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    やっと涼しい秋になりましたが、引き続き忙しい七と五。七海が提案します🍁2024.10.7

    #七五
    seventy-five

    秋のエスケープ「小さい秋~小さい秋~」
     キッチンで五条が歌っている。
    「小さい秋~見ぃつけた~」
     七海はリビングのテーブルで何となく聞いていた。
    「小さい秋~小さい秋~小さい秋…」
     冷蔵庫を開け、葡萄のジュースを取り出し、次のフレーズに入った五条は「…あれ?」と歌を止める。
    「最初は『誰かさんが』で始まるんですよ」
     七海は言った。
    「そっか。どんだけ見つけんのかと思った、小っさい秋」
     五条は笑う。
    「ていうかお前、わかってんなら最初に教えてよ」
    「気持ち良さそうに歌ってましたので」
     七海は手元の珈琲を飲んだ。
     
     昨夜、遅い時間に五条は七海の家に来た。余程疲れていたのか倒れ込むようにベッドに入り、そのまま眠ってしまった。それでも久しぶりに顔を見て、七海の体温を感じたのが嬉しかったのか、今朝、五条は機嫌がいい。良かったのだが。
     
    「やっと涼しくなってきましたね」
     七海が言うと
    「そうね、これから行楽シーズンだね。いい季節だよ」
     言って五条はグラスに注いだ葡萄ジュースをひと口飲む。窓の外の高く青い空を眺めた。ふいにため息をつき、あ~あ…と言う。
     まあ、言いたいことはわかる。
     
    「…修学旅行とかさあ、温泉旅行とかないかね、高専で」
     生徒や自分たちのことを考えたのだな、七海は思う。
    「温泉に呪霊出ないかな」
     呪霊が出れば、それを祓いに行って、その後のんびり…と考えているのだな、七海は思った。
    「お前、裸で戦える? フルチンで」
     は?
     まるで脈略がわからない。何を考えたのだ。
    「…呪霊は、温泉に入る前にあなたが祓ってくれるんじゃないんですか」
     言うと、うん。そうなんだけど…五条は言って
    「お前とゆっくり温泉に漬かってたらさ、また別の呪霊が出てくるんだよ。僕はさっきひと仕事した後だから、お前が『ここは私が』つって引き受けるんだな。フルチンで」
    「嫌ですよ。あなたが指先一つで祓えばいいでしょう? その方が効率がいい」
     言うと、五条は形のいい唇をむっとへの字にして
    「やだ! お前の闘い方の方がダイナミックでしょ。その方がふさわしい! フルチンに」
     七海建人くんの裸で闘うとこ見てみたい!
     飲み会の拍子のように言う五条をそろそろ怒ろうかどうしようかと七海が眺めていると、五条はフー…とまたため息をついた。
    「まあ、行けないんだけどね」
     
     今日もこれから二人とも任務がある。それぞれ違う方角にだ。盛夏の繁忙期は過ぎたものの、ひと息つく間もなくこうして過ごしていれば、また忙しい冬にあっという間になってしまいそうだ。昨今、秋は短い。
    「ななみ~、ハグ…」
     ジュースを置き、五条が両腕を伸ばしてくる。
    「あ。でも、やらしいことはしないでね? その気になっちゃうから♪」
     軽口を叩きながらも、少し力ない笑顔の五条を七海は抱いた。顔を伏せる前の少し青白い頬を見た。
    「五条さん」
     七海は口を開いた。
    「ん~?」
    「私は今日と明日、北関東で任務です。場所は栃木です」
     言うと五条は顔を上げ、「ん?」とぼんやり七海を見つめた。
    「来れますか?」
    「…へ?」
    「今から伊地知くんに電話して、滞在を一日伸ばしてもらいます」
     え? へ? 五条は目をパチクリとする。
    「地方では往々にして不可測なことが起きますからね。そうですね、たとえば、地元の有力者に足止めされたり」
     薄く笑った。
    「呪霊を祓ったはずみに、駅に続くたった一本の道を寸断してしまったり」
    「え。おま…」
    「まあ、それはしませんが」
     しないのかよ! 五条は軽くのけぞる。
    「それくらい、理由は後付けできるということです」
     伊地知くんには先に話して骨を折ってもらいますが。
     五条は見開いていた目をもう一度瞬いた。一度うつむき、次に顔を上げたときには、瞳には輝きが戻り、口は弧を描いていた。
    「やるねえ」
    「幸いにも繁忙期は過ぎましたし。正規のルートで申請していると、秋が終わってしまいますし」
     七海はもう一度聞いた。
    「来れますか」
     
     行く! 五条は言った。
    「明後日?明日の夜かな。何が何でも行くよ!」
     七海は微笑んだ。無理をしないでくださいねとも、伊地知くんにあまり迷惑をかけ過ぎないようにとも、今日は言葉を飲み込んだ。何とかするだろう。だってこの人は最強なのだから。
     
    「あの辺だったら五条家の抱える宿もいくつかあるよ」
     任せて♪ と五条は言う。
     
    「紅葉してるかなあ?」
     五条が聞き
    「小さい秋くらいは来てるでしょう」
     七海は答えた。
     温泉に浸かるのだ。美味い酒を飲んで。
     この人の頬に赤みが差すのを、白い肌が湯を弾くのを眺めるのだ。
    「裸で呪霊は祓いませんよ」
     七海は言った。
     五条は満面の、満面の笑顔で笑った。



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