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    ※名前有りのモブ娘が登場します
    ※捏造表現過多

    #ディノフェイ
    dinofacies

    愛されたがりの愛し方「護衛?」
     フェイスのおうむ返しに、キースが頷く。ウエストセクターの研修チーム四名、その日常生活の中心であるリビングルームには、食欲をそそるトマトとガーリックの香りが漂っていた。時刻は午後七時十分前。ちょうど夕飯時である。首肯の後に「あいつら、遅ぇな」とまだ帰宅していないチームメイトたちへの文句を挟ませてから、キースは話を続けた。
    「ブラ……お前のオヤジさんの伝手というか何というか、オレにはそこまで詳しいことはわかんねぇけど……とにかく、大使の娘さん直々のご指名だと」
     キースが不明だと言う「詳しいこと」の大半は、彼が聞き流したか忘れたかのどちらか、またはその両方であろうことがフェイスには容易に想像できた。夕食の準備がほぼ整ったカウンターテーブルの前でキースから聞いた話を要約すると、さる国の大使の娘が、数日に渡りニューミリオンに滞在予定である。その間の護衛を、警察ではなく【HELIOS】の『ヒーロー』に頼みたい――それも、ベテランであるメジャーヒーローではなく、入所したばかりのルーキー、フェイス・ビームスを名指しで希望している――らしい。
    「何それ……。どう考えても、荷が重いってレベルの話じゃないでしょ」
    「お前はこれくらいじゃ怒らねえだろうからあえて言うけどな、オレだってそう返したっつーの……そしたらブラッドが……何て言ったか、当ててみろ」
     キースに差し向けられたパスタトングの先端を睨む。あの兄の言いそうなこと。癪ではあるが、一言一句違わずに述べられる自信があった。フェイスは長く大きく息を吐き出してから、なるべく気のない声を作った。
    「……何のための研修チームだと思っている。勿論、監督責任者はメジャーヒーローであるお前だ」
    「多分怒るだろうから、あえて言っとくわ。ほんとすげぇな、兄弟ってのは」
    「あのさあ……」
     抗議のために発せられたフェイスの第一声は、帰宅したチームメイトたちによって遮られた。キースはとりあえずメシにしようぜとパスタトングを正しい持ち方に切り替えて、茹でたてのタリアテッレをフライパンの上のソースと絡め始めた。

     夕食の間にキースが繰り返し、フェイスが補足した話を聞いたディノとジュニアは、兄弟かと思うほどそっくりに口を開けたままの顔で固まってしまった。二人して立派な塔だとか、門だとか小島だとか、観光名所の数々を思い浮かべているに違いないとフェイスは予想し、キースは軽い咳払いで二人を脳内旅行から引き戻した。
    「いや、それ……大丈夫なのかよ? まさか四人で付きっきり、ってわけにもいかねーだろ?」
     ジュニアが口に運びそびれたフォークの先端で、平たい麺の先がだらりと垂れ下がる。彼の質問は、フェイスが抱えた懸念をさらに具体的に言い表したものだった。
    「付きっきり……になるんじゃねぇか? 幸いっつうか、今回はただの観光で式典だの何だのに出席するわけでもないらしいが……にしても、通常業務をこなしながらは無理だろ」
    「ねぇ、何かもう引き受ける方向で話してない? 俺、やるなんて言ってないんだけど」
     結果は分かっていたが、フェイスは一応口を挟んだ。父と兄が絡んでいることを聞かされ、所属している組織に正式な形で持ち込まれた上で、自分が「ノー」と言える案件はゼロに等しい。とはいえこの一件は、自分にとってもチームにとっても責任が重すぎる。フェイスの反論に、口を開いたのはディノだった。
    「フェイスが指名されたのは、大使の娘さんがファンだから……かな? だとしても、はいそうですかじゃあボディガードにどうぞ、なんて、さすがに無茶な話じゃないか?」
     箱入り娘の思い付きだけを聞いて、いい大人が揃いも揃って首を縦に振るはずがない。その上でここまで話が下りてきたということは、やはり。
    「あー……まあ、断り切れねえ理由があったんだろうな。大人の事情ってヤツか」
    「だよなあ……司令部のバックアップがあるなら、やってやれないことはないと思うけど」
     心配だな、というディノの視線を、フェイスはどきりとして受け流してしまった。大抵の場合において味方についてくれるメンターの、自分の身、そして未来を案ずる目。『ヒーロー』として先を行きながらも手を差し伸べてくれる彼の姿に、ただ尊敬の念を抱くだけなら良かったが、フェイスはすでにディノに対してそれ以上の想いを隠し持っていた。正しく恋慕と呼べるその感情を、いまだ誰にも打ち明けたことはない。きっといつか泡沫のように消えていくものだと、これまでの経験上、嫌というほど理解しているからだ。
    「まあ……面倒だけど、それ以上に面倒なことにならないように努力はするよ」
     ふいと顔を逸らした先に、ジュニアとキースの神妙な顔があった。
     仲間たちと一緒であれば、そして、認めたくはないがあの兄が受けた仕事ならば、そう酷いことにはならないだろう。決意を固めたところで、フェイスはようやくキースお手製のパスタに向き合った。まだ少し湯気が立っている。意識してトマトソースの香りを嗅げば、思い出したかのように空腹感が顔を覗かせた。ディノによって追加されたピザ、ジュニアの大きな声。四人が談笑するリビングルームは、普段通り、平和そのものだった。


     平和とは、どれほど望んだところで長くは続かないものだ。多少感傷的になりながらも、フェイスはとりあえず状況を把握することに意識を集中させた。昨夜まで何事もなく平穏だった自分たちの生活圏、その中央のソファに、女王様然と腰掛ける少女の姿があった。がっしりした体格の男が計四名、二人ずつ少女の両脇を固めている。スーツの上から見ただけでもわかる。その鍛え方は、『ヒーロー』に引けを取らないだろう。
     パトロール中、司令部から緊急で呼び戻されてみればこの有様だ。大人一人くらいは余裕で入り込めそうな巨大なスーツケースが、十に足りないほどの数、リビングの空きスペース――ではなく、元々あったものを壁に寄せて無理矢理空けたスペースに並べられていた。ソファの周りには各々困り顔の【HELIOS】職員が数名。その内の一人が早口でスーツの男たちと会話している。フェイスと同じく隣で呆然としているディノの顔をちらりと見たが、ディノもさっぱりだというように首を横に振った。同時に、二人の背後からリビングの変わり果てた光景に驚くキースとジュニアの声がした。
    「おいおい、何だこりゃ」
    「何があったんだよ?」
    「キース、ジュニア……いや、俺たちも今戻ったばかりで、何が何だか」
     フェイスは振り返らなかった。振り返れなかったといった方が正しい。ソファに腰掛けていた少女と目が合ってしまったのだ。立ち上がり、制止する男たちを一言二言で振り解いてこちらへ歩んでくる。ゆるくウェーブのかかったブロンドの髪を揺らし、薄い青色の瞳は丸く、強い意思によって輝いているように見えた。リビングに足を踏み入れてから今まで、悪い予感しかなかったが、全ての予想が的中しそうだ。
    「こんにちは、フェイス。私はエミリー。これから一週間、よろしくね」
     エミリーはまるで絵画の中の人物のように口元に弧を描いたが、フェイスにはそれが天使のようだとは到底思えなかった。

     彼女の言い分はこうだ。
     『ヒーロー』に護衛を任せるのなら、その拠点は高級ホテルよりも安全だ、社会経験として宿泊施設以外に寝泊まりをすることも必要だ、それにしてもこの部屋は狭すぎる、一つの部屋を半分ずつとは驚きね、こんなに小さなベッドでどうやって寝返りをしているの、そういえばお腹が空いたわ。
     顔を向けていなくとも、三十秒に一度はキースがジュニアの口を塞いでいるのが雰囲気から伝わってきた。それでもジュニアはよく我慢している方だとフォローしてやりたい気持ちになる。彼女がここまで好き勝手できた経緯として、複雑極まる大人の事情を単純に説明するのであれば、誰も箱入り娘の我儘の責任を取って自分の首が飛ぶのは御免である、とのことらしい。暗に、迎賓ではなく個人的な旅行、という言い訳を盾にされているのだ。結局のところ、貧乏くじを引いたのはこの組織、このチーム、そしてこの自分、というわけだ。フェイスは疲労感から、溜息すら出なかった。
     そもそも先程からフェイスたちそれぞれにさえ睨みを効かせている、筋骨隆々の若干四名は何なんだと問いたかった。荷物持ちとしてスーツケースを運ぶうちに身体が鍛えられたとでもいうのだろうか。フェイスが現実逃避に面白くもない仮説を立てていると、この数十分で随分痩せ細ったように見える通訳担当の職員が、チーム全員に衝撃的な事実を告げた。
     フェイスに持ちかけられた護衛の話は半ば観光案内役のようなものとして、【HELIOS】への一日限りの依頼であったこと。その上、彼女の出発はもっと先であるはずだったこと。困惑しつつも、メンター二人はいち早く冷静な顔を取り戻していた。
    「……どこかで話が食い違った、ってことか?」
    「確かに、打ち合わせも連絡もなしに突然本人が現れたんじゃ驚くどころの話じゃないよな……司令とブラッドはまだ?」
    「何よ、こそこそしてると思ったら、そんなこと。私が早く来ようかなって思ったから来ただけよ。問題ある?」
     キースとディノの間から、腕組みしたエミリーが不服そうな表情で現れた。うわあと仰け反る二人に、つい先程までの威厳は感じられない。
    「それより私、早速イエローウエストの街を見て回りたいの。さあフェイス、着いてきて」
    「あー……スミマセン、俺は一応、組織でも下の立場なんで……上司の命令がないと動けないんです」
     フェイスは頭を下げたが、エミリーはフェイスの答えも態度も気に入らなかったようだ。
    「ねえ、そんなにかしこまらなくていいのよ。それに上司って誰のこと? この二人じゃないわよね。ああ、お兄さんのことかしら。もちろん調べてあるわ。ねえ、あなた」
     エミリーがスーツの男をひとり手招き、何やら耳打ちすると、男は一言呟き礼をしてリビングから出て行った。部屋にいた職員たちの内、半分ほどの人数が慌てて男の背を追うのを見守ったが、フェイスは大の大人を顎で使って満足気な少女のあまりの傍若無人ぶりに辟易し、何もかもを投げ出したいとすら思い始めていた。組織と大使、ないしは大使館の人間の間で致命的なすれ違いが起きていることは確かである。彼女の身に何も起こらず無事に帰国できたとしても、誰かしらの首は飛ぶだろう。けれどそれは絶対に、組織の人間、まして自分の兄であるはずがないという確信もあった。
    「フェイス、あなたのおすすめのお店はどこ? 私、ダイナーで食事がしたいわ」
     エミリーは携帯端末で開いたガイドをスクロールしながら、フェイスの左腕にぴたりと密着して上機嫌な声を出した。引きずられるように腰掛けた皮張りのソファの、あまり広くはない座面の上で、フェイスはぎりぎりまで身を引いた。直々の指名という話や、ファンなのではないかというディノの言葉から予想した以上に距離が近い。戸惑いはしたものの、落ち着いてみればその振る舞いは顔も名前も知らないまま話しかけられ、いつの間にやら彼女になっていた女性たちに酷似している。随分な箱入りのお嬢様とはいえ、フェイスの情報などSNSでいくらでも得られただろう。趣味や職業柄、一方的に知られていることには慣れている。普段なら事もなくかわせるはずの場面だが、大使の娘に無礼を働くわけにはいかないという常識と、ディノに見られている場で異様なスキンシップは遠慮してほしいという私情との板挟みで上手い言葉が出てこない。エミリーは楽しそうにめぼしいダイナーの位置情報やメニューを閲覧している。職員もスーツの男も何も言わないが、自分たちのリビングで居心地悪そうに立ち尽くすキースとジュニアは憐れみの表情を浮かべていた。ディノは――
    「失礼します、ほらフェイス」
     立って、という声はほとんど耳元で聞こえた。右腕を引かれ、足の裏に力が入る。膝を伸ばして立ち上がり顔を上げると、ディノがすぐそばに立っていた。フェイスの腕を掴んだままだ。
    「ディノ……?」
    「仲良くなることはもちろんラブアンドピースだと思うけど、順番が違うかなって。俺たちの方はまだ、自己紹介もしてないしさ」
     ディノは「衆目もあるので」とエミリーにも一言断ったが、当然エミリーは不貞腐れた表情を浮かべる。しかしそれ以上に、フェイスにはディノに対する違和感があった。ディノはほんの少しだけ、怒っている――ように見える。エミリーが言葉で反発しないのも、この雰囲気のせいかもしれない。フェイス自身でさえ発言するのを躊躇うような、気まずい空気がリビングのごく一部の空間に流れた。
     沈黙は、長くは続かなかった。慌ただしい物音と同時に、数人が室内に雪崩れ込んでくる。中にはフェイスの兄であるブラッドの顔もあった。というより、ブラッドが一団の代表のようだった。ブラッドはエミリーに自己紹介を済ませたあと、フェイスたちに目をくれる間もなく、すぐさまエミリーを質問責めにした。
    「何故、大使との連絡手段を絶たれているのですか?」
    「いいえ、ボディガードたちとは連絡が取れるはずよ」
    「……【HELIOS】との契約について、正式なご依頼の前に認識の齟齬があったようですが、心当たりは」
    「何の話かしら。誰が何と言おうと、私はフェイスに一週間お世話をしてもらいたいの。今ここで私個人が依頼してもかまわないわ。幾ら?」
    「…………」
     ブラッドは押し黙り、エミリーは勝ち誇った笑みを浮かべた。静寂の中に響いた「もが」という小さな声は、爆発しかけたジュニアをキースが取り押さえたものだろうか。フェイスの右隣で、ディノが少しだけ身を前に乗り出すのが分かった。
    「……わかりました」
     え、という声は、フェイスとエミリー、そしてキースに口を塞がれているジュニア以外のほぼ全員から発されたように聞こえた。フェイスは思考する兄の横顔から、薄らと覚悟はしていた。今はそれしかないだろう。
     ブラッドは淡々と、大使は多忙であること、しかし五日後には来訪すること、タワーでの滞在は来客用スペース内のみしか認められないことをエミリーに告げた。タワーの誰も状況を知らされないまま、彼女は名前と肩書きのみで『ヒーロー』の居住区まで辿り着いているのだ。フェイスは見直されたばかりのはずのタワーのセキュリティに不安を覚えつつ、最も心配しなければならないのは己の身であることを思い出した。ブラッドの独擅場は続く。職員数人に指示を出し、若干不貞腐れたままのエミリー、ボディガード、スーツケースが部屋を後にすることになった。嵐が過ぎ去ったリビングで、ブラッドはメンター二人の顔を交互に見やった。
    「キース、ディノ。俺はこの後もう一度、司令部を通じて大使と連絡を取る。結果と今後の詳細について伝えたい。今夜二十時頃、ブリーフィングルームに集まれるか」
    「了解。ブラッド……大丈夫なのか?」
     気が付けば、フェイスの身体の三分の一以上がディノの影になっていた。庇われているようだと言えなくもない立ち位置で、普段より幾分剣呑な声を出したディノに対し、ブラッドも多少驚いているのか戸惑っているのか、返答までにほんの少しの間があった。
    「……迷惑をかけてすまないが……宜しく頼む」
    「お前、オレの時は責任とか何とか言ってたくせに」
    「あの時とは状況が変わっている。……フェイス」
     不服そうなキースの言葉はぴしゃりと跳ね除けて、ブラッドがフェイスの視線を捉える。そばにいるディノの影も、フェイスの動揺した声までは隠してくれなかった。
    「な、なに」
    「彼女と二人きりにならないよう。職務中はメンターのどちらか、時間外も常にチームの誰か……もしくは同期の誰かと共に行動しろ」
     それは、少し前までの自分であれば理由もなく反発していたであろう命令だった。けれど今は、何となく理解できる。彼女との距離をこれ以上縮めて周囲からの誤解を招くことは、フェイスの身を滅ぼすことと同義だ。兄としてというよりは、組織の人間として当然のリスクマネジメントである。
    「……わかった」
    「彼女のスケジュールを確認次第、こちらも巡回予定を調整して通達する。では」
     背を向けようとしたブラッドを、ディノが呼び止める。フェイスからはもう、ブラッドの制服の、袖の端程度しか見えなかった。
    「フェイスがオフの日は俺がつくよ。そっちも調整できそうか?」
    「了解した」
     今度こそ、ブラッドたちはそれぞれ部屋を出て行った。
     ジュニアが堰を切ったように騒ぎ出し、キースが耳を塞ぐ。ほぼ隣にいたはずのディノに振り返られることを不思議に思いながら、今日はその青い瞳とはっきり見つめ合った。いつも通りの表情で、心配そうに眉を下げるディノからは、数分前の剣呑な雰囲気は感じられない。自分の勘違いだったのだろうか。
    「フェイス、大丈夫か? ごめんな、オフの日まで俺が着いていくことになるけど」
    「ううん、俺は平気だけど……ディノはいいの?」
     答えは聞かずともわかっていた。誰かが――自分が困った時に必ず手を差し伸べてくれる人。『ヒーロー』ならば当たり前の行動かもしれないが、その動機には少なからず、フェイスを大切に想う気持ちが含まれている。「もちろん」と微笑む彼への恋心が消えてしまうまでは、心の中でだけ、自惚れていたい。
     生活の拠点にしている四人だけが残ったリビングは、やけに広々と感じた。感覚的なものだけではなく実際に、エミリーが荷物を置くのに邪魔者扱いしたインテリアの数々が、傾き出した太陽の光が差し込む窓際で寂しげに沈黙している。ちぐはぐな塊が落とす歪な影を、フェイスは黙って見下ろした。

     フェイスが兄との間に自堕落なメンターを介して小耳に挟んだ話によると、大使は一人娘の【HELIOS】での奔放な振舞いは寝耳に水――言葉の通りに状況を想像し、嫌がらせにも程があるイディオムだ、とフェイスは思った――といった様子で大層恐縮しているらしく、逆にニューミリオンの市長からは「何卒よろしくお願いします」と非常に丁寧な、それはもう丁寧な圧力がかけられ、事なかれの連鎖、その終着地点が自分たちであることを、フェイスは改めて自覚するばかりであった。
     エミリーはニューミリオン観光にそれほど強い感心があるようには見えなかった。エミリーにとって重要なのはフェイスと共に行動することと、それを全世界に向けて発信することの二点であるようだったが、後者についてはあなたの堅物なお兄さんと、そのほかにも責任者と名乗る方に禁止されてしまったのよ、とエミリーは不機嫌に呟いた。緑色のシェードが日差しを跳ね除けるカフェのテラス席、マンゴーのパルフェに乱暴なしぐさでスプーンを突き刺すエミリーに対して、フェイスは無感情な相槌を打った。適当なふうに聞こえないよう最低限の注意を払う。「観光案内」、二日目の午後のことだった。
     本来であればフェイスは丸一日オフであるはずで、普段よりもゆっくりと起床し、午後はお気に入りのショコラでも買いに行こうかというところを、何故か出会ったばかりの少女の苦言を聞き流しながらパルフェをつついている。これが職務というのであれば、振替の休日はあるのだろうか。
     唯一良かった点、というよりこの状況であっても少しばかり浮かれてしまう点といえば、隣り合うフェイスとエミリーの向かいで、空気を読んだのかピザではなくフェイスたちと同じパルフェとコーヒーを注文したディノの存在だった。
    「もし騒ぎになれば、その後は街に出れませんよ」
    「まあ、そうね。あなたには聞いてないけど」
     当然、エミリーはディノが引率責任者であることを快く思っていない。エミリーの素っ気無い対応にもディノは顔色ひとつ変えずにいたが、フェイスはそんな二人のやりとりを見るたび、胃袋の上のあたりがむかむかと落ち着かない気分になった。ディノの休日を奪った上、不必要に嫌な思いまでさせるくらいなら、一人きりでエミリーに付き合った方がましだった。視線がかち合うと、ディノはフェイスの考えていることなどお見通しだと言わんばかりに柔らかく微笑みかけてくれる。気にするなという声が聞こえてくるようだ。心に滲んでいくディノの優しさに浸る隙もなく、エミリーの腕と携帯端末がフェイスの視界を遮った。
    「思い出を残すなとは言われてないわ。どこにも公開しなければいいんでしょう? フェイス、もっと笑ってちょうだい」
     言うが早いか、軽いシャッター音が響く。意図的に笑った覚えはないので、端末のデータに残ったフェイスの表情は九割の確率で引き攣っているだろう。ディノは困ったように眉を下げていた。再び胃の辺りが締め付けられる感覚を覚えつつ、ディノからエミリーと仲が良さそうに見えていないことと、エミリーが【HELIOS】との約束を守ってくれることを祈った。
    「さて、この後は遊園地よ。その前に……ちょっと席を外すから、荷物を頼んだわ」
    「え、どこへ……」
    「野暮ね」
     着いていこうと慌てて立ち上がる男二人に、可憐な少女は冷たい視線を浴びせかけた。
     
     カフェのテーブルを離れ、レンガ調の外壁に寄りかかる。テラス席は店舗の裏手に近かった。ここであれば他の客の迷惑にならずにエミリーと落ち合える。そもそもが隠れ家的な佇まいの店で、路地の人通りもまばらだった。今のところは危険人物や予想外の出来事以外に気を張る必要はないが、このあとの遊園地では話が変わってくる。フェイスを知る人間、具体的にはファンの女性が多数存在する可能性が高い。いくらディノが一緒と言っても、彼女たちの思考回路はフェイスにとって未知数であり、その上、エミリーと違って一般人はSNSの利用を制限されていない。
    「……気が重すぎて、一歩も動けないかも」
     思わず愚痴を溢してしまってから、フェイスと共にオフを返上しているディノに対して聞かせる言葉ではなかったと後悔した。しかしディノは予想以上に深刻な顔で、外壁に頭と肩を預けるフェイスと向き合った。
    「俺は、嫌なことは嫌だって、言っていいと思うよ」
    「……ディノ……?」
    「あの子がくっついたり、写真を撮ったりするのも、任務自体も……フェイスの意見を聞いてないのに、皆勝手に」
    「ディノ」
     ほんの少しだけ声を張る。発言を遮られたディノははっとして、フェイスの足元に視線を落とした。
    「……ごめん」
     ばつの悪そうな顔で弱々しく謝罪するディノに、フェイスは先日から薄々感じていたことを尋ねる。
    「ディノは、あの子のこと……あんまり良く思ってない?」
     それは彼女と初めて出会ったリビングでの出来事や、先ほど遮った自分との会話までを含めてのフェイスの想像だが、普段のディノからは思いもよらない反応の数々は、確かな違和感としてフェイスの中に蓄積されている。いつもの彼ならば、エミリーのように奔放で周囲を振り回しがちな相手であっても、多少困りこそすれ感情的になることはない。いつだって気さくに、初対面の市民とも和気藹々と語り合えるディノが、エミリーとフェイスの会話には積極的に介入せず、おすすめのピザ屋のひとつも紹介しない。お目付役として遠慮をしているようにも見えない。考えられる理由として、出来る限り柔らかい表現を選んだつもりだった。それでも、ディノはますます申し訳なさそうに眉を寄せた。
    「そういうわけじゃない、けど……今回のことは、フェイスだけが我慢したり、頑張らないといけない任務じゃないと思う。なんなら俺が、もう一度ブラッドに」
    「心配してくれるのは嬉しいけど」
     返す声は、意図せず大きくなる。確かに彼女の護衛という名の執事役には気が乗り切らないが、フェイスが任務を途中放棄、あるいは遂行失敗した際の兄の反応や、それ以上に父親に及ぼす影響を考えればどうということはない。
    「ああいう子の対処なら慣れてるから。そばで見てて気分がいいものじゃないかもしれないけど、あの子も……本気じゃないと思うし」
     好意と見紛う彼女の行動も言動も、フェイスが散々目にしてきた女性からのアプローチと綺麗に重なる。彼女たちが欲しいのはフェイスという付属品を身に付けた自分への賛美で、フェイス自身、それを咎めて面倒なトラブルに発展させるよりも、できるだけ波風を立てないように過ごすことを選んできた。こちらがどれだけ想いを重ねても、望む形で返ってはこない。恋心は、いつか泡沫のように消えていくものだ。
     だからこそ今この瞬間、フェイスのことを真剣に考えてくれている目の前の相手を、これ以上想いたくはなかった。期待はそのぶんだけの大きさの傷になることを、嫌というほど知っている。
    「だから……あんまり気にしないで、ディノ」
     いつも通りに微笑んでみせる。優しいメンターは、フェイスがそう言うならと理解を示してくれるはずだった。今日いまこの瞬間までも、そしてここから先も、ずっとそうだと思っていた。
     カフェの外壁に右の手のひらを押し付けたディノが、フェイスに影を落とす。フェイスの左耳には、ディノの袖の布地の感触があった。
    「……俺は、本気だよ」
    「え……」
    「俺の言い方が間違ってたんだ。俺がフェイスを心配してるのは確かだけど、それ以上に……あの子が、フェイスを大切にしていないことが悲しい」
     ディノが項垂れ、縮まった距離が余計に狭まった。状況を冷静に把握することが得意だと褒めてくれた相手を前にして、フェイスには何が起きているのかが全くわからない。いつも凪いだ湖のようだと思っていたディノの青い瞳が、今はフェイスを捉えたまま沸々と煮えたぎっている。外壁に背中を縫い付けられてしまったかのように、少しも身動きできなかった。
    「好きだ。フェイスが好きだよ」
    「…………」
     カフェの入口脇に植えられた背の低い木が、風に葉を揺らす音を聞いた。
     その直前に耳に入った言葉を、信じられない思いで反芻する。好きだと言われた、誰に、ディノに。何故、という疑問と、受け止めきれない高揚感に目眩がした。ここで自分も同じ気持ちだと言えたならどんなに良かっただろう。慌ただしいフェイスの頭の中を、しかしある現実が駆け巡る。無反応のフェイスに、落ち着きを取り戻したディノは右手を下ろして申し訳なさそうに呟いた。
    「……ごめんな、混乱させて」
    「いや、そうじゃなくて……あの子、ちょっと遅いんじゃ」
     フェイスが言いかけた途端に、携帯端末から電子音が響く。エミリーに唯一教えていた、緊急用の回線だった。
    「……はい」
    『フェイスね? 私、誘拐されたから。カジノ裏の廃ビルはわかる? そこまで迎えに来て。一人でよ』
    「…………」
     混乱に混乱をぶつけられた頭を必死で回転させる。護衛任務中に、好きな人に好きだと言われ、護衛対象からは誘拐されたとコールがかかっている。身代金や犯人像について問う前に、自作自演というフレーズが脳裏を過ぎった。溜息は飲み込んで、すぐに行くので危険なことはしないよう釘を刺し、通話を切った。
    「ディノ……ごめん、俺、一人で行かないと」
    「な……そんなの駄目だよ、俺も」
    「あの子、誘拐されたって言ってるんだ」
     本当かどうかはわからないけど、と付け足しつつも、フェイスはディノの目を真っ直ぐ見ることができなかった。心臓がどくどくとその存在を主張している。その心を確かめる前に、好きでいてもらえる自分であるために、今はやるべきことがある。
    「先に行ってるから……応援、呼んでおいてくれる?」
    「…………わかった」
     頷くディノの表情は、フェイスがよく知っているメンターのものだった。

     廃ビルとはいっても、建物は比較的新しい。緊急時における『ヒーロー』活動であれば、不法侵入などの罪には問われないが、場合によっては賠償責任が生じるケースもある。フェイスは慎重に、半分開いているシャッターを潜った。
     ヒーロースーツに着替えたのは五分ほど前、念のため司令部への連絡を済ませた後だった。ディノから兄に相談してもらうとしたら、二人の振替休日についてだろう。
     コンクリートの柱だけを残した薄暗いフロアは、元は洋服店であったようだ。置き去りになったハンガーラックやカートが乱雑に放置され、階段とエレベーターはビニールテープで封鎖されている。店の奥、レジカウンターの前に、いくつかの人影が見えた。
    「うーわ、本当に来たよ」
    「正義のヒーロー参上、ってな」
     倫理道徳やルールを守ってはきませんでした、と全身で主張している不良グループを、フェイスは関心なく観察した。嘲笑の中心にはエミリーがいる。拘束されているようには見えない。
    「さあ始めるわよ。ねえ、あなた」
     ボディガードを呼ぶ時のような仕草で、エミリーは四、五人の不良グループの中の、一番体格の貧相な少年を手招きした。少年は携帯端末を取り出し、横向きに翳した。
    「フェイスも、ぼうっとしてないで私を助けるのよ」
    「はあ……」
     話が見えてくるようで見えてこない。不良たちはエミリーに危害を加えようとするどころか、パーカーのポケットに手を入れてにやにやとフェイスを見つめるばかりだ。誘拐犯であるならば、彼女を好きにさせておくわけがない。自作自演の線は疑っていたが、犯人役を用意していることも、犯人役が役に徹していない状況も予想外である。
    「ねえ、結局何がしたいの?」
    「見てわからない? あなたが暴漢から私を助けてくれる瞬間を、インターネットにばらまくのよ」
    「襲われてるようには見えないんだけど」
    「まあまあ、『ヒーロー』の兄ちゃんよ」
     エミリーの隣で様子を見ていた、オレンジ色のニット帽を被った男が一歩前に出る。
    「それこそ、見てわからない? だ。俺たちは雇われ。かなりリスキーだが、そこの嬢ちゃんが今後のことまでキッチリ保証してくれてな……捕まらないよう、俺たちを国に連れ帰るんだと」
     不良グループが一斉に笑い声を上げる。エミリーは何が面白いのかと不思議そうにしつつも、端末を持つ小柄な少年に熱心な撮影指導を行っていた。これ以上は付き合いきれない。暴漢役というのなら、フェイスがある程度の「対処」をしたとしても、後々厄介なことにはならないだろう。ヘッドホンを耳の上から押さえ、右手を不良グループに差し向ける。瞬間の、発砲音。
    「きゃ……っ?」
    「――とはいえなあ、お嬢様の端金よりも価値あるモンは目に見えてる。お前もそう思うだろ、『ヒーロー』。余計なことはするな。手を挙げろ」
     オレンジ帽の男は、羽交い締めにしたエミリーのこめかみに銃を突きつけていた。フェイスは何も言わず、目の前に差し出しかけた右手、そして左手を頭の上に挙げた。
    「馬鹿娘のパパにたんまり請求できるんだ、こんなチャンスまたとねえよ」
    「な……話が違うじゃない、やめ……」
    「動かないで」
     暴れ出そうとするエミリーを制止する。フェイスの中で、全てが繋がった。本物の誘拐犯どころか、この世のあらゆる犯罪を網羅していそうな醜悪さたっぷりの表情を見れば、都合良く使われていたのはエミリーの方だと嫌でも理解できる。あるいはこの不可解な旅行プランごと、陰謀の中だったのかもしれない。
    「何で……何でよ、お金なら払ったでしょ」
    「バーカ、割に合わねえに決まってんだろ。お前の国がどれだけ悪い奴にとって安全かは知らねえけどな」
     オレンジ帽が銃口の向く先を変えた。エミリーのこめかみからフェイスの額へ。
    「や……やめて!」
    「……ねえ、悪い奴と手を組むって、こういうことだよ。いくらお父さんの気を引きたくても、方法が間違ってる」
     フェイスの声に、周囲が静まり返る。
    「それでも、ここに呼んだのが、君のお父さんじゃなくて……俺で良かった」
     おいうるせえぞ黙れ、というオレンジ帽の声は無視した。フェイスの目はエミリーからの問いかけの視線を捉え、耳は、百パーセントの自信に繋がる音を拾っていた。挙げていた手をゆっくりと下ろす。
    「……俺は、『ヒーロー』だから」
    「よく言ったな、フェイス」
     声の後の、閃光と轟音。武器を持っていても、所詮は一般人だ。訓練を受けたプロに一斉に突撃されてどうにかできる人材なら、少女を騙す輩にはなっていない。チームメイトの連携によって、服が破けたり髪が黒焦げになったままなす術なく空中を浮遊する男たちをフェイスが眺めるまでに、五分とかからなかった。
     シャッターが凹んで閉まらなくなっている入口の前に、ヒーロースーツ姿のディノが立っていた。司令部との通信を終えて駆け寄ってくる。フェイスの形を確かめるように肩に手を置き、長く息を吐いた。
    「……怪我、ないよな?」
    「うん、ありがと」
     銃を持っているとは思わなかったと、ディノは自らを責めるような口調で溢した。
    「危険なことを想定してなかったわけじゃないし、俺を信じて送り出してくれたことも、ちゃんと分かってるよ」
    「フェイス……」
     足元から、啜り泣く声が聴こえる。最近はこんなことばかりだなと思いながらも、へたり込むエミリーに視線を向けたが、行動はディノの方が早かった。エミリーと目を合わせたディノは、真剣な声で言った。
    「フェイスは君の護衛を完璧にこなしたけど……俺たちが守りたいのは、君が生きているこの世界そのものでもある。だから……お父さんじゃない人との関わりも、大切にして」
     小さな肩が、ごめんなさいと何度も呟く。暫くして到着した、【HELIOS】ではない組織の人間が彼女をどこかへ連れて行って、フェイスたちが直接エミリーの姿を見たのは、この時が最後になった。
     
     数日後、【HELIOS】には大使からの謝罪とともに、画像データが消去されたエミリーの携帯端末と手紙が渡された。彼女は現在、然るべき機関で聴取を受けているそうだ。犯人役、もとい犯人たちのメディア報道はなく、事なかれの連鎖の終着点たちは、休養という名目の振替休日で手を打たされることになった。
    「まあ、終わり良ければ、って言うしね」
     とっておきのトリュフを口に運ぶ。リビングは補助ロボットによってインテリアが整理され、すっかり元の光景に戻っていた。フェイスの言葉にうんうんと頷くディノは、通信販売で買ったらしい観光地のガイド本を読んでいる。二人きりの昼下がり、何気なさを装ってはいるが、会話は途切れがちだった。理由ははっきりしている。
     フェイスはまだ、ディノからの告白に返事をしていなかった。誘拐偽装事件、その後始末も込みで、タイミングの悪さが続いた結果だ。今日は絶好の機会ではあるものの、態度も雰囲気もそれほど普段と変わらないディノに対する良い切り出し方が分からずに、フェイスは小一時間ほど茶――今日はコーヒーだが――を濁していた。
     こうなると、好きだと言われたことすら何かの間違いであった気がしてくる。いつから、や、どうして、が頭を巡って、全く気が付かなかった自分自身を不思議に思う。片想いをしていたのはフェイスも同じなのだから、お互いに不要な一線を守り続けていたのかもしれない。少し可笑しくなってしまって、つい口元が緩んだ。
    「美味しい?」
    「ん……うん」
     フェイスの表情の理由を勘違いしたらしいディノは、いつの間にかガイド本を膝に置き、ソファに横並びに座っているフェイスの顔を見つめていた。それがメンターとしての視線ではないことくらい、今のフェイスには当然理解できる。
    「……あの時のこと、本当にごめんな。落ち着いたら謝ろうって思ってたんだけど……俺の言葉は忘れていいから、できればこれまで通り――」
     いつもより低く、心地良く響く声。何よりもフェイスを大切に想ってくれている声だ。
    「忘れられないよ」
     身体が火照るのを感じる。テーブルに置かれたショコラが溶けてしまいそうだった。熱っぽさはディノから移されたもので、その視線や声に混じるらしくない荒々しさが、フェイスにどうしようもない事実を確認させた。
     この人は、恋をしている。同じくらいか、それ以上に、自分は想われている。
    「……好きって言ってくれたこと、嬉しかった。ただ俺は、恋人ってどんなものなのか、ちゃんと理解してないと思う。いつかなんとなく消えて無くなっちゃう関係なんだって思ってた。でも……ディノとは、そうなりたくない」
     ディノはフェイスの言葉の先を急かさず、一音一音確かめるように聞いてくれていた。ただ真っ直ぐに見つめられているだけで、わけもなく泣きたくなる。大好きで仕方なくて、とても苦しいことを、どうかわかってほしい。
    「俺も、ディノが好き……誰よりも、今までで一番」
    「……ありがとう、フェイス」
     抱き寄せられるというよりは、柔らかく包み込まれるように腕を回された。ディノの匂いがする。緊張と安堵が心地良く交わりあって、フェイスは滲みそうになる涙を堪えた。
    「ちゃんと伝わってるよ。俺も……ずっとフェイスの隣にいられるように、頑張るから」
     耳元の声に応えるように頷き、抱きしめ返したディノの背中に両の手を広げる。フェイスが考えていた「いつか」は、もうきっとやってこない。溢れ出した恋が、知らなかった愛に変わっていく。
     それはいつまでも、フェイスが守っていきたいと願う、世界のかたちそのものだった。
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    Replies from the creator

    pie_no_m

    DONEフェイスのバースデーのお話
    ※エリチャン・コメントバレを含みます。
    たとえば明日のホットショコラが、未来永劫の愛になるように「あー、だから、もう好きにしろって」
     頭痛が治まらないというような、何とも嫌そうな顔で、キースは投げやりな台詞を吐いた。ディノはそんな同僚に憤慨して、必要事項を入力中であったオンラインショップの受付画面から目を離す。
    「そんな適当なこと言うなよ、フェイスの誕生日なんだぞ」
    「それを考えた上での、オレたちの金色はねえわって意見に耳を貸さなかったのはお前だろ」
     キースの指摘に、ソファの後ろ、カウンター側に背を向けて丸椅子に座っているジュニアが「そうだ、そうだ」と加勢してきた。
     ウエストセクター研修チームの午後のミーティングは、ルーキーを一人欠いた状態で開かれている。議題はフェイスの誕生日について。サプライズの企画に、対象者を参加させるわけにはいかない。密会とも言えるそれはフェイスの留守を狙ってのことなので、三人の時間はそう長く取れない。迅速かつ円滑に進めたいところではあるが、構図は一対一対一になりつつあった。金箔でコーティングされたフェイスの等身大チョコレートに賛成派のディノ、もう好きにしろ派のキース、いやなんで金色にする必要があるんだよ派のジュニアだ。
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