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    raixxx_3am

    @raixxx_3am

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    raixxx_3am

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    ひよちゃんは幼少期のコミュニケーションが足りていないことと「察する」能力の高さから本音を押し殺すのが常になってしまったんだろうし、郁弥くんとは真逆のタイプな貴澄くんに心地よさを感じる反面、甘えすぎていないか不安になるんじゃないかな、ふたりには沢山お話をしてお互いの気持ちを確かめ合って欲しいな、と思うあまりに話ばっかしてんな僕の小説。
    (2024/05/12)

    #きすひよ

    君のこと なんて曇りのひとつもない、おだやかな優しい顔で笑う人なんだろう。たぶんそれが、はじめて彼の存在を胸に焼き付けられたその瞬間からいままで、変わらずにあり続ける想いだった。


    「あのね、鴫野くん。聞きたいことがあるんだけど……すこしだけ」
    「ん、なあに?」
     二人掛けのごくこじんまりとしたソファのもう片側――いつしか定位置となった場所に腰を下ろした相手からは、ぱちぱち、とゆっくりのまばたきをこぼしながら、まばゆい光を放つような、あたたかなまなざしがまっすぐにこちらへと注がれる。
     些か慎重すぎたろうか――いや、大切なことを話すのには、最低限の礼儀作法は欠かせないことなはずだし。そっと胸に手を当て、ささやかな決意を込めるかのように僕は話を切り出す。
    「……前から気になってたんだけどね。鴫野くんはさ、いつでもすごく穏やかに笑いかけてくれるでしょ。何かに怒ったり苛立ったりすることなんてすこしもなくって――いつもそうやって、すごく落ち着いた気持ちでいさせてくれるのが本当にうれしくって、でも」
     ほんとうなら口にするべきじゃなかったのかもしれない、こんなこと。それでも――慎重に言葉を選ぼうと思った矢先、案の定、とでも言わんばかりに言葉に詰まらせるこちらへと、すっかりお馴染みになってしまった優しい言葉がはらりと覆い被さる。
    「ああ……もしかしてだけど。気にしてくれてたの? 前に話したこと」
     蝶の羽ばたきにもよく似た軽やかで優しいまばたきに促されるかのように、やわらかな口ぶりでの言葉が続く。
    「ほら、僕ってキツネ目でしょ? 普通にしてるだけでも睨んでるみたいに見えちゃうから良くないよなあっていうのは小さい頃から意識しててさ――だからって無理して笑ってるとか、そういうつもりは全然ないんだけど。ごめんね、もしかしてだけど、不自然に見えたりしてた? ありがとう、教えてくれて」
     言葉につれるようにと、きゅっと吊り上がった切れ長の大きな瞳の奥に宿る光はほんのわずかな翳りを帯びる。
     いつもこうだ。こちらの思惑なんて悠々と飛び越えるほどに鴫野くんは優しくって、どんな些細な言葉や態度にも、いつだって曇りなんてひとつもなくって。
     たちまちに身勝手なもどかしさに襲われていくのを感じながら、なにかを振り切るような心地できっぱりと首を横に振り、僕は答える。
    「そんなことないよ、全然。その」
     ごめんね――じゃない、こんな時には。浅く息をのみ、精一杯の穏やかな笑顔を浮かべるようにしながら、続く言葉を口にする。
    「ありがとう……ほんとうに」
     どうしてだろう、こんなにもありきたりな言葉なのに、ひとたび口にするだけでこんなに心を満たしてくれるのは。
     ひたひたと押し寄せるような心の内をじいっと見つめながら、ぽつりと噛みしめるようにつぶやく。
    「鴫野くんはさ――最初からずうっと、目が合えばたちまちに、すごくうれしそうに笑いかけてくれてたでしょ。一緒にいる時間が増えてからもずっとそうで、怒ったり不機嫌になったりするような時なんてすこしもなくって、すごくうれしくって――でも。こんなふうに言うのも失礼なのかもしれないけど……鴫野くんがね、もしも僕のことを気遣って我慢してくれてたんだとしたらよくないなっていうことを思って」
     堰を切ってあふれ出すような言葉を口にした途端、みるみるうちに胸の支えが軽くなるような心地を味わう。
     ひどく身勝手なことを口にしているのは百も承知だ、それでも――必要不可欠なことだと思えたから、これからも共に居続けるためには。
     振り絞るような心地で言葉を終えれば、いつもに増しての穏やかなぬくもりで満ち足りたまなざしがまじまじとこちらを捉えてくれていることに気づく。
    「ごめんね、ほんとうに。疑ってるとか、そういうわけじゃないんだけれど」
     もどかしく言葉を詰まらせていれば、やわらかに色づいた花のような優しい笑顔にくるまれる。
    「いいよ、そんなの。気にしないで。要はさ、遠野くんは僕のことを心配してくれたんだよね? すごくうれしいよ、話してくれて」
    「あぁ、」
     いびつに震えた指先を握り込むようにするこちらを前に、おだやかに降り注ぐ光にも似た、優しい言葉が続く。
    「まぁさ――わからなくもないんだけど、そういうのも。昔からよく言われるんだよね、宗介あたりには特に。『おまえっていつ見てもへらへらしてるよな』って。凜になんて『おまえと宗介で足して二で割ったらちょうど良いのにな』って言われたくらいでさ。宗介はすごく嫌がってたけどね、そりゃそうだよね?」
     いとおしげに瞼を細めながら軽やかに告げられる言葉は、ふつふつとこみ上げるようなあたたかな色で染め上げられている。
    「でも仕方なくない? そんなの。大事な相手と一緒にいられるんだって思うと、自然とうれしくなっちゃうものでしょ? 遠野くんと一緒にいられてうれしい、遠野くんが喜んでくれるとうれしい、遠野くんの気持ちを聞かせてもらえるとうれしい――ずうっとそんな風にばっかり思ってたらさ、不機嫌になってる暇なんてすこしもなくない?」
     うんと得意げな口ぶりで告げられる言葉に、〝らしい〟としか言うようのない感慨がしずかにこぼれ落ちる。
    「遠野くんとはさ、一緒に居るとすごく安心できるんだよね。遠野くんはいつでも思慮深くてすごく優しくて、遠野くんが僕にくれる言葉はただの都合のいい言葉なんかじゃすこしもなくって、遠野くんの視点で見つけてくれた優しい気持ちがいつだって感じられて」
    「あぁ……、うん」
     そんなこと、と遮ってしまいそうになるのを咄嗟に抑える。彼が見つけてくれたものが〝そう〟だと言ってくれるのなら、素直にその気持ちを信じればいいのだということを、もうとっくに知っているから。
    「でもね、一番好きなのは、こうやって不安なことがあったらちゃんと話してくれること。だからさ、遠野くんには不満なんてすこしもないよ」
     いまにもこぼれおちそうなやわらかな光を携えるようにしながら、優しい言葉がそっと手渡される。
    「あのね、遠野くん。……せっかくだからさ、僕が遠野くんにお願いしたいこと、話してもいい?」
    「あぁ――、うん」
     まっすぐに注がれるまなざしに魅入られるままに、ぽつりと一言だけそう答えれば、おだやかな思いやりだけを閉じこめたかのような返答がそこへ続く。
    「遠野くんが僕と一緒にいて楽しいな、安心できるなって思ってもらいたい。いまみたいに不安なことや心配なことがあった時には聞かせてもらえるとうれしい。遠野くんのことすこしも不安にさせないなんて無理かもしれないけど、そういうのも含めて全部、大切な時間だって思ってもらえるように努力したい。それとね、あとひとつだけ」
     人差し指をすっと突き立てながらと、どこか得意げな口ぶりでの言葉が届けられる。
    「遠野くんははずかしがり屋さんだと思うから……一〇回に一回とかでいいから、遠野くんが僕のこと好きだなって思ってもらえる時があれば、教えてもらえたらすごくうれしい」
     すっかりお馴染みのふわり、と口角のあがった優しい笑顔には、うっすらと火照りを帯びたかすかな朱色が滲んでいる。
    「……鴫野くん」
     ああもう、どうすればいいんだろう。観念した、としか言えないような心地になりながら、噛みしめるように、ぽつりとゆるやかに僕は答える。
    「鴫野くんの好きなところならいくらだってあるし、いまだってすごく思ってるよ。なによりもいちばんなのは、そうやってまっすぐに僕に向き合ってくれること。言葉や態度にすこしも嘘がないところ。一緒にいるだけですごくおだやかな気持ちでいさせてくれて、鴫野くんといる時の自分が好きだなって思わせてくれるところ」
     誰かに認めてもらえなければ自分の価値を計れないだなんて、ひどく子どもじみて馬鹿げているだなんてことくらいはわかっているつもりだけれど、それでも――こうして側に居てくれる大切な人を通してしか見つけられない〝自分〟が居ることを教えてくれたのは、彼にほかならないから。
    「……遠野くん、」
     もどかしげに震える指先が、しばしばそうするように、スエットの袖を遠慮がちにそっと掴む。すこし子どもじみたその仕草やもの言いたげに震える唇、透明なゼリーの膜を張ったみたいにあまく潤んだまなざし――そのすべてを穏やかにつたうように、息苦しいほどのいとおしさが押し寄せてくるのをひたひたと感じる。
    「ありがとう、教えてくれて。これからも努力するね、遠野くんに信じてもらえるように」
     じっと見つめ合ったまま、確かめ合うように頷き合えば、胸の奥にくすぶったわだかまりはみるみるうちに音も立てずに溶けて、あたたかな想いだけで埋め尽くされていく。
    「……僕もだよ、そんなの」
    「うん」
     たどるような心地でどちらともなく指と指とを絡め合う。指先を伝い合う熱は、染み渡るような安堵を静かにもたらす。

     ふたりだからこそ分かち合える想いがまたひとつ、おだやかに花開く。


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    raixxx_3am

    DONEブックサンタ企画で書いたお話、恋愛未満。
    日和くんにとっての愛情や好意は相手に「都合のいい役割」をこなすことで得られる成果報酬のようなものとして捉えていたからこそ、貴澄くんが「当たり前のもの」として差し出してくれる好意に戸惑いながらも少しずつ心を開いていけるようになったんじゃないかと思っています。
    (2024.12.22)
     幼い頃からずっと、クリスマスの訪れを手放しで喜ぶことが出来ないままだった。
     片付けるのが面倒だから、と申し訳程度に出された卓上サイズのクリマスツリーは高学年に上がる頃には出番すら無くなっていたし、サンタさんからのプレゼントは如何にも大人が選んだお行儀の良さそうな本、と相場が決まっていて、〝本当に欲しいもの〟を貰えたことは一度もなかった。
     ただでさえ慌ただしい年末の貴重な時間を割いてまで、他の子どもたちと同じように、一年に一度の特別な日を演出してくれたことへの感謝が少しもないわけではない。
     仕事帰りにデパートで買ってきてくれたとってきのご馳走、お砂糖細工のサンタさんが乗ったぴかぴかのクリスマスケーキ、「いい子にして早く寝ないとサンタさんが来てくれないわよ」だなんてお決まりの文句とともに追いやられた子供部屋でベットサイドの明かりを頼りに読んだ本――ふわふわのベッドにはふかふかのあたたかな毛布、寂しい時にはいつだって寄り添ってくれた大きなしろくまのぬいぐるみ、本棚の中には、部屋の中に居ながら世界中のあちこちへの旅に連れ出してくれる沢山の本たち――申し分なんてないほど何もかもに恵まれたこの暮らしこそが何よりものかけがえのない〝贈り物〟で、愛情の証だなんてもので、それらを疑うつもりはすこしもなくて、それでも――ほんとうに欲しいものはいつだってお金でなんて買えないもので、けれども、それらをありのままに口にするのはいつでも躊躇われるばかりだった。
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    raixxx_3am

    DOODLEきすひよ。いちゃいちゃしてほしかっただけ。相変わらず受けと攻めが不確定。欲望を明け渡しあうことよりも緩やかで優しいスキンシップでお互いを満たしあうことを大切にしているうちにゆっくりその先に進むこともあるんじゃないのかな、ふたりにはそんな関係でいてほしいなという気持ちで生産工場は稼働しています。
    (2024/07/19)
    butterfly kiss「あのね、遠野くん。ちょっとだけ聞いておきたくて」
     ふぅ、とひどく慎重に息を吐き、プレゼントの包みをそうっとほどくようなたおやかさで言葉が続く。
    「遠野くんはさ、僕にしてほしいことってあったりする? その、そういう時に」
     行儀良く膝の上に置いた指をもどかしげに絡ませるようにしながらぽつり、と吐き出されるおだやかな言葉に、息苦しいほどのあまやかな気配が立ちのぼる。こちらをまっすぐに見据えるかのようなまなざしはいつも通りにひどく穏やかで温かいのに、その奥には確かな〝予感〟を帯びた色が隠されているのがありありと伝わるから、いびつに揺らいだ心は音も立てずにぐらりと心地よく軋む。
    「あぁ……えっと、その」
     答えに窮したまま、手元のクッションをぎゅっと掴めば、気遣うようなやさしいまなざしがこちらへと注がれる。
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    raixxx_3am

    DOODLEひよちゃんは幼少期のコミュニケーションが足りていないことと「察する」能力の高さから本音を押し殺すのが常になってしまったんだろうし、郁弥くんとは真逆のタイプな貴澄くんに心地よさを感じる反面、甘えすぎていないか不安になるんじゃないかな、ふたりには沢山お話をしてお互いの気持ちを確かめ合って欲しいな、と思うあまりに話ばっかしてんな僕の小説。
    (2024/05/12)
    君のこと なんて曇りのひとつもない、おだやかな優しい顔で笑う人なんだろう。たぶんそれが、はじめて彼の存在を胸に焼き付けられたその瞬間からいままで、変わらずにあり続ける想いだった。


    「あのね、鴫野くん。聞きたいことがあるんだけど……すこしだけ」
    「ん、なあに?」
     二人掛けのごくこじんまりとしたソファのもう片側――いつしか定位置となった場所に腰を下ろした相手からは、ぱちぱち、とゆっくりのまばたきをこぼしながら、まばゆい光を放つような、あたたかなまなざしがまっすぐにこちらへと注がれる。
     些か慎重すぎたろうか――いや、大切なことを話すのには、最低限の礼儀作法は欠かせないことなはずだし。そっと胸に手を当て、ささやかな決意を込めるかのように僕は話を切り出す。
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    DONEすごくいまさらな日和くんのお誕生日ネタ。ふたりで公園に寄り道して一緒に帰るお話。恋愛未満、×ではなく+の距離感。貴澄くんのバスケ部での戦績などいろいろ捏造があります。(2023/05/05)
    帰り道の途中 不慣れでいたはずのものを、いつの間にか当たり前のように穏やかに受け止められるようになっていたことに気づく瞬間がいくつもある。
     いつだってごく自然にこちらへと飛び込んで来るまぶしいほどにまばゆく光輝くまなざしだとか、名前を呼んでくれる時の、すこし鼻にかかった穏やかでやわらかい響きをたたえた声だとか。
    「ねえ、遠野くん。もうすぐだよね、遠野くんの誕生日って」
     いつものように、くるくるとよく動くあざやかな光を宿した瞳でじいっとこちらを捉えるように見つめながら、やわらかに耳朶をくすぐるようなささやき声が落とされる。
     身長のほぼ変わらない鴫野くんとはこうして隣を歩いていても歩幅を合わせる必要がないだなんてことや、ごく自然に目の高さが合うからこそ、いつもまっすぐにあたたかなまなざしが届いて、その度にどこか照れくさいような気持ちになるだなんてことも、ふたりで過ごす時間ができてからすぐに気づいた、いままでにはなかった小さな変化のひとつだ。
    11803

    raixxx_3am

    DONEブックサンタ企画で書いたお話、恋愛未満。
    日和くんにとっての愛情や好意は相手に「都合のいい役割」をこなすことで得られる成果報酬のようなものとして捉えていたからこそ、貴澄くんが「当たり前のもの」として差し出してくれる好意に戸惑いながらも少しずつ心を開いていけるようになったんじゃないかと思っています。
    (2024.12.22)
     幼い頃からずっと、クリスマスの訪れを手放しで喜ぶことが出来ないままだった。
     片付けるのが面倒だから、と申し訳程度に出された卓上サイズのクリマスツリーは高学年に上がる頃には出番すら無くなっていたし、サンタさんからのプレゼントは如何にも大人が選んだお行儀の良さそうな本、と相場が決まっていて、〝本当に欲しいもの〟を貰えたことは一度もなかった。
     ただでさえ慌ただしい年末の貴重な時間を割いてまで、他の子どもたちと同じように、一年に一度の特別な日を演出してくれたことへの感謝が少しもないわけではない。
     仕事帰りにデパートで買ってきてくれたとってきのご馳走、お砂糖細工のサンタさんが乗ったぴかぴかのクリスマスケーキ、「いい子にして早く寝ないとサンタさんが来てくれないわよ」だなんてお決まりの文句とともに追いやられた子供部屋でベットサイドの明かりを頼りに読んだ本――ふわふわのベッドにはふかふかのあたたかな毛布、寂しい時にはいつだって寄り添ってくれた大きなしろくまのぬいぐるみ、本棚の中には、部屋の中に居ながら世界中のあちこちへの旅に連れ出してくれる沢山の本たち――申し分なんてないほど何もかもに恵まれたこの暮らしこそが何よりものかけがえのない〝贈り物〟で、愛情の証だなんてもので、それらを疑うつもりはすこしもなくて、それでも――ほんとうに欲しいものはいつだってお金でなんて買えないもので、けれども、それらをありのままに口にするのはいつでも躊躇われるばかりだった。
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    raixxx_3am

    DOODLEDF8話エンディング後の個人的な妄想というか願望。あの後は貴澄くんがみんなの元へ一緒に案内してくれたことで打ち解けられたんじゃないかなぁと。正直あんなかかわり方になってしまったら罪悪感と気まずさで相当ぎくしゃくするだろうし、そんな中で水泳とは直接かかわりあいのない貴澄くんが人懐っこい笑顔で話しかけてくれることが日和くんにとっては随分と救いになったんじゃないかなと思っています。
    ゆうがたフレンド「遠野くんってさ、郁弥と知り合ったのはいつからなの?」
     くるくるとよく動くまばゆく光り輝く瞳はじいっとこちらを捉えながら、興味深げにそう投げかけてくる。
     大丈夫、〝ほんとう〟のことを尋ねられてるわけじゃないことくらいはわかりきっているから――至極平静なふうを装いながら、お得意の愛想笑い混じりに僕は答える。
    「中学のころだよ。アメリカに居た時に、同じチームで泳ぐことになって、それで」
    「へえ、そうなんだぁ」
     途端に、対峙する相手の瞳にはぱぁっと瞬くような鮮やかで優しい光が灯される。
    「遠野くんも水泳留学してたんだね、さすがだよね」
    「いや、僕は両親の仕事の都合でアメリカに行くことになっただけで。それで――」
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