ、古い機体は気まぐれだもん」
     俺がモハヴェに来た今日この日、マーヴは愛機のメンテナンスに追われていた。本当は俺を乗せて遊覧飛行でもしてくれる予定だったのに、今朝から突然機体が動かなくなってしまったのだ。マーヴは俺が帰るまでに機体を直すと意気込んでいるが、正直俺自身はマーヴと一緒に過ごせるのなら飛べなくても構わなかった。
    「普段は僕の言うことを聞いてくれるんだよ、素直でいい子なんだ」
     マーヴは愛機について優しい声で話しながら、内部が露わになった機体の胴体部分に再び向き直った。どうやって汚したのか、黒い油汚れが白いTシャツの背面にまでついている。そのTシャツは差し込む日光で輝き、手を動かすたびに生地に這う影が形を変える。
    「素直でいい子? まるで俺みたい」
    「そうかな」
     マーヴは背中を向けたまましゃがみ込み、足元に置いた整備マニュアルのページをめくった。丸まった背中にTシャツが張り付き、浮き出た肩甲骨がわずかにうごめく。少し長さの足りないTシャツの裾からは、無防備な腰がちらりと見える。筋肉に覆われた背中、砂漠の太陽に焼かれた肌、踵が浮いた左足。しゃがんで小さくなったマーヴの姿はどうしようもなく色っぽい。
    「ブラッドリー、最近どうだ? 元気にしてたか?」
    「うん、元気。変わりないよ」
     立ち上がったマーヴは俺の短い近況を聞きながら、ちらりと一瞬俺を振り返った。その時の微笑みは逆光でよく見えなかったが、言い換えればそれは後光が差しているのと同じことだった。
    「ずっとここに来るの楽しみにしてた」
    「ずっと?」
    「うん、ずっと。カレンダーにバツ印つけてカウントダウンして」
    「本当か? 君はカレンダーに印をつけ忘れるタイプだろう」
     マーヴは俺のことをよくわかっている。たしかに毎日欠かさずカウントダウンするつもりが、数日分まとめてバツ印を書くことが何度かあった。
    「ここには砂以外に何もないのに」
    「マーヴがいるじゃん」
     俺は今までより優しく大きな声で答えた。マーヴがいる。それだけでこのだだっ広い砂漠のすべてが美しく見える。
    「僕がいたって同じだよ、君を楽しませてやれることはあまりない」
     前言は撤回する。やっぱりマーヴは俺のことをわかってない。俺はマーヴさえいればそれでいいのに。
    「俺のことを楽しませたいなら方法は色々あるけどね」
    「例えば?」
     それは言わない。たぶん今のマーヴには考えもつかない。俺は今マーヴの後ろ姿を見ながらそのことばかり考えているけれど。
    「とにかく、マーヴに直接会うことが目的だって、それはわかってるよね?」
    「ああ」
    「うん、ならいい」
     マーヴの短い返事を聞いて、俺は持ち上げかけた頭をくたびれたクッションに沈めた。マーヴはこちらを向いて怪訝そうに眉を寄せ、曖昧な俺の言葉を反芻した。それからまた複雑そうな構造を見せる愛機に手を伸ばし、作業を再開した。
    「だけど、せっかく取れた休暇をずっとここで二人きりで過ごすなんて……君にも友達はいるだろ? ここには何もないとは言ったけど、友達も一緒に連れてきてくれて構わないんだよ」
     愛機の中に入り込む腕には筋が浮き、筋肉が逞しく盛り上がる。つい数時間前に抱きしめられた時の、締め付けられるようなマーヴの腕の感触を思い出す。あの心地良い抱擁をマーヴが他の誰かにしているところなんて、絶対に見たくない。友達? いたって連れて来ない。
    「いい、俺は"ずっとここで二人きりで"過ごしたいから」
     マーヴは断言する俺の返事を聞いて笑った。
    「君は変わってるな」
    「どこが」
    「何もない場所で僕と二人きりで過ごしたいなんて」
     また振り出しに戻った。マーヴと二人だけで過ごしたい理由は今まで何度も話したのに、直接会うとそんな話なんて忘れたみたいにして俺を不思議がる。好きな人と一緒に休暇を過ごしたいと思うことの、何が変わっているというの。マーヴはなかなか信じないけれど、俺はマーヴを好きで好きで、遠くにいる時も毎日一目見たくてたまらないんだよ。
    「俺とマーヴ以外はみんな邪魔者なの」
     マーヴのその柔らかい髪にも、鍛え上げられた身体にも、敏感そうな爪先にも触れたい。だけど俺の気持ちが伝わらないのなら先へ進めない。
    「邪魔者って……」
    「それ以外に表現のしようがないよ」
    「いや、それは表現が悪いんじゃないか」
     マーヴは小さな子を嗜めるような視線を俺に向けた。好きだって、何度も言ったのに。どうして俺は今マーヴに怒られているんだろう。好きだって一言言えば、全部わかってくれると思っていたのに。
    「……じゃあなんて言い換えればいいの」
    「それは……思いつかないけど」
    「だったらいいじゃない、俺はこの場にマーヴ以外の人はいらないの」
     困ったな、とでも言いたげなため息がマーヴの喉から漏れた。
    「まあ……君がそれでいいのなら」
     あと一回、「好きだ」と言えばわかってくれるのかな。今の俺は、まさにその一回の手前に立っていたりはしないかな。マーヴだって、追いかけたい相手は絶対に逃さない質でしょう? だったらどうして素直になってくれないの。
     今すぐ機体の部品は全部元に戻して。手なんて洗わなくていい。汚れたままでいいから俺のところに来て。好きな人を呼ぶみたいに俺の名前を呼んで。俺のことも汚してみて。今一番手入れが必要なのは俺なんだから。

    「マーヴ、好き」
    「……うん」
     俺を気にかけてくれるのなら、俺のあなたへの気持ちにもちゃんと気づいて。俺を理解して。俺が何を望んでいるかはちゃんと聞いたよね。だったら望みを拒否するか、応えるか、もう少し考えたいか、それだけは教えてよ。どの選択肢を選んでも構わないから、何もなかったみたいに振る舞わないで。何度同じことを言わせるの? それがマーヴの悪いところだよ。
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    カリフラワー

    DONEマ右ワンライ/ルスマヴェ/お題「歌声」
    わかりづらいですが、段落ごとに時間が進んでます。本当にわかりづらいです。反省してます。
    Sing for me 幸せだと感じる時、聞こえてくるのはいつも彼の歌声だった。
     ブラッドリーは歌が上手い。ピアノも弾ける。彼の父親もそうだった。二人揃って音楽の才能があった。だけどそれをブラッドリーに伝えると、彼はこう答えた。「俺が親父と違うのは、俺はマーヴを惹きつけるために歌ってるってこと。俺の歌声はマーヴのためにあるの」だから同じにしないで、と彼は笑った。

     繋ぎっぱなしのビデオ通話で、かつて僕たちは会話もせず黙って時間を過ごした。ブラッドリーは料理をして、僕は洗濯物を片付けて。お互い画面なんてあまり見ていなかったと思う。自分が映っているかどうかも気にしていなかった。ただ画面上で繋がってさえいれば、二人の時差も距離も忘れてしまった。時々思い出したように画面を見ると、ブラッドリーはナイフや缶切りを持ったまま、同じタイミングで僕の様子を確認しに来る。そして安心したように微笑み、また画面の前から消える。それを何度か繰り返していると、そのうち彼の歌声が聞こえてくる。
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