石乙散文「乙骨、大丈夫か~?」
「うー…はい……」
ベッドの上でぐったりと倒れ込んでいる乙骨は石流の呼び掛けに対して、全然大丈夫ではない声でそう返してきた。目隠し教師だかにしごかれたらしい乙骨は反転術式の使いすぎて呪力が目に見えて少なかった。まぁどうしてもの時はデカブツことリカを呼び出して呪力の供給は受けられるようだが、リカちゃんに渡してる呪力を無駄遣いしたくないということで、乙骨はあくまで自然回復を待っているようだった。
仮にも自分は乙骨の監視対象なのだが、そんな自分の前でこんな姿さらしていいのかよ、と石流は内心思わないでもないのだが、今更すぎるし、こんな状態の乙骨に色々な意味でどうこうするつもりはなかった。
「まぁ……ゆっくり休めよ、後で消化にいいものでも作ってきてやるから」
「う……はい……」
そうやって弱々しくも頷く乙骨に対し、石流はそっとその頭を撫でた。するとそれが気持ちいいのか、乙骨がその手に擦り寄るように頬ずりしてきた。
「ん……いし、ごおり、さん……」
そしてうわごとのように石流のことを呼んでくるものだから、ドキンと心臓が跳ねた。
(だぁ~~~~なんでこんな時に限って、そんな色っぽい声で呼ぶんだよ!!)
表情も気怠げで、汗でしっとりと濡れた肌が、首元からもチラリと見える。バカヤロウ、見るんじゃねぇと乙骨から視線を離し、石流は立ち上がろうとした。
「じ、じゃあ…俺は飯でも作ってくるから…」
そう言って、乙骨に触れた手も離そうとすれば、それを乙骨が引き止めるようにぎゅっと握った。
「…っ、…!」
「…まっ、て……」
乙骨が眉をハの字にして、苦しそうに表情を歪めた。
「その……そばに、いてくれませんか…?」
そして潤んだ目でそんなことを言ってくるものだから、その胸にときめきの矢がグサリと刺さり、石流が「ぐはぁ!」と狼狽えた。
ヤバいヤバいこれはヤバい。でも、こんな状態の乙骨から離れられるワケもない。
「……分かったよ」
石流が仕方なく、再びベッドの上に腰を下ろせば、乙骨がそっとその太股に手を伸ばしてくる。
「……あの」
「あ?」
「ここに……頭乗せてもいいですか?」
石流の太股を撫でながらそんなことを言ってくる乙骨に、石流の頭の中で何かがパーンと弾けた。
(膝枕を……ご所望だと……!?)
「いや……俺の足とか……硬いぞ?」
石流が慌ててそういうが、乙骨は石流の太股を撫でながら「そんなこと、ないですよ…」という。
「石流さんの、きんにく、柔らかくて、きもちいいから、きっと、きもちいいです…」
まるで石流の筋肉に恋でもしているような、きゅんとした表情でそういう乙骨に、石流は内心「ぐはー!!かわいすぎなんだがーー!!??」と叫んでいた。
これはやばい、絶対ダメだろと思うのだが、憂い顔の乙骨に「やっぱりダメですよね…」なんて言われたら、ダメだなんて言えるはずもなく。
「……わーったよ、来い」
乙骨が頭を乗せやすいように座り直して、太股をパンと叩きながらそう言えば、乙骨は嬉しそうに微笑んで「ありがとうございます」と言い、もそもそと身体を動かして、ごろんと石流の太股に頭を乗せて寝転んだ。
すぐ真下で、乙骨が頭を乗せて、すうすうと穏やかに呼吸を刻んでいる。その様子も顔もかわいくて、石流は全然穏やかな気持ちになれない。
加えて。
乙骨が身動ぎ「ん……」と声を漏らした後。
「いしごおり、さんの…ふともも、すき……」
気持ちよさそうにそんなことを呟くものだから、思わず頭を抱えた。
(……これで手を出せねぇとか、どんな拷問だよ……)
どうか僅かに反応してしまっているムスコに、乙骨が気付きませんようにと願いながら、石流は自分の気持ちを諫めるように、深く息を吐き出した。
同棲ガチャお題「乙骨の体調がイマイチそうだからあまり変なことしないでおこう。そう心の中で誓った日に限って乙骨がやたらと甘えてくるものだから、石流は理性を保つのが大変です。」より