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    七も五も忙しい。任務から帰ってきたさとるはハーゲンダッツのアイスを食べようとしますが… 2024.1.6

    #七五
    seventy-five

    食いしん坊万歳 ハーゲンダッツのアイスがない。家に帰って冷凍庫を開けてその事実に気がつき僕は呆然とした。
     といっても食べたのは僕だ。正確にいうなら昨日の僕だ。最後の一つを手に取るとき、これでおしまいねと僕はちゃんと認識したから。なぜ手を伸ばしちゃったんだろう。その前に既に二つ食べたというのに。別にどうしても食べなくてもよかった。でも、マカデミアナッツとクッキー&クリームを食べて、少し趣向を変えてストロベリーも食べたくなったのだ。どう趣向が変わっているんですか、と七海なら言うだろう。いや、違うじゃん。クリームっぽいものからフルーティーなものじゃん。ともかく、そうやって僕は最後の一つを食べた。明日買って帰ればいいよねと思いながら。忘れていた。
     
     ふーっと口からため息が漏れる。ここが高専なら伊地知に買ってきてもらうんだけど、ここは七海の家だ。そしてもう夜のこんな時間だ。いくら僕でもここから伊地知に電話してハーゲンダッツ買って届けて~とは言わない。
     七海は今日の任務は遠方で、たぶん泊まってくるだろうと昼間メッセージが届いていた。近くのコンビニに買いにいくか…いや、家の中に甘いものが何もないというわけではない。他のもので我慢するか。でも。
     今日は僕は家に帰ったら、まずダッツのアイスを食べてそれから風呂に入ろうと思っていた。それから冷蔵庫にあるものを適当に食べるつもりだった。七海が作り置きしたものが何やかやとあるはずだから。なのに。
    「…疲れた」
     思わず口から出た。出してしまったらなおいっそう体が重くなった。
     ものを食べるのは、命を維持するためだ。甘いものを摂取するのは脳を回すため。目的があるからだ。必要だからやってる。もし必要ないんだったら僕は。
     ダメだ。こんなこと考えてたってしょうがない。もう今日は寝てしまおう。シャワーは明日の朝浴びればいいし、何か飲み物だけ飲んで眠ってしまおう。
     何とか立ち上がろうとしたそのとき、玄関のドアが開く音がした。
    「へ?」
     廊下を歩く足音が近づき、リビングのドアが開く。
    「…何やってるんですか」
     冷蔵庫の前にしゃがみ込んだままの僕を見下ろして、七海が言った。
     
    「…おかえり」
     なんで? 帰るの明日じゃなかったの? 言おうとして口が開かない僕に向かって
    「胸クソ案件だったので」
     七海が言う。祓除はしたのであとは補助監督に任せて帰ってきました。
    「電車で」
     電車? じゃあ疲れたんじゃない? これも言う前に
    「疲れました」
     七海が言う。大きく息を吐いて
    「あなた、食事は?」
    「…まだ。」
    「…お風呂は」
    「ま、まだ。」
    「何時に帰ってきたんですか?」
    「さ、さっき。さっき帰ってきたばかりだよ」
     僕は嘘をついた。七海は眉を顰めて僕を眺めていたが、フーッ 息を吐くと持っていたレジ袋をテーブルの上にドンと置いた。
    「鍋を作るので先にお風呂に入ってください」
    「え? 今から? 作るの? 疲れてるんだろ?」
    「肉と野菜とそんなものが食べたくなったので」
     あたたかいものが。そう言って風呂場に行きお湯張りボタンを押し、それから手を洗って戻ってくる。
    「すぐ出来ます」
     
     お風呂から上がると鍋はできていて、後で風呂に入るからと七海はビールを一本だけ開けた。冷凍してあったご飯を入れて雑炊を食べ終わる頃には僕はすっかり穏やかな気持ちになっていた。
    「ハーゲンダッツのアイスがなくなっちゃったんだよ」
    「プリン買ってきましたよ」
    「マジで」
     七海が風呂に入ってる間、僕はプリンを食べて、それから二人でベッドに入った。
     
    「お前、すごいよね」
     僕は言った。
    「何がですか」
    「疲れてんのに鍋作るとか。食欲がなんつーか、すごい」
     七海は顔を顰める。僕は笑った。
    「お前が食いしん坊で良かったよ」
     ふふふ、ふふ、ふふ、
     僕は感謝してる。お前の生命力に。食べることは生きることだろ、わかってるけど。僕は何ていうかすぐにどうでもよくなるんだ。
    「お前が食いしん坊で良かった」
     もう一度言った。
     
     七海は何か言いたそうに、でも言わないで眠そうな僕を抱き寄せた。
    「ハーゲンダッツのアイスは、明日買いに行きましょう」
     うん。
     ダッツ、新作が出てるんだよ。季節限定の。
     言いたかったけど、僕はもう口が開けず、七海のいい匂いのするパジャマに顔を押し付けて眠りに落ちた。





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    sakikuryo

    DOODLE高杉社長について書きたい咲紅さんはおおよそ五分の夕立のあと、様々な蜂蜜を取り扱う洒落た店で嘘みたいな味のりんごを食べたことの話をしてください。

    #さみしいなにかをかく #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/595943
    面白きこともなき周回を面白く高杉社長を書いてみようとした
    途中で切れます

    ===

     あたりが焼け野原になったのを見届けてから、高杉は手近なカフェーへ入った。銅だか真鍮だかを叩いてのしたような看板に、甘たるい西洋菓子の名が焼き付けてある。店の名前なのだろう。食べたことはない菓子だったが、横文字の響きだけで十分に胸やけがする。引いた扉の蝶番はやけに重い。ベルが尖った音でちりんと云い、対して店員は、蚊の鳴くような応対で客を出迎える。
    「二名様ですね」
     お好きなお席へどうぞ、と言われて初めて高杉は、自分の後ろにもう一人居たのだと気が付いた。カルデアのマスターだ。白っぽい衣服と頬は煤だらけで、とてもじゃないが洒落たカフェーで一服する格好ではなかろう。人のことは言えないが。振り返る視界で、高杉は自分の髪の、ほどけて赤く、爛れたように黒いのをとらえた。こんな血でべとべとの人間を、よくまあ客として迎え入れたものだ。
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