Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    aya.t

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 18

    aya.t

    ☆quiet follow

    番外編というか。
    最初はこちらでした。書き始めたはいいけれども 青木がちっとも鈴木さんに出番を譲らなくてボツにして書き直したのが先日のpixivにあげたお話です。こっちを開き直って続けたらただの甘々青薪話になりました。
    pixivの方を先に読んでいただいた方が話がわかりやすいと思います🙏

    #秘密
    secrets
    #青薪
    AoMaki
    #薪剛
    Maki Tsuyoshi
    #青木一行
    Aoki Ikkou

    虹とスニーカー 番外編「薪さん。何時でしたっけ?約束の時間。」

    「‥13時。あと30分‥」

    「なんとか間に合いそうですね。 良かった。」
    「あぁ。悪かったな。手伝わせて。 おまえがいてくれて助かったよ。」
    「いえ。でも 薪さん激務でお忙しくてお時間無いんだし、その分お稼ぎになっているんだから、楽々パックにすれば良かったのに。」
    「楽々パック?」
    「全部‥部屋ごと全部やってくれるんですよ。本人は何もしなくていいんです。ゴミ箱のゴミまでちゃんと運んでくれる。」

    薪さんがゴミ箱に目をやる。

    「‥‥それ。マズいだろ‥」

    「あ、だから、捨てて欲しい物とかは予め捨てておくなり処分って指示しておけばいいんですよ。使用済みのゴむ‥」
    バコっと後頭部に衝撃。

    「じゃ無くて!  書類とか人目に触れたらマズい物もあるし。第一 他人に自分の物を触られるのは‥!」

    いや、絶対 最初頭に浮かんだのは寝室のゴミ箱の中身でしたよね?と思いながら、他人に自分の物触られるのは苦手な薪さんが、俺と一緒に作業している事実に顔が緩む。
    ‥俺は他人じゃ無いんだ。薪さんの中で俺は 薪さんの私物を触ってもそれが気にならない存在なんだ と改めて実感できて。 思わず抱きしめた。

    「おい!時間が無いんだから! 昨夜だって‥。もっと作業進めて 今朝だってもっと寝過ごさないで早く始めていればもっと余裕があったのに! おまえは!もう!!」

    だって この部屋で過ごす最後の日。
    ここで過ごした ここで重ねた時間が、想いが、幸せな記憶が、最初はヒタヒタと 次第に大波のように押し寄せて 我慢なんて出来なかった。

    ──今日 薪さんはこの部屋に別れを告げる。  
    薪さんとこの部屋で過ごす最後の日。‥想いが募るのは仕方ないと思う。

    何とかあらかた終わって 残り30分。あとは靴箱の中だけかな。
    空の段ボールを持って玄関に向かう。
    リビングに積み上げられた段ボール。

    俺がリビングに運んで 薪さんはそれを分別していく。運ぶ物 すぐに使う物 保管する物 処分する物。
    あんまり物に執着しない薪さん。 元々荷物は多くはないけれども それでも もう着ない衣類や この際処分する物は出てきて、処分と書かれた段ボールはゴミの種類別に幾つかあった。
    このマンションは各フロアに設けられたゴミ集積場所に毎日ゴミ出しが可能だから、最後にそこへ出していけばそれでいい。
    運ぶ物は段ボールに仕舞われて梱包されて 黒いマジックで上部と側面に中身が書かれて積み上げられていく。段々に薪さんも俺も作業に慣れてきて、案外 俺達 引っ越し屋さんもいけるかも‥なんて妄想したり。

    薪さんと俺のペアの引っ越し屋さん。
    あぁ見えて薪さん力持ちだったりするから、段ボール二つ位は軽く持ち運んで。でも小さいから段ボールで薪さん隠れちゃうんだ。 
    大型トラックを運転する俺の横 助手席に薪さん。荷物を載せて薪さんと走る道。 途中でささっとラーメン屋でお昼食べたり。‥‥薪さん ラーメン屋行った事あるのかな?じろーとか食べた事あるんだろうか⁈
    つい流れでマシマシとか言っちゃって野菜部分で途方に暮れて でも意地で何とか食べて気持ち悪くなって 連れていった俺は殴られて‥。いや、意地全開でも食べられないよな。 きっと俺が食べる事になる。
    にんにくマシマシ食べちゃったトラックの中は もうすんごい事になって 暫くは顔近づけるると嫌がられて‥‥。


    薪さんちの大きな靴箱の中身。丁寧に手入れされたお高そうな薪さんの靴達 俺の置き靴も何足か と、一番上の棚にそっと置かれていた白いスニーカー。
    まとめて段ボールに入れて薪さんの元へ運ぶ。
    これを仕分けて梱包したら 引っ越し屋さんに運んでもらって ゴミ出しして掃除したら退去立ち会いをして鍵を返して‥。

    あぁ‥色んな事があったなぁ。
    薪さんの部屋に初めて入れてもらった日。
    薪さんの手料理を初めて食べた日。
    薪さんの寝室に初めて入った日。
    薪さんがソファーの上で寝落ちして 初めて安心しきった寝顔を俺に見せてくれた日。
    ベッドの上 目覚める薪さんを初めて見た日。
    俺の私物が少しずつ増えて 歯ブラシや髭剃りが置かれるようになった洗面所。
    サイズの違う俺の服も掛かっていたクローゼット。
    どこもかしこも 皆。 
    何もかもが皆‥。

    「何 サボってるんだ!」

    バコっと後頭部を殴られた。
    もう!薪さん‥手が早い。

    郷愁に浸る俺とは裏腹に 本人はなんの感慨も無さそうに いつもと変わらぬ いつも通りの薪さん。

    引っ越し業者がやってきて荷物を全部運び出して、ゴミも全部出して空っぽになった部屋。

    空っぽになった部屋の中。 鮮やかにここで過ごした日々が甦る。
    至る所で色んな表情の薪さんが俺に向かって‥。
    実体を持たない幻の薪さん達が俺の胸をいっぱいにする。

    とん‥っと 胸に薪さんの後頭部。
    実体の薪さんが俺の胸に背中を預けて 空っぽの部屋を見渡している。表情は窺えない。

    あ。そうだ。鍵 返さなきゃ。
    ポケットからキーケースを取り出してこの部屋の鍵を外す。

    ‥何度 この鍵を使っただろう。

    合鍵をもらった日 初めてこの鍵を使った日の記憶が、まざまざと甦る。

    薪さんに合鍵を渡す。

    「合鍵 持ち主変わらなかったな‥。」
    ぼそっと呟かれた言葉

    ‥‥!
    なんて事 言うんですか‥!

    変わる可能性があったんですか⁈と焦る俺の胸に 目を細めて身体を反転させた薪さんがすっぽりと納まる。

    合鍵を持った薪さんの手が背中に回されて。 
    暫く俺の胸に顔を埋めていた薪さんが顔を上げて、手が 背中から上に上がって。

    薪さんの手で温くなった金属が俺の首筋に当たった。
    首筋の鍵穴 薪さんの手の中であったまった合鍵が開けたのは 抑え切れない愛しさ。
    溢れ出して空っぽの部屋をいっぱいにする。 
    促されるまま 口付けた。

    この部屋での最後のキス。
    このキスが終わったら‥


    行こう。一足先に舞が待っている3人の家へ。
    2人共 もう他に帰る家は無い。
    他の家に帰らなくてもいい家。一つだけの 俺達の家へ 
     帰ろう。

    そして 新しい家で最初のキスをしよう。
    (おわり)
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏💘💒❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works