Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    ぐ@pn5xc

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💗 😍 😆 👍
    POIPOI 21

    ぐ@pn5xc

    ☆quiet follow

    🌸はまだ咲いていません。七海が負傷します。2024.3.4

    #七五
    seventy-five

    もうすぐ桜が ななみ
     声が聞こえて、私は目を開けようとした。ここはどこだ。物事の前後がよくわからない。
     ななみ、もうすぐ春になるよ
     春になったらさ、桜を見に行こうよ
     そうだ、もうすぐ春だ。桜が咲いたら今年もこの人と桜を見に行こう。
     お弁当持って、飲み物も持って、
     お前、パンの方がいい?
     僕がサンドイッチを作ろうか
     ワインを持っていく? 日本酒の方がいい?
     あなたとなら何でも。でもそうですね、あなたが作ってくれるなら、あの京風のだし巻き玉子が食べたいです。
     ななみ、最初のさ、桜の季節に、
     高専の、お前が入学してきたときに
     いちめんの桜の中にお前の金髪が
     きらきらして眩しくてさ
     僕、そのときからもうお前のこと好きだったのかもしれない
     どうしたんですか、急にそんなことを言って。五条さん、
     どうしましたか
     泣いていませんか
     泣かないでも、何か辛いことがありましたか
     ななみ、行こうね
     今年も必ず
     手を握られている。やっと体が動かないことに私は気づいた。気づいた側からそれを忘れてしまう。
     五条さん、桜の中できらきらしていたのはあなたですよ けぶるようなあの桜の海の中であなたの白い髪が
     サングラスから覗いた青い目が
     一瞬、桜の精かと思ったんです
     恥ずかしいから今まで言ったことなかったですけど
     ずっと覚えているんです
     あの後、あなたのことを何てひどい人だろうと思ったときも、高専を離れたときも、ずっと
     五条さん そこにいるんですか
     大丈夫ですか
     五条さん
     つらいことがあったなら抱きしめてあげなくては
     大丈夫だと言って笑うあなたを休ませてあげなくては
     ミルクを
     ホットココアを
     あまい 飲みものを
     
    「だいぶ危なかったよ」
     意識が戻って高専の医務室のベッドの上、家入さんからそう言われた。スミマセンと思ったが口に出すにはまだ頭がはっきりとしなかった。それでも。
    「…桜は、もう咲いていますか」
     聞くと彼女は少し眉を上げ、でも穏やかに笑って
    「まだだよ」
     もうすぐ咲くだろうな、キミが眠っていたのは四日間くらいだ、そう言った。
    「もうすぐ五条が来るだろうよ。さっき連絡したから」
     
     そうか。ではここで待っていればじきにあの人の足音が聞ける。走ってくるだろうか、それとも、医務室の少し前から努めて普通に歩いてくるだろうか。ベッドの仕切りのカーテンは開いているからここからドアを開ける彼を見ることができる。
    「ななみ!」
     ドアが開いた。
    「走ってきたんですか」
     私は笑った。
     ドアからこちらまでゆっくり歩いてくる彼を見つめた。手が降りてくる。金の髪をくしゃりとされたので
    「顔を見せてください」
     私は言った。
     こっちのセリフ、五条さんは言って、両手で私の顔を挟み、それからやっと、目隠しを外してくれた。
     
    「桜を見に行きましょうね」
     私は言った。あれは夢だったのか、それとも彼が枕元で本当に囁いてくれていたのか
    「あなたの作るだし巻き玉子が食べたいです」
     五条さんはやっと明るい笑顔で笑って、私をぎゅうと抱きしめたので、
     痛かったし、家入さんから
    「おい、まだ無茶するな」
     怒られた。



    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💒💒☺☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works