石乙散文 ふぅと息を吐き出せば、紫煙が外にふわりと舞った。指先にじりじりと感じる熱にそろそろ潮時かと思って、吸い殻をケースに捻じ込んだ。
「……あの」
するとそのタイミングを見計らったかのようにそう声を掛けられ、窓の桟に腰掛けていた石流は「あん?」と言って顔を向けた。声を掛けてきたのは、この部屋の主である乙骨だ。
「…石流さんの吸ってるタバコって最後に甘いんですよね?」
そういやそんな話を前にしたなと思ったから「そうだな」と頷けば、乙骨がこてりと首を傾げてくる。
「…じゃあ、今キスをしたら、甘いんですか?」
「は?」
何を言い出すんだと思ったが、乙骨は純粋に気になるようで「どうなんですか?」と言ってくる。石流は眉を寄せて「どうだろうな」と返した。
「あんまり意識したことないが、最後以外が甘くなくて、最後にそれが和らいでそう感じるだけかもしれねーし、最後だけ味わってそれを甘く感じるとは限らねーだろ」
「なるほど、そういうこともあるのか」
乙骨が口元に手を当て、頷きながらそう言うので、石流は何となく、タバコケースから1本取り出して乙骨に差し出した。
「気になるなら1本吸ってみるか?」
「あ、それはいいです」
石流の提案に乙骨は即答した。
「僕まだ未成年だし、煙いの苦手です」
「……それでよく、吸った後の俺にキスしたらなんて言い方をしたよな」
呆れたように息を吐きつつ、取り出したタバコを自分の口に咥えた。すると乙骨が「えっ」と声を漏らした。
「…吸うんですか?」
「は?」
「僕、タバコ終わるの待ってたんですけど」
まだ待たなきゃいけないんですか?みたいな少ししょんぼりとした乙骨の姿に、思わずポロリと口元からタバコが落ちた。それを慌ててキャッチして、ああくそと思いながら、それを箱に戻した。
「……待って、どうしたかったんだよ?」
そして改めて乙骨を見ながらそう言えば、乙骨は瞬きをした後、ほんのりと笑って。
「……キス、したいです」
「結局するんじゃねーかよ…」
「でも吸いながら出来ないし、吸っている間の口としたくないです」
だって甘くないでしょ?
そんな風に言いながら、首に腕を回してくる乙骨に、石流も違いねぇやと言いながら、乙骨の背中に腕を回し、そっと唇を落とした。