海に行ったのに泳がず帰った日の話 朝、アラームの音で目を覚ます。コーヒーを淹れて、テレビを付けるとニュースが流れる。働き始めてからのルーティンのようなものだ。
『今日から八月となりますが、厳しい暑さが続きます。』
聞き流していたアナウンサーの声が、八月と言った音だけが嫌にはっきりと耳に入った。
壁の薄いアパートでは、外で鳴く蝉の声までうるさい程に聞こえてくる。夏だなと思うと同時に、自然と夏に生まれた友人を思い出してしまうのはもうどうしようもない。
携帯を開くと、ちょうど今思い浮かべたヤツからメールが来ていた。
『今日仕事終わったらいつもの喫茶店!』
この男を友人と呼んでいいのかどうか、もう何年も決めかねている。
中学を卒業してから、バイク屋で整備の仕事を始めると同時に不良チームも卒業した。
5223