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    @810976_an

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    炎博♂
    甲斐甲斐しい介護

    #炎博
    yanbo

    夜明けの痴人 血の河を泳ぐ。
     一歩、靴の底が洗われる。もう一歩、焦げ付いた砂利がこびりつく。振り返ると一直線の足跡がどれだけ長い距離を逃げてきたのかを露わにする。真っ赤な荒野に沢山の死体が積みあがっている。それらはみな綺麗な断面をしていて、それでいて香ばしかった。物言わぬ遺体から流れるはずの血は乾いている。あんまり綺麗に斬りおとされて、焼かれて固められたから。無駄なく一太刀で首を落とされた兵士たちの断面は焼き鳥みたいにじゅうぶんに火を通されていて、だから腹がすく。あんまりじゃないか、人の死体を目の前にして腹を空かせるなんて……。けれども現実主義、或いはニヒリズムはこれらの遺体に情的価値を見出さない。死体はただの肉の塊であるから、火が通ればそりゃ焼肉パーティーだ。ドクターははあはあと息を切らしながら、涎を喉奥からとめどなく溢れさせながら、恐ろしい何者かから逃げていた。炎のにおいがする!

     朝は最悪だ。例え時計がAMを示していなくたって起床直後はぜんぶ朝。そして転寝の招く浅い眠りが悪夢を呼び寄せるのは、いつものことだった。但し、こういった悪夢は自身の死を以てぷつりと途切れてしまうのが常なのだが、今回はどうも違うようである。
    「エンカク?」
     サルカズは苦虫を嚙み潰してこちらを見下ろしていた。
     執務室の机に突っ伏していたせいか頬に違和感がある。触れると跡がついていた。顎が少し濡れていることに気付き、改めて机をじっと見つめると、恐らくドクターのものと思われる涎が小さな池を作っていた。間抜けな寝顔を晒した指揮官に呆れているのだろうか。サルカズは――エンカクは、何も言わない。卓上には空っぽになった理性剤のアンプルが何本も裸で転がっていたし、秘書の居ぬ間に意識を失い、無防備な執務室へ侵入を許している。寝首を掻くのは容易い。ドクターの視線は、高いところにあるエンカクの顔ではなく、腰に帯刀する彼の獲物に向けられていた。エンカクも同様だ。互いに互いの武器だけ見つめている。こんなところで膠着してくれるなとドクターは他力本願じみた思いを抱えている。
    「誰にやられた?」
     やがて痺れを切らし、エンカクが口を開いた。しかしその問いかけにまったく心当たりがないものだから首を傾げる。
    「誰に……ってなに。誰に?」
     頭の悪い返し方だ。
    「口走っていただろう」
    「もしかして寝言でなにか?」
    「『もうじき追いつかれる。殺される。あいつが来る。』」
     死に向かってひた走る哀れな子羊の如き台詞である。それが、まさか、エンカクの口から発されることになろうとは。てんでおかしい。急にけたけた笑いだしたドクターを見下ろす視線の冷ややかなこと。
    「それで、君が私を起こして、殺される前に助けてくれたってわけかい?」
     返事はなかった。しかしドクターの意識が夢の中でなく、現実にあることから、返答の有無など今更関係ないように思われた。
    「はは、きみ、惜しいことをしたなあ」
     ひーひー言って、息苦しくなって、すとんとドクターは大人しくなった。酸素が肺に行きわたりはじめると、脳はぼんやりしたまま自分を冷静だと勘違いし、未だ足元の不安定な自我がこの男のことを愛してやりたいと思うようになった。違う。これでは語弊がある。ドクターの頭の中で幾筋もの言い訳が組み立てられた。どれも理屈っぽく、例の夢の中で彼を支配した、人の皮を剥いだ先にあるような原色の情動に程遠いものである。飾り立てはいらないだろう。ドクターの発起は衝動的だが彼の身体を立ち上がらせた。まず目の前に立つ男の肩に、首に、情婦のように手を回した。心臓の位置に耳をくっつける。今度は処女か? 人肌に神経を真っ当に矯正される感覚の、得も言われぬ気持ち良さを終ぞこの男は味わうことがないだろう。ドクターは知恵熱とは縁のないかわいそうな生き物だった。コンピュータのように、酷使による限界を体温で伝えることのできない存在だった。大概の人間は考え過ぎると神経回路が発熱するのだけれど、ドクターの回路はと言うとしっちゃかめっちゃかに組み直されてしまうから彼はときどきおかしくなってしまう。狂人の言葉を真に受けるほどエンカクは純真ではない。けれど頬を擦りよせる男の腰を抱き寄せるとひどく嬉しそうにするから、衝動がエンカクの牙を剥かせ、二人は言葉を溶かし合う。血の味がする。ドクターは真っ赤になった舌をべろりと見せつける。鉄錆の味って、実はそんな悪いものじゃあないんじゃないだろうか。
    「なあ、そう拗ねるなよ」
     まったくの自惚れだ。しかしエンカクがそう指摘することはなかった。
    「振り返ったら悪魔の群れが行進してたんだ。そんで、その先頭に、知った顔が居たんだよ」
     今思い出しても、あんまり恐ろしくて昂ってしまう。吊り橋の上に置いてけぼりにされた心臓が自らを誤魔化している。しかしドクターからすれば、夢の結末は至って健全なようにも思えた。奪ったから奪い返される。子供の理論だが直情的なのは嫌いじゃなかった。そのほうが分かりやすいから。そしてそちらのほうが余程、このサルカズが素直になってくれるから。
    「ねえ、君に殺される夢を見たよ」
     なのに他でもないその人に心配されるのだから、わけがわからなくなって薬物の引き起こす衝動のままにまた人肌を貪った。まだ暫くぼんくらで居たくて背中に回した手に力を籠める。これに応えてくれたらどれだけ嬉しくなれるだろう。
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    落書き

    DOODLEレイ穹 現パロ 後で推敲します
    続くかも
    止まり木を見つけた 腹の底をとろ火でぐつぐつ炙る茶を一杯、二杯、景気良く流し込んでいって、気付いたころには一人になっており、やたら肌触りの良い夜風を浴びながらどことも知れぬ路地裏を彷徨っていた。
     暫くすると胃が唐突に正気を取り戻し、主に理不尽を訴えた。穹は耐えきれず薄汚れた灰色の壁と向き合ってげえげえ吐く。送風機が送る生温かさは腐乱臭を伴っているようにも思えた。その悪臭の出処は足元だ。なまっちろい小さな湖を掻きまわす人工的な風、乳海攪拌ならぬ――やめておこう。天地は既に創造されている。知ったかぶりの神話になぞらえたところで、無知と傲慢を晒すだけである。自嘲を浮かべる。
     穹少年は、穹青年となっても、その類稀なる好奇心こそ失いこそはしなかったが、加齢と共に心は老朽化していくばかり。それでもって汚れも古さも一度慣れてしまうと周囲が引いてしまうぐらいにハードルが下がってしまうもので、己のこういった行いの良し悪しを客観的に評価できるだけの頭はまだ残っているというのに、なんだか他人事みたいに流してしまう。つまるところ、泥酔の末に吐瀉物を撒き散らす男なんて情けないしありえない、真剣にそう言えるくせに、それが自分のこととなると周囲の顰蹙を買うほどに要領を得ない返事と化すのである。
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    DOODLE転生現パロ記憶あり。博が黒猫で花屋の炎さんに飼われている。博猫さんは毛づくろいが下手すぎてもしゃもしゃにされたのを自力で戻せないので、原因にブラッシングを要求しました
    ねことのせいかつ いくら朝から店を閉めているとはいえ、生花という生き物相手の職業であるためやらなければならない作業は多い。ましてや今回の臨時休業の理由は台風、取引先各所への連絡から店舗周辺の点検と補強までひと通り終わらせたときには、すでに窓の外にはどんよりとした黒い雲が広がり始めていた。


    「ドクター?」
     店の奥にある居住スペースの扉を開けても、いつものようにのたのたと走り来る小さな姿はない。しん、とした家の気配に嫌な予感を募らせたエンカクがやや乱暴な足取りでリビングへと駆け込んだとして、一体誰が笑うというのだろう。なにせあのちっぽけな黒猫はその運動神経の悪さに反して脱走だけは得手ときている。植物や薬剤をかじらないだけの聡明さはあるというのに、頑として水仕事で荒れた手のひらで撫でられねば一歩も動かないと主張する小さな生き物に、どれだけエンカクが手を焼いたことか。だがエンカクの心配をよそに、雨戸を閉めた仄暗い部屋の中で黒猫はあっさりと見つかった。キッチンの出窓、はめ殺しの小さな窓には雨戸もカーテンもないため、今にも落ちてきそうなほどの暗雲がよく見て取れた。自身が抱いているものを安堵とは決して認めないものの、やや歩調を緩めたエンカクは窓の外をじっと見つめたまま動かない黒猫の背にそっと立つ。
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    DOODLEおじ炎博、あんまり美味しくなかったのど飴の話。おじ炎さんが考えすぎている。庭園メンバーいつまでも仲良しだととても嬉しい。
    おじ炎さん一人称にした結果、おじ炎さんの認識がだいぶずれてるのでスズちゃんたちがめちゃ小さかったことになってたり鉱石病があんまり脅威じゃなかったりしてるのに博さんの体調にはすこぶる敏感で、自分で書いてて愛じゃん…て勝手にニコニコしていた。
    「だから置いていっていいよって言ったのに」
     何のことを言われているのかと尋ねられたところで、俺に返せるのは無言だけである。だが目の前の人間はといえばその無言からですら情報を引き出しあっさりと真相へとたどり着いてしまうほどの脳みその持ち主であるため、つまるところこれはただの意味のない抵抗でしかないのだった。

     鉱石病というのはそれなりに厄介な病気で、時間をかけて徐々に内臓の機能を奪っていく。そのスピードや広がりやすい箇所には個人差が大きいとされているが、やはり感染した元凶である部分、俺に取っては左肩から喉元にかけての不調が最近とみに目立つようになってきた。そもそもこんな年齢まで生きるつもりもなかったのだと言えば、目の前の妙なところで繊細な男はわかりやすく気落ちして、挙句の果てに食事量まで減らして回りまわって俺が怒られる羽目になるため口にするつもりはない。たかがサルカズ傭兵というそこらじゅうで使い捨てにされる命ひとつにまで心を割く余裕など持ち合わせてもいないくせに、固く握り込まれるその小さな拳をそこまで悪いものとは思わなくなったのは、まさしく病状の悪化のせいに違いない。決してこの男に感化されたわけではない。決して。
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