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    雷を眺める七と五。2024.8.7

    #七五
    seventy-five

    雷とダンス 大気は不安定で、夕方からの雷雨に注意。
     天気予報の言ったとおり、先程から激しい雨がガラス窓を打ちつけている。五条は窓にへばりついて、暗い空を見上げていた。
    「あ、光った」
     空が一瞬明るくなり、続けてガラガラと鈍い音がする。
    「稲妻が見えたよ」
     五条が言う。
    「綺麗だね」
    「あなた、雷好きですよね」
     ソファに座ったまま七海は言った。振り返った五条の目は暗い空の下でもきらきらと輝き、口元は楽しそうに弧を描いていた。
    「うん。何かワクワクする」
     稲妻が見たくてつい見ちゃうんだよねえ、言いかけた側から空はピカリと光り、
    「あ。くそ、見逃した」
     五条は悔しそうにまた窓の方を向く。
    「…無下限って、雷に対してはどうなんです?」
     七海は何となく聞いた。ずっと窓にへばりついている恋人をこちらに向かせたい気持ちが働いたからかもしれないが、言ってすぐに後悔した。
    「どうだろう?? やったことないけど」
     顔を紅潮させ五条が目を輝かすからだ。
    「弾けるんじゃない?」
    「しないでくださいね」
     七海は眉を顰めた。
    「え~何だよ、自分で言っといて」
     でもまあ、雷はね、望んでこっちに落ちてくるもんじゃないし、実験するのは難しいかなぁ…
    「雷、嫌い?」
     五条が聞く。
    「もしかして、怖い?」
     揶揄われるかと思ったが、七海を見る五条の目にその色はない。
    「…子どもの頃は怖かったようです」
     今は平気ですが、と七海は答えた。
    「どんなふうに怖かったのか、もう覚えていないんですが、母がそういうふうに言っていたので」
     ふ~ん…五条の興味は移ったようだった。
    「子どもの頃の建人くんはさ、雷が鳴るとどうしてたの? 布団に潜ってた? それともお母さんに抱っこしてもらってた?」
    「母は……踊ってましたね」
    「え? 何それ?」
    「たぶん最初は抱っこしてくれてたんでしょう。それでも私が怖がるのをやめないので、雷が鳴る間、部屋の中を踊っていました」
     
     建人、見て 
     母は踊っていた。部屋の中をあちらこちらをくるくると。 
     建人、ほら
     
     雷をどんな気持ちで怖がっていたのか、もう思い出せない。
     しかし、くるくる翻るスカート、にこにこと笑いながら、時折雷鳴が大きく轟いて小さく悲鳴を上げ、「びっくりした…」と言ってまた笑う母の
     ほら、建人
     こちらに差し出される白い手を覚えている。
     
    「結構、ひょうきんな人だったの? お母さん」
     いつの間にかソファの隣りに座って五条が聞く。
    「普段はどちらかというとおっとりした、静かな人でしたよ。ただ、時折そういう頓狂なところがありましたね…若い頃は」
     今もそうなのだろうか…しばらく会っていない、遠方にいる母のことを七海は思った。
    「いいなぁ、僕も小さい建人くんとダンスを踊りたかったよ」
     五条が言う。
    「自分が踊ったかどうかは覚えていないんですけどね」
    「それかさ、僕だったら、お前を抱えて雷の近くまで飛んでやるよ」
    「普通に怖いでしょう、それ」
     七海は眉を顰めた。
    「だって僕だぜ? 雨にも濡れないし、雷も弾くし、ほ~ら?大丈夫だよ~けんとくん♪って」
    「トラウマになりますよ」
     ええ~そうかなぁ…、五条は唇を尖らせて、すいとソファから立った。そのまま何歩か後ろに下がり、長い腕を広げてバレリーナのようにクルリと回った。七海を見て微笑む。頓狂な動作で右に跳び左に跳び、しかし着地には音もない。最後にもう一度クルリと回ると、静かに止まった。
    「ほら、建人」
     腕を広げ五条が笑う。
    「僕が抱っこしてあげるよ」
     
     七海は立ち上がって、大きく腕を広げたままの五条に近づいた。両脇の下から手をまわし掬い上げるようにしてその体を抱いた。
    「いえ、私に抱っこさせてください」
    「その方がいいの?」
     擽ったそうに五条が聞く。
    「ええ、その方が」
     
     雷はいつの間にか遠くへ行ってしまったようで、それでもガラガラと最後の音を響かせた。五条を抱いたまま、穏やかな声で七海は言った。
    「大丈夫ですよ、五条さん」
     五条は笑って、いや、僕は大丈夫だって。僕は雷は大丈夫なんだよ。
    「私もです」
     七海は言った。
     それから二人はクスクス笑って、しっかりと抱きしめ合った。


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