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    pie_no_m

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    POIPOI 17

    pie_no_m

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    エレメントから好きですが初めて書きました。
    不自然な点がありましたら申し訳ございません。
    Romancing Cruise、なにごと……?

    #つむ夏
    tsumunatsu

    熱の余剰 微かな揺れと波の音に、ふと目を覚ます。
     目蓋を開いてすぐ目に入ったのは、ぼんやりした常夜灯だけが灯る照明器具だった。首を回しても見渡し切れない広すぎる部屋を眺め、一瞬の混乱ののちに記憶が蘇り、夏目はひとり納得するように再び目を閉じた。
     遭難、宗にいさん、豪華客船。
     南の島の慣れない暑さに、不覚にも体調を崩してしまったこと、客船に同乗させてもらい、水分を補給しつつの転寝をしていたことまでは思い出せる。いつの間にか本格的に眠り込んでしまっていたのか。現在の時刻が知りたいと、夏目はサイドテーブルに置いたはずの携帯端末を手を伸ばして探った。が、見つからない。ミネラルウォーターのボトルを掻き分けても同じことだった。どうせあの、余計なことばかりするお節介で暑苦しい眼鏡の仕業だろう。仕事の連絡がひっきりなしに入っては夏目の睡眠の妨げになるので遠ざけたとか、バッテリーの残量を気にして電源に繋いであるとか、つむぎの思考と行動に大方の予想を付けつつ、夏目はまだ重い身体を起こした。こめかみに走る鈍痛は、深く眠ったぶん昼間よりも酷くなっている気さえする。身体の火照りも落ち着いたようには思えない。夏目はほとんど無意識に自らの頬に触れた。
    『ちょっとすみません』
     左頬の熱が、記憶とともにぶり返す。
    「あのモジャ眼鏡……」
     夕暮れまでは宙と共に打ち合わせの報告に来たり、夏目の身の周りの世話を焼いたりと忙しなく動いていた気配があったが、今はどこにいるのだろう。冷房によってややひんやりした大きな手は、すこしだけ夏目の体温を奪っていった。そのことばかりを思い出すのが癪で、夏目はとりあえず部屋の明かりを点けようと、今度はベッド下のスリッパを探すためにシーツから這い出した。と同時に軽いノック音が聞こえ、薄暗い部屋に筋状の光が差し込み広がった。
    「夏目くん、具合はどうですか?」
    「噂をすれバ……ソラは一緒じゃないノ?」
    「宗くんの部屋にお呼ばれして、そのまま寝ちゃったんですよ。起こすのも可哀想なので、一旦俺だけ帰ってきちゃいました」
    「あっそウ」
     厳密には「噂」はしていないのだが。つむぎが首を傾げながら部屋に入って扉を閉めると、室内の光は再び常夜灯と窓からの月明かりのみになった。それを解決するために身体を起こしたのだと、夏目は下を向く。
    「駄目ですよ、ちゃんと寝てないと」
    「わかってるヨ、でも部屋が暗いか、ラ……ッ」
    「夏目くん!」
     視界がぐらりと回る。万全ではない寝起きの身体、揺れる部屋。当然の帰結だと愚かな自分を恥じた夏目が咄嗟にしがみ付いたのはつむぎの腕だった。床に倒れ込む前に、ぎりぎりでずり落ちるような形で受け止められている。
    「ああもう、びっくりしましたよ……ほら、大人しくしていましょうね、欲しいものなら俺が――」
    「ねえセンパイ。……返しテ」
     つむぎの腕からシャツの胸元へ。空調の効いた室内で、背中や血管の集中した箇所にじんわり汗が滲むのを感じる。
    「返して? ああ、夏目くんのスマホならソファの脇、に……」
    「違うヨ」
     こういうときに、彼の眼鏡は邪魔者でしかない。フレームに手をかける。
    「……眼鏡、借りてましたっけ……?」
     現れた素顔に対して、それも違う、とは教えてやらない。というより、夏目は質問に答える前に唇をつむぎのそれと重ねていた。自ら縋るような体勢に若干苛立ちながらも、口付けは止められない――と、思っていたのだが。
    「なつ……夏目くん、こら、だめです」
    「…………ハ?」
     船の上、月明かりの下。ムードだけなら完璧だったはずだ。眼鏡まで外させておいて、ただのモジャモジャと化した男から、触れ合いをお預けされることなどあっていいわけがない。このまま腹に一発、と指先に力を込めようとして、そして力は入らなかった。
    「よいしょ」
    「エ……?」
     存外軽い動作で、つむぎは夏目の身体をベッドの上の定位置に戻してしまった。言いたいことは山ほどあったし、出したい手も死ぬほどあったけれど、盛り上がりかけた気分に水を差されたせいかそんな気力も失われていた。代わりにはっきりとした溜息を漏らすと、つむぎは困ったように眉を下げた。
    「俺はもう少ししたら宙くんを迎えに行きますから、今はこれで我慢してくださいね」
     夏目の横たわるベッドが軋み、背中から腹に手を回された。つむぎに後ろから抱きかかえられる格好になる。
    「子供扱イ……」
    「いいえ、言ったでしょう、病人扱いだって」
     つむぎはそう言ったけれど、暑くないですかという問いかけは柔らかく、幼子に語りかけるようなトーンだった。優しく規則正しく腹部を叩く仕草も含め、夏目の神経を逆撫でするばかりで――やはり、良いことなどはひとつもない。身体は自由にならず、心は揺さぶられるだけ。
     静かな海に包み込まれたまま、夏目は段々と下りてくる目蓋への抵抗をやめ、寄せる波のように覆い被さる眠気にその身を委ねた。
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    pie_no_m

    DONE
    日曜日の番犬 イエローウエストの夜。多種多様な人工灯に煌々と照らされた通りは一晩中眠ることを知らない。歓楽街としては魅力的だが、昼間と比べ物騒で、どこか後ろ暗く、自分の身を自分で守る術を持たない人間が一人で出歩けるほど治安が良いわけでもなかった。ひとつ裏の通りに入れば剣呑な雰囲気は特に顕著であったが、フェイスは気にした様子もなく、胸の前に大きな箱を抱えて歩いていた。一年のうち、もしかしたら半分は通っている道だ。警戒はしても、怯えはしない。その上、今夜は一人ですらない。
    「ごめんね、付き合わせちゃって」
    「気にしてないよ。明日はオフだし、むしろ体力が余ってうずうずしてるくらい」
    「アハ、ディノらしいね」
     歩を緩めて箱を持ち直したフェイスの少し後ろを、フェイスより大きな箱を抱えたディノがそれでも身軽にスキップする勢いで歩いている。箱の中身は、フェイスが懇意にしているクラブオーナーが貸し出してくれた音響機材だった。大きなものは業者に任せたが、いくつかは精密機器も含まれるので直接運ぶための人手が欲しいのだと頼んだところ、ディノは快く引き受けてくれた。『ヒーロー』としての業務終了後、そしてディノの言う通り明日は休日なので、【HELIOS】の制服は身につけていない。一般的な服を着た、背丈のある男が爛々と目を輝かせて歩く様は、この界隈で言えば異常だった。目を引いても絡まれないというのは、見た目のおかげで人種性別問わずエンカウントの多いフェイスにとって非常にありがたいことだ。最初にディノをクラブへと誘ったときも、似たような理由があったことを懐かしく思う。
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