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    喧嘩する七五。でも仲直り☺️
    2024.8.16

    #七五
    seventy-five

    あなたの嫌は本当の嫌じゃないでしょう 自宅に戻ってきた七海建人は、上着を脱ぎネクタイを外すとそれから手を洗いに行った。暑かったので顔も洗った。鏡に映った自分の顔を少し眺めた。
     それからリビングに続いているキッチンへ行き、冷蔵庫を開け水を取り出してグラスに継ぎ、一杯を飲んだ。
     フーっ
     息を吐いた。
     
     今日、自分は何故あんなに怒ってしまったのだろうか。
     五条がふざけたことをしたり、煽るようなことを言ったりするのは今に始まったことではない。それでも家で二人きりのときは、そのふざけにも煽りにも多少甘いものが混じって、七海はため息をつきながらも何だかんだと相手をするし、結局は笑ったりもするのだが。
     他に人がいるとき、たとえば高専では、しばしば五条のそれはタガを外す。あれはどういう心理なのだろうか。
     
     家入のところに用があって行った。ドアを開ける前に中から五条の声が聞こえて、それは恋人である七海のことを話していた。家入の相槌の声は聞こえない。彼女のうんざりした顔が頭に浮かび、七海も負けず劣らずの顔をしてドアを開けようとした。と、五条の話はなかなかに際どい、人に聞かれるに憚る内容に差し掛かろうとしていた。
     ドアを開けた。思い切り。
    「ほら、彼氏が来たぞ」
     家入は言って、七海の表情を見た恋人は明らかにマズイ…といった顔をした。が、すぐに明るい笑顔を作って
    「おつかれサマンサ~~♪ スウィートダーリン♡」
     と言った。何かがブチっと七海の中で切れて
    「は?」
     低い声が出た。
     
     それからは家入に断って、腕を掴み廊下に連れ出した恋人に説教の嵐だ。最初は薄ら笑いを浮かべて何とかはぐらかそうとしていた五条も、七海が本気で怒っているのを悟って、口元をゴニョゴニョさせ唇をキュっと尖らせた。そんな幼い仕草さえ、その時は癇に障った。
    「あなたは、私がしないでくださいと言ったことを何故何回もするんですか」
     七海は言った。
    「子どもより始末が悪い」
     五条はもう何も言わずに、七海の顔を見ることもしないで、ただ拗ねたように唇を尖らせていた。七海はやっと五条の腕を掴んだままだったことに気づいて、その腕を離した。ため息をつく。踵を返した。何歩か離れたところで小さな声が聞こえた。
     
    「お前がどんなに怒っても…」
     振り返った。
    「僕はお前のこと好きだよ」
     
     目隠しで表情はわからない。五条はそれだけ言うと、クルリと背を向け歩いていってしまった。
     ……そんな話ではないでしょう
     七海はまた癇に障ったが、クソ…っ 呟いて、その場を離れた。
     

     何故、自分はあんなに怒ってしまったのだろう。七海は思った。腹が減っていたのか。いや、腹は減っていた。しかし。
     家入のところへは頭痛の薬をもらいに行くところだった。そういう類いの風邪なのか別の理由か、とにかく酷くならないうちに薬をもらっておこうと思ったのだ。結局、あの後、医務室に戻るのが気まずくて、もらわずに済ませてしまったが。もう頭痛はどこにもない。
     
     フー、七海はため息をついた。
     五条のキュっとつぐんだ唇が浮かぶ。いや、あの人が悪いんじゃないか、そう思うのに、唇が、見えなかった目が気になって、クソっ…と思う。 
     次に会ったとき、どんな顔をしてるだろうか。いや、あの人のことだから、何もなかったようにまたふざけかかってくるだろう…。窓の外を見た。
     …今日は、来ないのだろうな…
     
     チャイムが鳴った。
     
     
     
    「お前がしょんぼりしてるんじゃないかと思って」
     笑顔を作りながらも、目は少し泳ぎ、何よりも殊勝にも玄関から来た恋人は言った。
    「ほら。駅前の新しく出来た店の、パンを買ってきてやったよ?」
     七海はもう仕方ないので、本当にもう仕方ないので、恋人を強く抱きしめた。
     
     ◇ 

     ◇
     
    「お前だってさあ…」
     いくばくかの時間の後、ベッドの中で五条は言った。
    「僕がもう嫌だって言ったって、やめないときあるじゃん」
     もうダメ、もう無理だって、言ったってさ~
     七海は笑った。
    「あなたの嫌は、本当の嫌ではないでしょう?」
     
     ん~ふふ… 五条は笑う。目は潤み嬉しそうだ。七海の胸に顔をくっつけ、ゴニョゴニョゴニョ…と何か言う。聞き取れなかった。
     昼間のことを謝っているのか、それともまた埒のないことを言っているのか…
     七海ももう聞き返さずに、私も怒りすぎてしまってスミマセンでした、とも言わずに、
     ただ、五条の白い頭を撫でた。



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