ポップコーンペアセット、コーラ2つでアップルパイを食べ終えカフェを後にしたふたりは自然と並んで歩き出す。さっきまでの軽口も落ち着き、ちょっとした沈黙が心地いい。
「映画館、こっちで合ってたっけ?」とバッキーが尋ねれば、スティーブが少し得意げにうなずく。
「うん。ほら、あそこにポスター見えてきた」
遠目にも分かるほど大きく貼り出されたクラシック映画のポスターに、バッキーはふっと笑った。
「授業で観たとき、途中ちょっと寝てたよな。俺」
「うん。でも今日の君は、ちゃんと最後まで起きててくれそうだ」
「どうだろな、途中で寝たら肩貸してくれよ?」
冗談混じりに言ったバッキーに、スティーブは少しだけ頬を赤らめながら、
「……いいけど、君が先に俺の肩に寄りかかっても、起こさないからな」
と返した。
冗談にしては、どこか本気に聞こえるその言葉に、バッキーは言葉を失って、それから小さく笑った。
「変なやつ」
上映まであと少し――
チケットをもぎってもらい、ロビーを抜けた先のシアターは、やや空席が目立つくらいの静けさだった。
ふたりは中央寄りの並び席に腰を下ろす。
薄暗い館内に流れる予告編の音に、少しずつ気持ちが映画へと向いていく。
そしてふと、視線を横に向けた。
映画が始まる直前、スティーブもまた、同じタイミングでバッキーを見ていた。
目が合った瞬間、ふたりはお互いに笑い合う――まるで、これが“ただの親友”じゃなくなる何かの予感みたいに──
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上映が終わると、館内にはエンドロールの音楽だけが静かに流れていた。
バッキーは椅子の背にもたれたまま、スクリーンをぼんやりと見つめている。
余韻のなかで、すぐには立ち上がれない。物語が胸にしんと残っていた。
「いい映画だったな」と小さくつぶやいたバッキーに、隣からスティーブの声が重なる。
「うん。君と一緒に観ると、より響く気がするよ」
その言葉に少しだけ照れながらも、バッキーは笑ってごまかした。
「はいはい。お得意の社交辞令、サンキューな」
冗談まじりの返しに、スティーブも笑う。
でもスティーブにとっては本当は、冗談なんかじゃなかった。
席を立ち、館内を出たあとも、ふたりの足取りはゆっくりだった。
夕暮れの匂いを残した夜風が、ほんのりと肌寒い。
バッキーがふと、スティーブの袖をつかむ。
「おい、寒くないか? 風邪ぶり返すなよ」
「……心配してくれてる?」
「当たり前だろ。大切な親友なんだからさ」
“親友”というその言葉に、スティーブは少しだけ目を伏せる。
――また、その距離感だ。
でも、焦らなくていい。彼はまだ、気づいていないだけ。
この温度が、いつか変わっていくことを、スティーブは静かに信じている。
「ありがとう、バッキー。でも、君がそばにいるなら……それだけで、あったかいよ」
「お、おう……? ったく、 なんだよ、それ」
バッキーは耳の先まで赤くして、わざとらしく前を向く。
スティーブは、その背中にそっと微笑みを浮かべた。
今はまだ、ただの“親友”。
でもその足元には、確かに“恋”が芽生え始めていた。
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